相続・手続き 2026-09-09

相続税申告の流れ ― 10か月で何をどの順にするか、税理士に頼むかの目安

遺産が基礎控除を超えそうなら、相続開始から10か月以内に相続税の申告と納付が要ります。財産の洗い出しと評価、遺産分割の確定、申告書の作成、納付。この四つを10か月に収める段取りと、申告が必要なのに見落とされやすい場合(配偶者控除や小規模宅地の特例を使ってゼロになる場合)、税理士に頼む目安と報酬の相場、期限に間に合わないときの手当てを整理します。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → [名義を変える・税金(10か月〜3年)] → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

申告期限の三週間前に、電話が来ました。「税理士に頼んでいたんですが、財産の一覧に、母名義の定期預金が入っていなくて」。母は亡くなった父の配偶者で、その定期預金は900万円。母は「自分の名義だから自分のもの」と思っていて、税理士にも見せていなかった。中身は、父の退職金を母名義で預けたもので、名義預金です。三週間前に、財産が900万円増えた。この記事は、その三週間の話から始めます。

相続税の基礎控除の記事で、申告が要るかどうかの線を書きました。この記事は、要る側に入ったときの話です。相続税の申告は、相続開始(亡くなった日)の翌日から10か月以内に、亡くなった人の住所地を管轄する税務署に申告書を出し、同じ期限までに納付します。10か月は長そうで短い。何をどの順にするかを、実務の段取りで書きます。

最初の三か月は、財産の洗い出しです。相続手続きの全体像の記事で書いた「財産の把握」と同じ作業ですが、相続税では「亡くなった日の時点の価額」で全部を拾う必要があります。預貯金は残高証明書(亡くなった日現在)、不動産は固定資産税評価証明書と登記事項証明書、株式は証券会社の残高証明、生命保険は支払通知、借入金は残高証明。家族名義の預金(名義預金の記事)と、亡くなる前数年の贈与も対象です。この段階で、財産の一覧表を作ります。相続放棄の記事で書いた3か月の期限もこの時期に重なるので、借金が多い相続は先に判断します。

次の三か月で、財産の評価と遺産分割です。土地は路線価図の記事で書いた路線価方式(または倍率方式)で評価し、建物は固定資産税評価額、上場株式は亡くなった日の終値と、亡くなった月・前の月・その前の月それぞれの終値の月平均、この四つのうち一番低い額、という具合に、財産ごとに評価のルールが決まっています。土地の評価は、形や道路との関係で補正が入り、旗竿地や間口の狭い土地は減額になるので、ここが税理士の腕の見せどころです。並行して、誰が何を取得するかを決めます。小規模宅地の特例と配偶者の税額軽減は、取得者が決まっていないと使えないので、申告期限までに遺産分割協議を終えることが目標です。

七か月目から九か月目で、申告書を作ります。相続税の申告書は第1表から第15表まであり、財産の種類ごとに明細を付け、特例の適用を記載します。税額の計算は、遺産の総額から基礎控除を引き、法定相続分で分けたと仮定して税率を掛けて総額を出し、それを実際の取得割合で按分する、という独特の手順です。配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)、未成年者控除、障害者控除などをここで引きます。

最後の一か月で、納付です。相続税は現金一括納付が原則で、金融機関や税務署の窓口、e-Taxからのダイレクト納付などで払います。遺産の大半が不動産で現金がない場合は、延納(年賦で払う、利子税がかかる)や物納(不動産などで納める、要件が厳しい)の制度がありますが、申請が要り、簡単には認められません。相続した預貯金を納税に充てるつもりなら、預貯金の記事で書いた解約手続きを早めに終えておく必要があります。

見落とされやすいのが、「特例を使って税額がゼロになる場合も申告が要る」ことです。配偶者の税額軽減も、小規模宅地の特例も、申告書を出して初めて適用されます。基礎控除を超える遺産があって、配偶者が全部取得するから税金はゼロ、という家でも、申告しなければ特例は使えず、本来の税額に無申告加算税がつきます。「申告が要らない」のは、特例を使う前の評価額で基礎控除内に収まる場合だけです。

相続税申告の10か月の段取り

  1. 〜3か月 財産の洗い出し(残高証明・評価証明・保険・借入・家族名義の預金)(相続放棄の3か月もこの時期)
  2. 3〜6か月 財産の評価、遺産分割協議(特例は取得者が決まらないと使えない)
  3. 7〜9か月 申告書の作成(第1〜15表)(配偶者の税額軽減・小規模宅地の特例を記載)
  4. 〜10か月 申告と納付(現金一括が原則)(延納・物納は申請が要る)
  5. その後 分割が決まれば更正の請求(3年以内)(税務調査は1〜2割程度に入る)

税理士に頼むかどうかの目安を書きます。遺産が預貯金と自宅だけで、相続人が配偶者と子、特例を使わなくても基礎控除をわずかに超える程度なら、自分で申告する人もいます。税務署の相談窓口と国税庁の申告書作成コーナーで、作れなくはありません。ただ、土地の評価と特例の適用は、判断を誤ると数十万円から数百万円の差が出ます。実務での線は、土地がある、特例を使う、遺産が1億円を超える、のどれかに当たれば税理士。報酬の相場は、遺産総額の0.5〜1%程度が目安で、土地の筆数や相続人の数で加算があります。5,000万円の遺産なら25〜50万円前後。特例で減る税額と比べれば、多くの場合は頼むほうが安くつきます。

自分で申告するか、税理士に頼むかの目安
状況目安
預貯金と自宅のみ、相続人は配偶者と子、基礎控除をわずかに超える自分でも可能(税務署の相談窓口を使う)
土地がある(評価の補正がある)税理士
小規模宅地の特例・配偶者の税額軽減を使う税理士(適用要件の判断)
遺産が1億円を超える、非上場株式がある、貸家がある税理士
報酬の目安遺産総額の0.5〜1%程度(土地の筆数・相続人数で加算)

期限に間に合わないときの手当ても書いておきます。遺産分割が決まらない場合は、法定相続分で分けたと仮定していったん申告・納付し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えます。分割が決まってから、特例を適用して更正の請求をすれば、払いすぎた分が戻ります。財産の把握が終わらない場合も、分かっている範囲で期限内に申告し、あとで修正申告する。期限を過ぎて無申告になることだけは、避けてください。

三週間でやったことです。まず、税理士に連絡し、900万円を財産に足して評価をやり直す。相続財産は当初の6,200万円から7,100万円に。相続人は母と子二人で基礎控除4,800万円、課税される額は2,300万円。遺産分割は、母がこの定期預金を含めて1,420万円、子二人が合わせて5,680万円。母の分は、配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで無税)で税額ゼロのまま。ただし、子二人の税額は合計約128万円から約190万円に増えました。相続税は、まず家全体の税額を出して、それを受け取った割合で分ける仕組みなので、母が受け取る預金でも、全体が増えれば子の税額も上がります。申告書の第11表(財産の明細)と第5表(配偶者の税額軽減)を作り直して、期限の四日前に提出しました。税理士の追加報酬は5万円。

もし、900万円が申告に入っていなかったら。税務調査で見つかると、足りなかった税金(子二人で約62万円)に、過少申告加算税(10%で約6万円)と延滞税が乗ります。わざと隠していたと見られると、もっと重くなります。その預金には配偶者の税額軽減が使えなくなって母にも約30万円の税額が出て、加算税は35%の重加算税に変わります。追加の税額が約92万円、重加算税が約32万円で、合わせて120万円を超えます。三週間前の電話が、それを防ぎました。名義預金は、税務調査で一番指摘される項目だと本文の最後に書きましたが、指摘される理由は、家族が「自分の名義だから」と思い込んで、財産の一覧に載せないからです。

段取りの話も一つ。この家では、三か月目に財産の一覧を作った時点で、私が母に「ご自身の名義の預金も、全部教えてください」と聞いていれば、三週間前の電話はありませんでした。聞き方が足りなかった。以来、財産の洗い出しでは、亡くなった人の名義だけでなく、配偶者と子と孫の名義の預金を、全部出してもらっています。「誰の名義か」ではなく「誰のお金だったか」で聞く。10か月の段取りの最初の三か月で、この質問を一つ足すだけで、最後の三週間が変わります。

相続税の申告があった相続のうち、家に来る税務調査(実地調査)が入るのは1割弱、電話や文書での問い合わせまで含めると2割弱です(国税庁が毎年公表している件数から)。調査で最も指摘されるのが、名義預金と生前贈与の申告漏れ。財産の洗い出しを丁寧にすることが、10か月の段取りの中で一番の税務調査対策です。

期限の四日前に出した申告書は、900万円を含んで、母の税額ゼロ、子二人で合計約190万円の納付でした。三週間前の電話がなければ、あとから加算税と延滞税、隠したと見られれば120万円を超える追加でした。「財産の洗い出しを丁寧にすることが一番の税務調査対策」と最後に書きました。丁寧に、の中身は、家族の名義の預金を「誰のお金か」で聞くこと。それ一つです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-05 確認)。

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