相続・手続き 2026-09-09

相続税の基礎控除と申告の要否 ― うちは相続税がかかるのか、10分で当たりをつける

相続税がかかるのは、遺産が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超える家だけです。基礎控除の計算、遺産に含めるもの・含めないもの、土地の評価の当たりのつけ方、そして「税額がゼロでも申告が要る」特例の落とし穴。税理士に相談する前の下調べとして、行政書士・宅建士の立場で整理します。

目次を見る →

この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → [名義を変える・税金(10か月〜3年)] → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「税理士さんに相談する前に、かかるかどうかだけ知りたいんです」。母を亡くした男性は、固定資産税の課税明細書と通帳三冊と生命保険の証券を、テーブルに並べました。相続人は男性と妹の二人。私は電卓を出して、十分で答えを出しました。「かかりません。ただし、申告は要ります」。この「かからないけれど申告は要る」という答えが、相続税の入口で一番分かりにくいところです。この記事は、その十分の計算の話です。

相続の相談で必ず聞かれるのが「うちは相続税がかかりますか」です。答えの入口は一つの式です。相続税には基礎控除があり、遺産の総額がその額以下なら、相続税はかからず、申告も原則として不要です。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」。相続人が配偶者と子二人の三人なら、3,000万円+1,800万円で4,800万円です。遺産がこれを超えなければ、相続税の話はここで終わります。

基礎控除の額 ― 法定相続人の数で決まる
基礎控除の額 ― 法定相続人の数で決まる相続人1人3,600万円相続人2人4,200万円 この記事の家相続人3人4,800万円相続人4人5,400万円

相続人1人 3,600万円、相続人2人 4,200万円(この記事の家)、相続人3人 4,800万円、相続人4人 5,400万円

3,000万円+600万円×法定相続人の数。遺産の総額がこの額以下なら、相続税はかからず申告も不要です(特例を使う場合を除く)。

法定相続人の数え方には注意点があります。相続放棄をした人も数に入れます。養子は、実子がいれば一人まで、実子がいなければ二人まで数えます。相続人の範囲の記事で書いた「誰が相続人か」を先に確定させないと、この式は計算できません。

次に、遺産に何を含めるかです。現金、預貯金、土地、建物、株式、投資信託、ゴルフ会員権、自動車、貴金属。これらは当然入ります。見落とされやすいのが、生命保険金と死亡退職金です。受取人が指定された生命保険金は遺産分割の対象ではありませんが、相続税では「みなし相続財産」として含めます(ただし500万円×法定相続人の数までは非課税)。亡くなる前3年以内(2024年以降の贈与は段階的に7年以内)に相続人へ贈与した財産も足し戻します。逆に、借金や未払いの税金、葬儀費用は差し引けます。

一番の不確定要素は土地の評価です。相続税の土地評価は路線価で行い、路線価図の記事で書いたとおり、公示価格のおおむね8割の水準です。固定資産税の課税明細書に載っている評価額(公示価格の7割水準)を1.14倍すると、路線価ベースの概算に近づきます。当たりをつけるだけなら、課税明細書の土地の評価額×1.14、建物はそのまま、で足ります。さらに、亡くなった人が住んでいた土地を配偶者や同居の子が相続する場合は「小規模宅地等の特例」で330平方メートルまで80パーセント減額できるので、自宅の土地は多くの家で大幅に圧縮されます。

ここで、落とし穴を一つ。小規模宅地等の特例や、配偶者の税額軽減(配偶者は1億6,000万円または法定相続分まで無税)は、「申告して初めて使える」特例です。特例を使った結果として税額がゼロになる場合でも、申告書を出さなければ特例は適用されず、基礎控除を超えた分に税金がかかります。「特例を使えば税金はゼロだから申告しなくていい」は間違いです。基礎控除を超えるが特例でゼロになる家は、申告が必要な家です。

例 ― 相続人2人(基礎控除4,200万円)、自宅の土地2,400万円(路線価ベースの概算)・建物420万円・預金1,650万円
遺産の概算(特例なし)土地 2,400万円 / 建物 420万円 / 預金 1,650万円
小規模宅地等の特例(土地80%減)土地 480万円 / 建物 420万円 / 預金 1,650万円 / 減額 1,920万円
基礎控除4,200万円

特例なしの4,470万円は基礎控除4,200万円を270万円超える。特例後の2,550万円は基礎控除以下。ただし特例は「申告して初めて使える」ので、この家は申告が必要。

申告の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。この期間内に、相続人の確定、財産の評価、遺産分割協議、申告書の作成をすべて終える必要があります。分割がまとまらなくても申告は必要で、その場合はいったん法定相続分で申告し、分割後に修正します(ただし未分割のままだと小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は原則使えず、「3年以内の分割見込書」を出しておく必要があります)。

申告が要るか・要らないか(2026年9月時点)
遺産の総額特例税額申告
基礎控除以下使わないゼロ不要
基礎控除超小規模宅地等・配偶者の税額軽減でゼロゼロ必要(申告しないと特例が使えない)
基礎控除超特例を使っても残るあり必要(10か月以内)

実務での順番はこうです。まず相続人の数を確定して基礎控除を出す。次に、課税明細書と通帳と保険証券から遺産の概算を出す。土地は評価額×1.14、自宅なら特例の80パーセント減を仮に入れる。この概算が基礎控除の半分以下なら、相続税の心配はほぼ要りません。基礎控除に近い、または超えるなら、10か月の期限を意識して早めに税理士へ。基礎控除ぎりぎりの家ほど、評価の仕方で結果が変わるので、自己判断で「かからない」と決めないでください。

十分の計算を、そのまま書きます。基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円。財産は、課税明細書の土地の評価額が2,100万円で、路線価ベースに直すために1.14倍して約2,400万円。建物は評価額420万円のまま。預金は三冊合わせて1,650万円。生命保険は800万円で、非課税枠が500万円×2人=1,000万円あるので、800万円は全額非課税、ゼロ。合計は2,400万円+420万円+1,650万円で4,470万円。基礎控除4,200万円を270万円超えています。

ここで特例です。男性は母と同居していて、この家に住み続ける。小規模宅地等の特例の対象で、土地2,400万円が80%減額されて480万円。合計は480万円+420万円+1,650万円で2,550万円。基礎控除の中に収まり、税額はゼロ。ただし、特例を使う前の4,470万円は基礎控除を超えているので、申告書を出さないと特例は使えず、270万円に対して相続税がかかります。税額は約27万円。申告すればゼロ、申告しなければ27万円と無申告加算税。「かからないけれど申告は要る」は、この270万円のことです。

税理士に頼んだ場合の費用も、その場で伝えました。財産4,470万円、土地一筆、相続人二人で、申告の報酬は約18万円。27万円の税金を避けるために18万円を払う計算ですが、それだけではなく、特例の適用要件(同居の事実、申告期限まで住み続けること、など)を書類で整える作業が入ります。男性は「自分でやってみる」と言い、税務署の相談窓口に二回通って、申告書を自分で出しました。自分でできた理由は、財産が預金と自宅だけで、土地が一筆で形が整っていて、相続人が二人だったからです。土地が三筆あったら、頼んでいたと思います。

相続税の申告は税理士の業務で、行政書士にも宅建士にもできません。この記事は、税理士に相談する前に自分で当たりをつけ、相談の場で何を聞けばいいかを分かった状態にするためのものです。

電卓の十分で出た答えは、「4,470万円、特例で2,550万円、税額ゼロ、申告は要る」の一行でした。この記事の一つ目の図の例は、この家の数字です。「特例を使えばゼロだから申告しなくていい」の間違いは、270万円の差で27万円になります。十分で当たりをつけたら、その答えが「特例でゼロ」なら、申告の準備を始めてください。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-05 確認)。

あわせてどうぞ

解説記事一覧