学び・資格 2026-09-29
行政書士試験の民法の攻め方 ― 択一9問と記述2問、76点を「要件と効果」で取る
行政書士試験の民法は、例年、択一式9問(36点)と記述式2問(40点)で76点。行政法に次ぐ大きな科目ですが、範囲は総則・物権・債権・親族相続と広く、テキストの厚さで止まる人が多い科目です。条文を要件と効果に分けて読む方法、記述式の40字の型、2026年4月施行の家族法改正の扱い、試験までの6週間の配分を書きます。
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「民法のテキストが、行政法の倍くらい厚いんです。半分まで来て、最初のほうを忘れています」。働きながら行政書士試験を受ける方から、9月の終わりに受けた相談です。試験は11月8日。あと6週間でした。
行政書士試験の法令等科目は、憲法・行政法・民法・商法・基礎法学から出ます。試験研究センターは科目ごとの問題数を公表していませんが、例年の配分では、民法は5肢択一式が9問(1問4点で36点)、記述式が2問(1問20点で40点)、合わせて76点です。300点満点の4分の1で、行政法に次ぐ大きさです。合格には、法令等で満点の50%以上、基礎知識で40%以上、全体で60%以上(180点)が要ります。
民法の範囲は、総則(人・意思表示・代理・時効)、物権(所有権・占有・担保物権)、債権(契約・債務不履行・不法行為)、親族・相続の四つに分かれます。どこからでも出るので、テキストを前から順に読むと、読み終わる頃に最初を忘れます。相談の方が止まっていたのは、まさにそこでした。
そこで勧めたのが、条文を「要件」と「効果」に分けて読むことです。例えば177条は、不動産の物権の変動(要件:売買などで持ち主が変わった)は、登記をしなければ第三者に対抗できない(効果)、と読めます。条文の読み方の記事で書いたとおり、ほとんどの条文はこの二つに分けられます。択一の肢は、要件を一つずらすか、効果を入れ替えて作られていることが多いので、要件と効果で読めていれば、どこがずれているかが見えます。
要件と効果で読むと、似た条文の違いが表になります。例えば、意思表示に問題があったときに、事情を知らずに取引に入ってきた第三者を守るかどうか。心裡留保(93条)と虚偽表示(94条)は「善意」の第三者に対抗できない。錯誤(95条)と詐欺(96条)は「善意でかつ過失がない」第三者に対抗できない。強迫(96条)は第三者にも対抗できる。2020年施行の改正で、錯誤の効果が「無効」から「取り消すことができる」に変わり、心裡留保にも第三者の保護が条文で入りました。択一の肢は、この「善意」と「善意無過失」を入れ替えて作られることがよくあります。
記述式は、問題文の事例について、40字程度で答えます。型は「誰が、誰に対して、どんな根拠で、何を請求できるか(できないか)」です。例えば、Aが自分の土地をBに売り、Bが登記をしないうちに、AがCにも売ってCが先に登記をした。BはCに所有権を主張できるか。答えは「Cが先に登記を備えたため、Bは登記がなければCに所有権を対抗できない。」のように、事例の人物名と、要件・効果の言葉で書きます。記述は部分点があるとされていて、キーワード(登記、対抗、第三者)が入っていれば、完全でなくても点が付くことがあります。行政書士の記述対策の記事で、採点の考え方を書いています。
左に土地の売主A。Aから右上のBへ「売買(登記なし)」の矢印、右下のCへ「売買・先に登記」の矢印。Cの横に登記の書類。下に、答えの型「Cが先に登記を備えたため、Bは登記がなければCに所有権を対抗できない」。
要件(不動産の物権の変動)と効果(登記がなければ第三者に対抗できない)を、事例の人物名で書く。
債権の分野は、2020年4月施行の債権法改正の後の条文で勉強します。古いテキストや古い過去問の解説には、改正前の「瑕疵担保責任」や、職業ごとに違った短期の消滅時効が残っていることがあります。今は、売主の責任は「契約不適合責任」、消滅時効は原則として「権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年」、法定利率は年3%から始まる変動制です。過去問を解くときは、年度を見て、改正前の問題なら解説を条文で読み替えます。
親族・相続の分野は、実務で毎日のように使う部分でもあります。相続人の範囲と法定相続分(配偶者と子なら2分の1ずつ、配偶者と親なら3分の2と3分の1、配偶者と兄弟姉妹なら4分の3と4分の1)、遺留分(原則として遺産の2分の1、親だけが相続人なら3分の1、兄弟姉妹には無い)、2020年に始まった配偶者居住権。このあたりは、相続人の範囲の記事や遺留分の記事で、実際の家の数字に当てはめて書いています。条文を読んだあとに具体例で確かめると、記憶に残ります。
2026年度の試験は、2026年4月1日現在で施行されている法令から出ます。2026年4月に施行された家族法の改正(離婚後の共同親権、法定養育費、財産分与の請求期間の5年への延長など)は、この試験の範囲に入ります。出題されるかどうかは分かりませんが、改正点は出題者が注目しやすい部分です。KuraLabの離婚の棚に、施行後の制度で書いた記事があるので、条文と一緒に目を通しておくと、親族の分野の復習にもなります。
相談の方と組んだ6週間の計画です。平日1時間、休日3時間で、1週間に11時間、6週間で66時間。そのうち民法に使えるのは、行政法の時間を守ったうえで週4時間、合計24時間と決めました。24時間を、総則6時間、物権6時間、債権8時間、親族相続4時間に分けます。債権が一番広く、択一でも記述でも出やすいので多めにしました。
| 分野 | 時間 | 重点 |
|---|---|---|
| 総則(意思表示・代理・時効) | 6時間 | 代理と時効は択一・記述の両方で出やすい |
| 物権(所有権・担保物権) | 6時間 | 二重譲渡と登記(177条)、抵当権 |
| 債権(契約・債務不履行・不法行為) | 8時間 | 一番広い。2020年施行の改正後の条文で |
| 親族・相続 | 4時間 | 2026年4月施行の改正点を条文で確認 |
| 合計 | 24時間 | 目標:択一24点+記述20点=44点(76点中) |
目標点も先に決めました。択一9問のうち6問(24点)。記述2問は、それぞれ部分点で半分(合計20点)。合わせて44点です。76点の6割弱ですが、行政法で目標の点が取れていれば、全体の180点に届く計算になります。民法で満点を狙うより、行政法を落とさないほうが合格に近い。行政法の攻め方の記事で書いた配分と、同じ考え方です。
記述式の練習の仕方も決めました。過去問の記述を1日1問、ストップウォッチで10分。まず問題文から人物と事実だけを抜き出し、どの条文の要件に当たるかを書き出す。次に40字程度で答えを書き、字数を数える。最後に解答例と比べて、入っていないキーワードに線を引く。週末に、線を引いたキーワードだけを見直します。10分×6週間で、記述の型が手に残ります。
勉強の道具は、過去問を一肢ずつ○×にして、確信度を付けて回す方法です。民法は、同じ論点(二重譲渡、代理、時効、債務不履行)が形を変えて何度も出ます。確信のない肢だけを回し、そのつど条文を要件と効果で読み直すと、「最初のほうを忘れる」問題が小さくなります。
帰り際、相談の方は「厚さで止まっていたんですね」と言いました。民法は厚い科目ですが、条文一つひとつは要件と効果の二つでできています。6週間でテキストを一冊読み切るのではなく、過去問に出た条文を、二つに分けて読み直す。それを24時間続けると、厚さは問題ではなくなります。試験の日まで、条文を一つ読むたびに、要件はどこまでで効果は何かを、声に出して言ってみてください。それが、記述式の40字の下書きにもなります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-29
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-29 確認)。
- 行政書士試験研究センター 試験のご案内 ― 法令等は憲法・行政法・民法・商法・基礎法学、択一式と記述式(40字程度)。法令は試験年度の4月1日現在施行のもの。合格基準
- e-Gov法令検索 民法 ― 177条(不動産の物権変動の対抗要件)など条文の確認