探偵・調査 2026-10-29
結婚したあとで、相手の経歴がうそだと分かったら ― 婚姻の取消し(気づいてから3か月)と離婚のどちらにするか、自分で取れる書類、探偵に頼める範囲
勤め先や収入、離婚歴を偽られていたと結婚後に気づいたとき、だまされた結婚は取り消せますが、気づいてから3か月で権利が消え、収入の誇張くらいでは認められにくいのが実情です。取消しと離婚で何が違うのか、配偶者だから自分で取れる戸籍などの書類、借金の督促状が届いたときの考え方、探偵が確かめられる行動の事実と、調べられないことを、24年探偵業を営む運営者が仮の計算例つきで書きます。
「夫の会社に電話したら、そういう社員はいないと言われました」。結婚して4か月の、30代の女性からの相談でした。夫は、外資系の会社に勤めていて、年収は1,000万円を超えると話していました。ところが、夫あての督促状が届いたのをきっかけに会社へ電話すると、在籍していないという答えだったのです。(相談の例は、人物が分からないよう、いくつかの相談を組み合わせて書いています。)
私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目になります。結婚前の身元の確認については別の記事に書きましたが、「結婚したあとで分かった」という相談も少なくありません。勤め先、収入、学歴、離婚歴や子どもがいること、借金。こういうとき、相手を調べるより先に考えてほしいのは、時間のことです。
だまされて結婚した人は、家庭裁判所に婚姻の取消しを請求できます(民法747条1項)。ただし、この権利は、だまされたと気づいてから3か月が過ぎるか、気づいたうえで結婚を続けると認めた(追認した)ときに消えます(747条2項)。数え始めは結婚した日ではなく、気づいた日です。まず、気づいた日をメモしておいてください。
取消しの3か月は「気づいた日」から数える(仮の日付)
- 2026年5月 結婚(婚姻届)(この日からではない)
- 2026年9月10日 うそに気づく(ここから数える。日付をメモする)
- 2026年12月10日ごろ 取消しを請求できる期間の終わりの目安(期間の正確な数え方は弁護士に確かめる。追認すると、その時点で権利は消える)
ただ、取消しは認められるハードルが高い手続きです。認められるのは、そのうそがなければ結婚しなかったと言えるほど重要な点で、だまされた場合です。裁判例を見ると、収入や職業を実際よりよく言っていた程度では、取消しまでは認められにくい傾向があります。結婚する二人は、多かれ少なかれ自分をよく見せ合うものだからです。
取消しが認められても、結婚が初めから無かったことにはなりません。取消しの効き目は、将来に向かってだけ生じます(748条1項)。財産分与や子どもの親権などは、離婚と同じ決まりが使われます(749条)。つまり、取消しでも離婚でも、その後の暮らしの決まり方は大きくは変わりません。違うのは、戸籍に「婚姻取消」と書かれることと、結婚で得た財産の返し方の決まりがあることです(748条2項・3項。うそを知っていた側は、得た利益の全部を返し、相手に損害があれば賠償します)。
| 婚姻の取消し | 離婚 | |
|---|---|---|
| 期限 | だまされたと気づいてから3か月(追認すると消える) | なし |
| 認められやすさ | 結婚を決めた重要な点でのうそが必要。収入の誇張くらいでは認められにくい | 話し合いで合意すれば理由は問われない |
| 手続き | 家庭裁判所(話し合いでは決められない) | 協議・調停・裁判 |
| 効き目 | 将来に向かってだけ(748条1項) | 将来に向かって |
| 財産分与・親権 | 離婚と同じ決まり(749条) | 離婚の決まり |
| 戸籍の記載 | 婚姻取消 | 離婚 |
| 慰謝料 | 請求できる場合がある | 請求できる場合がある |
実際には、多くの人が離婚を選びます。話し合いで合意できれば協議離婚、できなければ家庭裁判所の調停です。調停でもまとまらず裁判になったときは、「婚姻を継続し難い重大な事由」(770条1項)があるかが問われます。重大な経歴のうそや、それを隠すための借金は、その事情の一つとして主張できます。うそで受けた心の傷については、取消しでも離婚でも、慰謝料を請求できる場合があります(709条・710条)。
どちらにするかを決めるために、まず事実を確かめます。知っておいてほしいのは、結婚したあとは、自分で取れる書類が増えるということです。夫婦は互いに配偶者なので、相手の戸籍謄本を請求できます(戸籍法10条1項)。相手が結婚する前に入っていた戸籍(除籍や改製原戸籍も含みます)もたどれます。そこには、前の結婚と離婚、認知した子がいれば、その記録が載っています。2024年3月1日からは、本籍地でなくても、近くの市区町村の窓口で取れるようになりました(広域交付。請求する本人が窓口に行く必要があります)。
収入は、市区町村の所得証明書(課税証明書)で分かります。同じ世帯の家族なら請求できる扱いの市区町村が多いですが、扱いは市区町村ごとに違うので、窓口で確かめてください。借金は、信用情報機関(ローンやカードの利用の記録を集めている機関)の記録で分かりますが、開示を請求できるのは本人だけです。相手に開示してもらい、見せてもらうしかありません。学歴も、卒業証明書を取れるのは本人です。
借金について、もう一つ大事なことがあります。結婚しても、配偶者が自分の名前で借りたお金を払う義務はありません。例外は、自分が保証人になっている場合と、食費や家賃のような日常の家事のための借金(761条)です。督促状が自分の家に届いても、自分が契約した人や保証人でなければ、払う前に契約書の名義を確かめてください。
相手が書類を見せない、話が変わる、というときに、初めて調査が候補に入ります。探偵が確かめられるのは、相手が毎朝どこへ行っているか、名乗っている会社に本当に通っているか、別の家に帰っていないか、といった行動の事実です。公道からの観察と、誰でも見られる情報の確認が中心です。
一方で、探偵にできないこともはっきりしています。他人の戸籍や住民票を取ること、信用情報や銀行口座を調べること、前科を調べること、身分を偽って会社や銀行に問い合わせること。どれもできません。探偵業法6条は、探偵だからといって、ほかの法律で禁じられたことをしてよいわけではない、と定めています。「何でも調べられます」という広告を見たら、どういう方法で調べるのかを先に聞いてください。
| 確かめたいこと | 自分で取れる・見られるもの | 探偵が確かめられること | 探偵にもできないこと |
|---|---|---|---|
| 離婚歴・子ども | 相手の戸籍謄本と、結婚前の戸籍(配偶者なので請求できる) | ー | 他人の戸籍を取ること |
| 収入 | 所得証明書(同じ世帯なら取れる市区町村が多い) | ー | 勤め先に給料を問い合わせること |
| 勤め先 | 社員証、源泉徴収票、給与明細を見せてもらう | 毎朝どこへ通っているか | 身分を偽って会社に電話すること |
| 借金 | 相手に信用情報を開示してもらう | ー | 信用情報・銀行口座を調べること |
| ほかの家庭・交際相手 | ー | どこに帰っているか、誰と会っているか | 家に入る、郵便物を開ける、スマホを見る |
冒頭の女性の場合、戸籍は本人が取れました。夫の結婚前の戸籍をたどると、離婚歴が一度あり、前の結婚で子が一人いることが分かりました。勤め先は、調査で確かめることにしました。朝の行動を3日見たところ、夫が毎朝向かっていたのは、名乗っていた会社ではなく、別の会社の倉庫でした。派遣の社員として働いていたのです。
調査の費用を、仮の数字で計算してみます。調査員2人、1日4時間、3日間で、調査員1人1時間あたり7,000円なら、7,000円×2人×4時間×3日で16万8,000円です。報告書の作成料や交通費が別にかかることもあり、費用の組み方は事務所ごとに違います。この例では「勤め先に通っているか」の一つに絞ったので、3日で答えが出ました。「隠していることを全部」という頼み方は、何日かけても終わりません。
| 項目 | 数字 | 金額 |
|---|---|---|
| 調査員1人1時間あたり | 7,000円 | |
| 調査員の人数 | 2人 | 7,000円×2人=1万4,000円(1時間) |
| 1日の時間 | 4時間 | 1万4,000円×4時間=5万6,000円(1日) |
| 日数 | 3日 | 5万6,000円×3日=16万8,000円 |
| 合計(報告書代・交通費は別のことがある) | 16万8,000円 |
女性は弁護士に相談し、取消しではなく、離婚の調停を申し立てることにしました。気づいてから3か月のうちに取消しを請求する道も考えましたが、勤め先と収入のうそだけで取消しが認められるかは分からない、と言われたからです。離婚歴と子どものことを隠していた点は、慰謝料を求める理由の一つとして主張することになりました。
経歴のうそが分かったときの順番をまとめます。一つ目、気づいた日を書き留める(取消しの3か月の数え始めです)。二つ目、自分で取れる書類を取る(戸籍、所得証明書)。三つ目、相手に説明と書類を求める。四つ目、それでも分からない行動の事実だけを、調査で確かめる。五つ目、取消しか離婚かを、弁護士と決める。腹が立っても、相手のスマホを勝手に見たり、車にGPSを付けたりはしないでください。自分のほうが法律に触れるおそれがあります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-29
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-29 確認)。
- e-Gov法令検索「民法」 ― 747条(詐欺による婚姻の取消し。詐欺に気づいてから3か月か、追認で消滅)、748条(取消しは将来に向かってだけ効力。婚姻で得た財産の返還)、749条(離婚の決まりの準用)、761条(日常の家事の債務)、770条1項(裁判上の離婚の理由)、709条・710条(損害賠償・慰謝料)
- e-Gov法令検索「戸籍法」 ― 10条1項(本人・配偶者・直系の親族は戸籍謄本を請求できる)、120条の2(本籍地以外の市区町村での戸籍証明書の交付。2024年3月1日から)
- e-Gov法令検索「探偵業の業務の適正化に関する法律」 ― 6条(探偵業だからといって、他の法令で禁止・制限されている行為ができるわけではない)