探偵・調査 2026-10-15

結婚相手のことを調べたい ― 探偵に頼めること、頼めないこと。出身地や家柄の調査が断られる理由

結婚前の「相手の家を調べてほしい」という相談は今もあります。出身地・家柄・親族の病歴の調査は、探偵業法9条、個人情報保護法の要配慮個人情報の決まり、部落差別解消推進法に照らして、探偵は引き受けません。一方、独身か、名乗る勤め先に勤めているか、大きな借金を隠していないかは、結婚詐欺を防ぐための確認で、多くは相手の同意のうえで書類を見れば分かります。線をどこで引くかを、24年探偵業を営んできた立場から書きます。

目次を見る →

この記事の位置: [依頼する前に知っておくこと] → 所在を調べる → 証拠を集める

「娘の結婚相手の実家が、どういう家か調べてもらえませんか。どこの出身なのかも」。50代の女性からの電話でした。娘さんは30歳、相手は同じ会社の人で、来春に式を挙げる予定です。女性が気にしていたのは、相手の本籍地と、親の仕事と、親族に病気の人がいないかでした。私はこの依頼をお断りしました。この記事では、なぜ断ったのかと、それでも結婚前に確かめておきたいことがある人が、何を、どこまでできるかを書きます。

私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目になります。結婚前の調査の相談は、昔からなくなりません。ただ、中身は変わりました。以前は「家柄」や「出身地」を調べたいという依頼が珍しくありませんでした。今は、その多くを法律が止めています。

まず探偵業法です。探偵業者は、調査の結果が犯罪行為や「違法な差別的取扱い」に使われると知ったときは、その調査をしてはいけません(9条1項)。契約の前には、依頼者から「調査の結果を違法な目的に使わない」という書面を受け取る決まりもあります(7条)。出身地を調べて結婚に反対する材料にするのは、この「差別的取扱い」に当たります。私の事務所でも、契約の前に、調査の目的を依頼者に書いてもらい、その結果を違法な目的に使わないという書面に署名してもらっています。目的の欄に「相手の出身を知りたい」と書かれたら、その時点で契約はしません。2016年12月16日には部落差別の解消の推進に関する法律が施行され、部落差別は許されないものだと法律に書かれました。

次に個人情報保護法です。人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴などは「要配慮個人情報」といい(2条3項)、事業者は原則として本人の同意なしに取得してはいけません(20条2項)。探偵業者もこの法律を守る側です。親族の病気や、どういう身分の家かを、相手に黙って調べることはできません。

三つ目は戸籍です。他人の戸籍謄本や住民票は、正当な理由がなければ取れません(戸籍法10条の2)。探偵は、弁護士や司法書士のように仕事で戸籍を請求できる資格者ではありません。資格者が請求できるのも、引き受けた仕事のためだけです。「探偵なら戸籍を取れるだろう」というのは誤解です。市区町村によっては、自分の戸籍や住民票が第三者に交付されたときに本人へ知らせる「本人通知制度」もあります。

では、結婚前に何も確かめられないのか。そうではありません。分けて考えると線が引けます。相手の生まれや家族の属性は、確かめる対象ではありません。一方で、相手が自分に話していることが本当かどうか、つまり「独身と言っているが本当か」「名乗っている会社に勤めているか」「大きな借金を隠していないか」「ほかに交際相手がいないか」は、結婚詐欺や重婚の被害を防ぐための確認です。

線は「相手の属性」ではなく「相手の話が本当か」で引く
線は「相手の属性」ではなく「相手の話が本当か」で引く左の枠は確かめてよいこと:独身か(独身証明書)、名乗る勤め先に勤めているか、大きな借金を隠していないか、ほかに交際相手がいないか。多くは相手の同意で書類を見れば分かる。右の枠は調べない・探偵が断ること:出身地・本籍地・家柄、家族や親族の病歴、国籍・信条・社会的身分、戸籍や住民票の代理取得。根拠は探偵業法9条と個人情報保護法20条。確かめてよいこと(相手の話の真偽)確かめてよいこと(相手の話の真偽) ・独身か(独身証明書)・独身か(独身証明書) ・名乗る勤め先に勤めているか・名乗る勤め先に勤めているか ・大きな借金を隠していないか・大きな借金を隠していないか ・ほかに交際相手がいないか・ほかに交際相手がいないか → 多くは相手の同意で書類を見る→ 多くは相手の同意で書類を見る 調べない・探偵が断ること調べない・探偵が断ること ・出身地、本籍地、家柄・出身地、本籍地、家柄 ・家族や親族の病歴・家族や親族の病歴 ・国籍、信条、社会的身分・国籍、信条、社会的身分 ・戸籍や住民票を代わりに取る・戸籍や住民票を代わりに取る → 探偵業法9条・個人情報保護法20条→ 探偵業法9条・個人情報保護法20条 迷ったら「その情報で何を決めるのか」を先に書き出す迷ったら「その情報で何を決めるのか」を先に書き出す

左の枠は確かめてよいこと:独身か(独身証明書)、名乗る勤め先に勤めているか、大きな借金を隠していないか、ほかに交際相手がいないか。多くは相手の同意で書類を見れば分かる。右の枠は調べない・探偵が断ること:出身地・本籍地・家柄、家族や親族の病歴、国籍・信条・社会的身分、戸籍や住民票の代理取得。根拠は探偵業法9条と個人情報保護法20条。

条文は2026年10月時点。独身証明書は本人が本籍地の市区町村で取る書類です。

しかも、この多くは探偵に頼む前に二人の間でできます。独身かどうかは、相手に本籍地の市区町村で「独身証明書」を取ってもらえば分かります。借金は、相手が自分の信用情報(ローンやカードの利用の記録)を信用情報機関に開示請求して、見せてもらう方法があります。勤め先は、社員証や源泉徴収票で見当がつきます。どれも相手の同意のうえで、相手自身が取る書類です。こっそり集めた情報より、ずっと確かです。

ネットで知り合った相手の場合は、もう一段注意が要ります。会ったことが数回しかないのに、投資や事業の話が出る、急にお金が必要になったと言われる。結婚を口にしながら送金を求めるのは、結婚詐欺の典型的な流れです。この段階で必要なのは身元調査ではなく、お金を送らないことと、警察の相談窓口(#9110)や消費生活センター(188)への相談です。送ってしまったお金を取り戻すのは、相手を特定できても簡単ではありません。

相手が見せるのを嫌がる、話が二転三転する、という場合に、初めて調査が候補に入ります。そのとき探偵ができるのは、公道からの行動の確認(勤め先に出勤しているか、別の家に帰っていないか)や、公開されている情報の確認です。家に入る、郵便物を開ける、スマホをのぞく、といった方法は使いません。探偵業法6条は、探偵業だからといって、ほかの法律で禁じられたことをしてよいわけではないと定めています。

私の事務所でも、結婚前の確認で本当に役に立ったのは、たいてい地味な事実でした。「単身赴任中の独身」と言っていた相手が、週末ごとに同じ家に帰っていた。名乗っていた会社の名前は実在したが、その支店は無かった。どちらも、依頼者が最初に「何を確かめたいか」を一つに絞っていたので、数日の調査で答えが出ました。反対に、「何か隠していないか全部」という依頼は、何日かけても安心にはつながりません。

結婚したあとで分かった場合の道も、知っておくと落ち着けます。相手に配偶者がいたなら、その結婚は重婚で、家庭裁判所に取消しを請求できます(民法732条・744条)。だまされて結婚したときも取消しを請求できますが、だまされたと気づいてから3か月が過ぎると、この権利はなくなります(747条)。取り消すか、離婚の手続きにするかで、その後の扱いが変わるので、早めに弁護士に相談してください。

費用は、調査員の人数×時間×日数で組まれるのが一般的です。結婚前の確認なら、「何を確かめたいか」を一つに絞ると日数が減ります。「全部調べて」は、一番高くつく頼み方です。見積をもらったら、調査員が何人で、何日の何時から何時まで動く計算なのかを、一行ずつ確かめてください。契約書の読み方と、契約をやめたいときのことは、探偵との契約をやめたいときの記事に書きました。

冒頭の女性には、電話でこう聞きました。「お嬢さんの相手について、お母さんが心配なのは、何が起きることですか」。少し考えて、女性は「本当は、相手の親に借金があって、娘が背負わされるのが怖い」と言いました。それなら、出身地は関係ありません。結婚しても、配偶者の親の借金を払う義務はありません(保証人になれば別です)。私が伝えたのは、保証人の判子だけは押さないよう娘さんに話してください、ということでした。

調べないことを選ぶのも、調査の相談への答えの一つです。結婚前に確かめるのは、相手が話していることが本当かどうかまで。生まれや家族の属性は、調べる対象ではありません。迷ったら、その情報で何を決めるつもりなのかを、先に紙に書き出してみてください。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-15

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-15 確認)。

あわせてどうぞ

解説記事一覧