相続・手続き 2026-09-10
借金も相続する ― 住宅ローンと団信、連帯保証、借金があるか分からないときの調べ方
相続するのは財産だけではありません。借金も法定相続分で自動的に引き継ぎます。住宅ローンは団体信用生命保険で消えることが多いこと、連帯保証は表に出にくく最も危険なこと、信用情報機関への開示請求で本人名義の借入を調べる方法、3か月の期限との関係、そして「一人が全部引き受ける」協議が債権者には通じない理由を整理します。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → [亡くなってすぐ(3か月まで)] → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
父の死から二年半後、銀行から手紙が届きました。「連帯保証債務の履行のお願い」。父の弟が経営していた会社の借入3,200万円の連帯保証人が、父でした。弟の会社は半年前に倒産。相続放棄の3か月は、とうに過ぎています。相続人は母と長男で、法定相続分で母1,600万円、長男1,600万円の保証債務。長男は「父がそんな保証をしていたなんて」と言いました。この記事は、その手紙が来る前に、何ができたかの話です。
相続の相談では、財産の一覧の次に必ず「借金はありますか」と聞きます。答えが「分からない」なら、財産の話より先に借金を調べます。借金は、亡くなった時点で相続人に法定相続分の割合で自動的に引き継がれ、放っておいても消えないからです。
まず、借金の引き継ぎ方です。預貯金や不動産は遺産分割協議で誰が取るかを決めますが、借金は協議の対象ではなく、相続開始と同時に各相続人が法定相続分で分割して負担します。相続人の間で「長男が全部払う」と決めることはできますが、それは相続人同士の内部の約束で、債権者には通じません。債権者は次男にも法定相続分の返済を請求でき、次男は払ったうえで長男に求償することになります。債務を一人に集中させたいなら、債権者の承諾を得て債務引受の契約をする必要があります。
住宅ローンは、多くの場合は心配が要りません。住宅ローンを組むときに「団体信用生命保険(団信)」に加入していれば、借りた本人が亡くなった時点で保険金がローンの残債に充てられ、ローンは消えて家だけが残ります。金融機関に死亡の連絡をして、団信の手続きを進めてください。注意点が二つ。団信に加入していないローン(古い契約や一部の事業性融資)は残債がそのまま相続債務になります。そして、団信で消えたローンは相続税の計算で債務として差し引けません(保険で消えた債務なので)。
最も危険なのが連帯保証です。亡くなった人が誰かの借金の連帯保証人になっていた場合、その保証債務も相続されます。主債務者が払っている間は請求が来ないので、相続人は保証の存在に気づかず、数年後に主債務者が返済できなくなって初めて請求が来る。相続放棄の3か月はとうに過ぎている。この形が、相続で最も痛い事故です。保証は借入と違って本人の信用情報に載らないため、調べる手段が限られます。亡くなった人の書類(保証契約書、金銭消費貸借契約書の写し)、事業をしていたなら取引先や銀行との関係、親族間の貸し借りを、家族で丁寧に洗い出すしかありません。
本人名義の借入は、信用情報機関に開示請求すれば分かります。銀行系のKSC(全国銀行個人信用情報センター)、クレジット・信販系のCIC、消費者金融系のJICC、この三つに相続人が開示請求すると、亡くなった人の借入と返済状況の記録が出てきます。手数料は機関と請求のしかたで違い、数百円から1,500円ほどです(たとえばCICの郵送での開示は1,500円)。相続人からの請求は郵送が基本です。三つ全部に出すのが基本です。加えて、郵便物(督促状、返済予定表、カードの明細)、通帳の引き落とし、スマートフォンのアプリも手がかりになります。
| 調べるもの | 手段 | 分かること |
|---|---|---|
| 銀行・信販・消費者金融の借入 | KSC・CIC・JICCへの開示請求(手数料は機関と方法で違う。CICの郵送は1,500円) | 本人名義の借入残高と返済状況 |
| 住宅ローン | 金融機関へ死亡の連絡 | 残債、団信の有無 |
| 連帯保証 | 契約書・郵便物・取引関係の確認(信用情報には載らない) | 保証の有無(見つけにくい) |
| 未払いの税金・公共料金 | 納税通知書・請求書 | 滞納の有無 |
| 個人間の貸し借り | 借用書・家族への聞き取り | 有無と額 |
調べた結果、借金が財産より多い、または保証が心配なら、相続放棄の記事で書いたとおり、3か月以内に家庭裁判所へ。財産と借金のどちらが多いか分からないなら、限定承認(相続人全員で、財産の範囲で借金を払う)か、期限前に熟慮期間の伸長を申し立てます。ここで気をつけたいのが、借金を調べている間に財産を処分しないこと。預貯金を引き出して使う、車を売る、といった行為は単純承認とみなされ、放棄ができなくなります。
3か月を過ぎてから借金が見つかった場合はどうか。借金の存在を知らず、知らなかったことに相当の理由がある場合には、借金を知った時から3か月以内の放棄が認められた判例があります。ただし例外的な扱いなので、期限内に調べ尽くすのが原則です。
まず、手紙が来たあとにやったことです。二年半前、父の相続で、長男は信用情報機関三つに開示請求をしていました。父本人の借入はゼロ。ただ、保証は信用情報に載らない。父の書斎の書類も見たが、保証契約書はなく、父の弟に「父が保証人になっている借入はあるか」と聞くことも、しなかった。二年半前の時点で、知らなかったことに相当の理由があるか。弁護士に相談し、「借金の存在を知ってから3か月以内の放棄」を家庭裁判所に申述しました。父の弟からの聞き取りをしていなかった点は不利でしたが、父の財産が自宅と預金で保証の存在を疑う手がかりがなかったこと、銀行からの通知が相続後に一度もなかったことを上申書に書き、申述から二か月で受理されました。母も同じく受理。受理されたのは、自宅の名義が父のままで、父の預金にも手を付けていなかったからでもあります(財産を売ったり使ったりしていると、放棄は認められません)。放棄すれば、自宅(評価額1,400万円)と預金600万円、合わせて2,000万円を手放します。承認すれば、その2,000万円を全部充てても、まだ1,200万円の保証が残ります。母と長男は、放棄を選び、自宅を手放しました。
3か月で決めるための順番
- 死亡直後 郵便物・通帳・スマホを確認(財産の処分はしない(単純承認になる))
- 1か月以内 信用情報機関へ開示請求、団信の手続き、事業をしている親族に、保証の有無を聞く(開示請求は三機関すべてに)
- 3か月以内 承認か放棄か限定承認かを決める(決められなければ期限前に伸長を申立て)
二年半前に、何ができたか。一つ、父の弟に聞くこと。父が事業をしていなくても、兄弟や親族が事業をしていれば、保証の可能性を聞く。二つ、父の確定申告書や年金の記録ではなく、父の弟の会社の決算書や借入の資料を、父の弟から見せてもらうこと。三つ、それでも分からなければ、限定承認で、財産の範囲でだけ保証債務を負う形にしておくこと。相続人は母と長男の二人で、協力できた。限定承認をしていれば、二年半後の手紙に対して払うのは、相続財産2,000万円の範囲まで。自宅も、評価額にあたるお金を自分で用意して払えば、買い取って残す道がありました(限定承認をした相続人に認められている先買権)。
もう一つ、団信の例も書いておきます。同じ年に、父の住宅ローン残債1,200万円を心配して来た家がありました。金融機関に連絡すると、団信に加入していて、死亡の翌月に保険金で完済。家だけが残り、相続税の計算では債務として引けないので、財産に自宅の評価額がそのまま乗る。ただ、基礎控除の中だったので、税額はゼロ。「住宅ローンは多くの場合は心配が要らない」と本文に書いた家です。同じ「借金」でも、団信のある住宅ローンと、誰かの連帯保証では、相続の重さがまるで違います。
実務での順番はこうです。亡くなったらすぐ、郵便物と通帳とスマートフォンを確認する。信用情報機関三つに開示請求を出す。住宅ローンがあれば金融機関に団信の手続きを聞く。事業や保証の心配があれば関係者に聞く。ここまでを一か月で終え、残り二か月で放棄するかどうかを決める。借金の相続は、財産の相続より先に、期限から逆算して動く手続きです。
二年半後の手紙は、放棄と、自宅を手放すことで終わりました。「保証は本人の信用情報に載らないため、家族で丁寧に洗い出すしかない」と本文に書きました。洗い出しの中身は、父の弟に一本、電話をかけることでした。二年半前に、その電話をかけていれば。この記事の二つ目の表の「3か月で決めるための順番」に、「事業をしている親族に、保証の有無を聞く」の一行があるのは、この手紙のためです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。