探偵・調査 2026-10-11
探偵に頼む前に自分でできること ― 手元の記録の整理、やってはいけない集め方、見積が三分の一になった準備
探偵の調査料は、おおむね「調査員の人数×時間×日数」で決まります。だから費用を減らす一番の方法は、「いつ・どこで」を依頼する前に自分で絞ることです。帰宅時刻のメモ、自分が正当に見られる明細、相手の写真と車の情報。反対に、相手のアカウントへのログインや無断のGPSは、配偶者でも法律に触れるおそれがあります。7日間の見積が2日間に縮んだ架空の例で金額を比べ、契約前に確かめる書面までを、2002年から探偵業を営んできた立場で書きます。
この記事の位置: [依頼する前に知っておくこと] → 所在を調べる → 証拠を集める
「妻の帰りが遅い日が増えました。一週間、張り込んでもらえますか」。50代の男性の相談でした。一週間、毎日5時間、調査員2名。そのまま見積を出すと、税込で75万円を超えます。私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目です。その日、私は見積を出す前に、男性に宿題を一つ出しました。「三週間、奥さんの帰宅時刻と、その日に聞いた予定を、メモしてきてください」。この記事は、その宿題の中身と、やってはいけないことの線引きを書いたものです。
探偵の調査料は、ほとんどの会社で「調査員の人数×時間×日数」で決まります。調査員が現場にいる時間に、お金がかかる仕組みです。だから、費用を減らす方法は、値引きの交渉ではなく、調査員が現場にいる時間を減らすこと、つまり「いつ・どこで」を前もって絞ることです。絞れていない調査は、何も起きない日の張り込みに費用を払うことになります。
自分でできることの一つ目は、記録をつけることです。日付、出かけた時刻、帰った時刻、本人が言っていた予定(残業、飲み会、習い事)、そして実際にどうだったか。手帳でもスマートフォンのメモでも構いません。二〜四週間続けると、曜日や時間の型が見えてきます。記録は、調査日を決める材料になるだけでなく、あとで慰謝料を請求するときに、いつ頃から様子が変わったかを示す資料にもなります。
二つ目は、自分が正当に見られる情報を集めることです。家族カードや共有口座の明細、自分の名義の車のETC利用明細や走行距離、家族で共有しているカレンダー。どれも、自分に見る権限がある情報です。ここから、決まった曜日に同じ場所でお金を使っている、同じインターチェンジを通っている、といった手がかりが出てきます。
三つ目は、調査に使う基本情報をそろえることです。相手の顔がはっきり分かる最近の写真、勤め先と勤務時間、使っている車の車種・色・ナンバー。調査員は、まずこの情報で本人を見分けます。写真が古い、車が分からないと、初日の何時間かが「本人を見つける」ことに消えてしまいます。
メモの書き方の例を挙げます。「10月2日(木)朝『今日は残業』。22時15分帰宅。夕食は外で済ませたと言う」「10月6日(月)18時50分帰宅。いつもどおり」。感想や推測(「怪しい」「たぶん会っている」)は書かず、見たことと聞いたことだけを書きます。これは、不貞調査の報告書の記事に書いた、報告書の作法と同じです。事実だけのメモは、あとで誰が読んでも同じ意味に読めるので、調停や裁判の資料としても扱いやすくなります。
相談のときには、調べた結果を何に使いたいかも伝えてください。離婚と慰謝料を考えているのか、関係を続けるために事実だけ知りたいのか、まだ決めていないのか。離婚や慰謝料の請求まで考えるなら、一度きりではなく、何度か重なった記録が要ります。事実を知りたいだけなら、1日で足りることもあります。目的によって、調査の日数も報告書の作り方も変わります。
反対に、やってはいけない集め方があります。一つ、相手のIDとパスワードを使って、メールやSNSのアカウントに入ること。夫婦でも、本人の許可なく他人のアカウントに入るのは不正アクセス禁止法の禁止行為で、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象です(3条・11条)。パスワードを知っていても、使ってよいことにはなりません。二つ、相手の車やかばんに、無断でGPS機器を付けること。2021年のストーカー規制法の改正で、承諾なしに位置情報を取る行為が規制の対象になりました(2条3項)。配偶者でも、気持ちのもつれから付ければ対象になりえます。三つ、相手の不倫相手の家に入ること(住居侵入)。どれも、違法に集めた資料は使いにくいだけでなく、自分が責任を問われる側になります。探偵業法6条にも「この法律があるからといって、ほかの法律で禁止されていることができるわけではない」とあり、探偵も同じ線の内側で動いています。なお、自分が話し相手の一人として加わっている会話を録音することは、それだけで罪になるものではありません。
左側は自分でできること。帰宅時刻と予定を二〜四週間メモする、家族カードや共有口座の明細、自分名義の車のETC明細など自分が正当に見られる情報を集める、相手の最近の写真と車の情報をそろえる。これで調査日を絞れる。右側はやってはいけないこと。相手のIDとパスワードでアカウントに入る(不正アクセス禁止法)、無断でGPS機器を付ける(ストーカー規制法)、相手の家に入る(住居侵入)。
依頼する前に、業者の側も確かめてください。探偵業者は都道府県の公安委員会に届け出ていて、届出番号の入った標識を営業所に掲示しています(12条)。契約の前には、料金の概算額と支払いの時期、契約の解除、調査で作った資料の処分などを書いた書面を渡して説明する決まりです(8条)。そして依頼者は、調査の結果を違法なことに使わないという書面を出します(7条)。この三つがそろわない業者には、頼まないでください。探偵業法の全体は、探偵業法の記事に書きました。
費用の違いを、架空の見積で比べます。調査員2名、1日5時間、1時間あたり1名8,000円で計算します。7日間なら、調査料560,000円(8,000円×2名×5時間×7日)、車両費84,000円(12,000円×7日)、報告書の作成40,000円で、小計684,000円、消費税68,400円、合計752,400円(税込)。日を2日に絞れれば、調査料160,000円、車両費24,000円、報告書40,000円で、小計224,000円、消費税22,400円、合計246,400円(税込)。差は506,000円で、およそ三分の一になります。
| 項目 | 7日間(絞らない) | 2日間(記録で絞った) |
|---|---|---|
| 調査料 | 560,000円 | 160,000円 |
| 車両費(1日12,000円) | 84,000円 | 24,000円 |
| 報告書の作成 | 40,000円 | 40,000円 |
| 小計 | 684,000円 | 224,000円 |
| 消費税(10パーセント) | 68,400円 | 22,400円 |
| 合計(税込) | 752,400円 | 246,400円 |
この家の場合です。男性の三週間のメモには、はっきりした型がありました。奥さんは毎週木曜日だけ「残業」で、帰りは22時過ぎ。共有口座の明細には、木曜日ごとに同じ駅の近くの店での支払いがありました。そこで、調査は二週続けて木曜日の18時から23時まで、2日間にしました。費用は上の246,400円(税込)です。報告書に書かれていたのは、奥さんが木曜日の夜、その駅の近くの資格の学校に通っている姿でした。授業が終わったあと、同じ講座の人たちと店で軽く食事をして帰っていた。二日とも同じでした。男性は報告書を読んで、しばらく黙ったあと、「問い詰めなくてよかった」と言いました。奥さんは、合格してから話すつもりだったそうです。
調べた結果が「何もなかった」になることは、珍しくありません。それでも、記録で日を絞り、正当な情報だけを集め、届出のある業者に書面で頼んでいれば、使ったお金は24万円台で済み、家族の関係も壊さずに済みます。この記事の図は、自分でできることと、やってはいけないことを左右に分けたものです。探偵に電話をする前に、まず三週間、メモをつけてみてください。見積の日数は、そのメモで決まります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-12
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-12 確認)。
- e-Gov法令検索「探偵業の業務の適正化に関する法律」 ― 6条(この法律があっても他の法令で禁止された行為はできない)、7条(違法な目的に使わない旨の書面)、8条(契約前の重要事項説明。料金の概算額と支払時期、解除、資料の処分)、12条(標識の掲示)
- e-Gov法令検索「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」 ― 3条(不正アクセス行為の禁止)、11条(3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)
- e-Gov法令検索「ストーカー行為等の規制等に関する法律」 ― 2条3項(承諾なしにGPS機器などで位置情報を取得する行為。2021年の改正で追加)