探偵・調査 2026-10-10
不貞調査の報告書には何が書いてあるか ― 日時・場所・写真の三点、「一度きり」では弱い理由、協議・調停・裁判でどう使うか
探偵に不貞の調査を頼むと、最後に受け取るのは報告書です。中身は、調査日ごとの時系列(何時何分に、どこで、誰が、何をしたか)、場所の特定、時刻入りの写真の三つの柱で、調査員の感想は分けて書きます。相手の家への出入りが一度だけだと説明がついてしまうので、何度か重ねて初めて力になる。架空の見積で費用の内訳と途中でやめたときの精算を示し、自分で撮った写真との違い、やってはいけない集め方、報告書が協議・調停・裁判のどこで使われるかを、1997年から探偵業を営んできた立場で書きます。
この記事の位置: 依頼する前に知っておくこと → 所在を調べる → [証拠を集める]
「夫の不倫の証拠が欲しいんです。探偵に頼むと、何をもらえるんですか」。別居を考え始めた40代の女性の、最初の質問でした。写真を何枚かもらって終わりなのか、それは裁判で使えるのか、いくらかかるのか。私は探偵業の会社を1997年から経営していて、今年で29年目です。この記事は、調査の最後に依頼者が受け取る「報告書」が、どういうもので、何に使えて、何に使えないかを、作る側の立場から書いたものです。
探偵業法で、探偵業務は「聞込み・尾行・張込みなどの方法で実地の調査をし、その結果を依頼者に報告する業務」と決められています(2条)。報告書は、この「報告」そのものです。契約のときに業者が依頼者に渡す契約内容の書面には、報告の方法と期限を書くことになっています(8条2項)。だから、写真を何枚か送られて終わり、ではなく、約束した期限までに、書面で受け取るものです。探偵業法そのものの決まりは、探偵業法の記事に書きました。
報告書の中身は、三つの柱でできています。一つ目は日時。調査した日ごとに、何時何分に、どこで、誰が、何をしたかを時系列で書きます。二つ目は場所。建物の名前と住所、入った出入口、滞在した時間。三つ目は写真。時刻が入っていて、人物の顔が分かり、建物の看板や番地が同じ枚の中に写っているもの。この三つがそろって、はじめて「この日この時間に、この二人がここにいた」と第三者が読める記録になります。調査員の感想や推測は、書かないか、「所見」として本文と分けます。見たことと考えたことを分けるのが、裁判所で読まれる報告書の作法です。
| 柱 | 書いてあること | なぜ要るか |
|---|---|---|
| 日時 | 調査日ごとの時系列(何時何分に、どこで、誰が、何をしたか) | 一度の出入りは説明がつく。何度も重なって初めて重くなる |
| 場所 | 建物の名前と住所、入った出入口、滞在した時間 | 「相手の自宅」「ホテル」と第三者が特定できる |
| 写真 | 時刻入り、人物の顔、建物の看板や番地が同じ枚に写っている | 日時と場所と人物を一枚でつなぐ |
| 所見(分けて書く) | 調査員の考えや推測 | 見たことと考えたことを混ぜない。裁判所で読まれる作法 |
なぜ一度きりでは弱いのか。慰謝料を請求して相手が否定した場合、肉体関係があったことは請求する側が証明します。ラブホテルに二人で入って数時間後に出てくる写真は、肉体関係を推し量らせる典型です。一方、相手の自宅への出入りは、一度だけなら「食事に寄っただけ」で説明がついてしまう。何度も入っている、泊まっている、という積み重ねがあって、はじめて重くなります。だから調査は、やみくもに一週間張り込むのではなく、「いつ会っているか」を依頼者の手元の情報(スマートフォンの履歴、帰宅時間の記録、カードの明細)で絞ってから、その日に集中させます。それが費用を減らし、報告書を強くします。
費用は見積の内訳で読みます。架空の例を一枚作ります。不貞の素行調査、調査員2名、1日5時間を3日間。調査料は1時間あたり1名8,000円なので、8,000円×2名×5時間×3日で240,000円。車両費が1日12,000円×3日で36,000円。報告書の作成が40,000円。小計316,000円、消費税(10パーセント)31,600円、合計347,600円(税込)。不貞の慰謝料の相場は、離婚に至る場合で100〜300万円、離婚しない場合は数十万〜100万円程度の帯だと、不貞の慰謝料の記事に書きました。調査費用がその帯を超えそうなら、日数を絞るか、調査そのものをやめるのも一つの選択です。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 調査料 | 8,000円×2名×5時間×3日 | 240,000円 |
| 車両費 | 12,000円×3日 | 36,000円 |
| 報告書の作成 | 一式 | 40,000円 |
| 小計 | 316,000円 | |
| 消費税(10パーセント) | 31,600円 | |
| 合計(税込) | 347,600円 | |
| (2日で終わった場合の精算) | 3日目分 92,000円+消費税 9,200円を差し引く | 246,400円 |
自分で撮った写真でも証拠にはなります。報告書との違いは三つです。一つ、依頼者本人ではない第三者が、時系列で記録していること。本人が撮ったものは「都合のよい部分だけ」と疑われやすい。二つ、調査員は、顔と建物と時刻を一枚に収める撮り方を知っていること。三つ、本人が尾行すると、相手に気づかれて以後の証拠が取れなくなったり、その場で口論になって別のトラブルが起きたりすること。そして、やってはいけない集め方があります。相手の家に入る(住居侵入)、相手の車に無断でGPSを付ける(2021年のストーカー規制法の改正で、位置情報を承諾なしに取ることが規制の対象になりました)、スマートフォンのロックを破る。探偵業法6条は「この法律があっても、他の法律で禁止された行為はできない」と念を押しています。依頼者がやっても同じで、違法に集めた証拠は使いにくいだけでなく、自分が責任を問われる側になります。
報告書の使い道は三段階です。一つ目は協議。相手に報告書を見せて事実を認めさせ、慰謝料と離婚の条件を合意書にし、額が大きければ公正証書にします。全部を見せず、認めたあとに必要な部分だけ示す進め方もあります。二つ目は調停。話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚)を申し立てます。費用は収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手(裁判所ごとに異なります)。調停は話し合いの場なので証拠の提出は義務ではありませんが、調停委員に事実を分かってもらう資料として、報告書の写しを出します。三つ目は裁判。ここでは書証として提出します。どの段階でも、原本は手元に残し、出すのは写しです。
探偵の調査報告書は、まず協議で相手に事実を認めさせて合意書や公正証書にする材料になり、まとまらなければ家庭裁判所の夫婦関係調整調停で調停委員に事実を分かってもらう資料として写しを出し、裁判では書証として提出する。どの段階でも原本は依頼者の手元に残す。
時効も報告書と関係があります。不貞の慰謝料の請求権は、不貞の事実と相手が誰かを知った時から3年で時効にかかります(民法724条)。報告書の日付は、その「知った日」を示す記録にもなります。もう一つ、不貞の相手に請求するには、相手が「結婚していると知っていた」ことの証明が要ります。これは尾行や張込みでは分かりません。相手が既婚を知っていたと分かるやり取り(メッセージ、共通の知人の証言)を、報告書とは別に残しておきます。
報告書を受け取るときに確かめることを書きます。日付と時刻のない写真が混ざっていないか。人物が本人と分かる写りか。調査日ごとに担当した調査員の名前があるか。そして、調査で作った資料の処分。契約前の重要事項説明には「探偵業務に関して作成し、又は取得した資料の処分に関する事項」を書くことになっていて(8条1項9号)、業者が写真の元データをいつまで保管し、いつ消すかが決まっています。業者と従業者には、辞めたあとも続く秘密保持の義務があります(10条)。報告書は依頼者に一通、業者は控えを決めた期間だけ保管して処分する、というのが普通の形です。
この女性の場合です。手元のやり取りから、夫は隔週の金曜に相手と会っていると見えました。冒頭の見積は3日間でしたが、金曜の夕方からの張込みを2回行ったところで、相手のマンションに入って翌朝8時に二人で出てくるまでが、2回とも記録できました。報告書は、写真48枚、日ごとの時系列表、建物の表札と部屋番号。3日目は行わず、精算は、3日目分の調査料80,000円(8,000円×2名×5時間)と車両費12,000円の合計92,000円に消費税9,200円を足した101,200円を差し引いて、246,400円(税込)でした。夫は報告書を見て認め、離婚と慰謝料200万円を公正証書にして、調停には行かずに済みました。
報告書は、派手な一枚の写真ではなく、「見たこと」を第三者が時刻つきで書き、それが何度も重なったものです。頼む前に、いつ会っているかを自分の手元の情報で絞る。頼んだあとは、三つの柱がそろっているかを確かめる。この記事の図は、報告書が協議・調停・裁判のどこで、どう使われるかを一枚にしたものです。見積を取る前に、まず自分の手元の情報を日付順に並べてみてください。調査の日数は、そこで決まります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-10
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-10 確認)。
- e-Gov法令検索「探偵業の業務の適正化に関する法律」 ― 2条(探偵業務は実地の調査と、その結果の依頼者への報告)、6条(他の法令で禁止された行為はできない)、8条(契約前の重要事項説明と、契約後の書面に書く報告の方法・期限、資料の処分)、10条(秘密保持)
- e-Gov法令検索「民法」 ― 709条(不法行為による損害賠償)、724条(損害と加害者を知った時から3年の消滅時効)、770条(裁判上の離婚の原因としての不貞な行為)
- 裁判所「夫婦関係調整調停(離婚)」 ― 申立ての費用(収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手)、申立書と標準的な添付書類、調停で話し合える事項(親権・養育費・財産分与・年金分割・慰謝料)