探偵・調査 2026-10-09

探偵業法で決まっていること ― 公安委員会への届出、契約前の二つの書面、調査結果を使えない場合

探偵業は免許制ではなく届出制で、営業所に公安委員会の名称と届出番号の標識を掲げる決まりです。依頼する側に一番関係があるのは、契約の前後で行き来する三つの書面(依頼者が出す誓約書、業者が契約前に渡す重要事項説明、契約後に渡す契約内容の書面)と、調査結果を違法なことに使えないという制限。1997年から探偵業を営んできた立場で、警察庁の2025年の統計と、見積を内訳で読む方法まで書きます。

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相続の相談の帰り際に、女性が封筒を出しました。「兄の居場所を探してもらおうと思って、探偵社の見積を取ったんです。これ、普通ですか」。A4一枚に「所在調査一式 30万円」とだけ書いてある。会社名はあるが、公安委員会の届出番号も、契約を途中でやめたときの扱いも、調査の方法も書いていない。私は探偵業の会社を1997年から経営しています。この見積には、法律が「契約の前に書面で説明しなさい」と決めていることの、ほとんどが書かれていません。この記事は、その「決められていること」の話です。

探偵業には、2007年に施行された「探偵業の業務の適正化に関する法律」(探偵業法)があります。この法律でいう探偵業務は、他人の依頼を受けて、特定の人の所在や行動についての情報を集めるために、聞込み・尾行・張込みなどの方法で実地の調査をして、その結果を依頼者に報告する仕事です(2条)。机の上で名簿を調べるだけ、インターネットで検索するだけの仕事は、この定義に入りません。逆に、尾行や張込みをして報告するなら、「調査会社」「興信所」と名乗っていても探偵業です。

探偵業は免許制ではなく届出制です。営業所ごとに、所在地を管轄する都道府県公安委員会に(窓口は警察署)、商号・営業所・役員などを書いた届出書を出します(4条)。試験はありません。その代わりに欠格事由があり、破産して復権していない人、拘禁刑以上の刑を受けて5年たたない人、暴力団員や暴力団員でなくなって5年たたない人などは探偵業を営めません(3条)。届出をした業者は、公安委員会の名称と届出番号を書いた標識を営業所の見やすい場所に掲示し、従業者が少ない事業所などを除いてホームページにも載せる決まりです(12条)。2024年3月までは公安委員会が届出証明書を出していましたが、同年4月からこの標識の方式に変わりました。

警察庁の統計では、2025年(令和7年)末の届出数は全国で7,354営業所(個人5,293、法人2,061)。同じ年に783の新規届出があり、527が廃止されています。1年で1割近くが入れ替わる業界です。同じ年の行政処分は、営業停止命令と廃止命令がゼロ、指示が19件。指示の中身で多いのは、契約の書面を渡していない(4件)、変更の届出が虚偽(4件)、次に書く誓約書を受け取っていない(2件)です。探偵業法そのものの違反で検挙されたのは2件4人で、うち1件は無届けの営業でした。

探偵業の数字(警察庁、2025年=令和7年)
項目件数内訳・備考
届出数(営業所数、2025年末)7,354個人5,293、法人2,061。前年比+256
新規届出(2025年中)783個人554、法人229
廃止届出(2025年中)527―
探偵業法違反の検挙2件4人無届け営業1件を含む
行政処分指示19件営業停止0件、廃止命令0件。書面交付違反4、変更届出の虚偽4、誓約書の受理違反2など

依頼者から見て一番大事なのは、契約の前後で三つの書面が行き来する決まりです。一つ目は、依頼者が業者に渡す誓約書。調査の結果を犯罪や違法な差別、その他の違法な行為に使わないことを示す書面で、業者はこれを受け取らずに契約してはいけません(7条)。二つ目は、契約の前に業者が依頼者に渡して説明する重要事項説明の書面。業者の名前と住所、届出をした公安委員会の名称、できる調査の内容、料金の概算額と支払時期、契約の解除、調査で作った資料の処分について書きます(8条1項)。三つ目は、契約を結んだあと遅滞なく渡す契約内容の書面で、調査の内容・期間・方法、報告の方法と期限、料金の額と支払の時期・方法を書きます(8条2項)。冒頭の見積は、二つ目の書面に当たるものが「一式30万円」の一行しかない、という状態でした。

契約の前後で行き来する三つの書面(探偵業法7条・8条)
契約の前後で行き来する三つの書面(探偵業法7条・8条)依頼者から探偵業者へ、契約の前に誓約書(7条)。探偵業者から依頼者へ、契約の前に重要事項説明の書面(8条1項)、契約の後に契約内容の書面(8条2項)。どれか一つでも無い業者とは契約しない。 依頼者 探偵業者 届出番号の標識 ① 誓約書(7条)契約の前に依頼者が出す① 誓約書(7条)契約の前に依頼者が出す ② 重要事項説明の書面(8条1項)契約の前② 重要事項説明の書面(8条1項)契約の前 ③ 契約内容の書面(8条2項)契約の後すぐ③ 契約内容の書面(8条2項)契約の後すぐ ①②③のどれか一つでも無い業者とは契約しない①②③のどれか一つでも無い業者とは契約しない

依頼者から探偵業者へ、契約の前に誓約書(7条)。探偵業者から依頼者へ、契約の前に重要事項説明の書面(8条1項)、契約の後に契約内容の書面(8条2項)。どれか一つでも無い業者とは契約しない。

三つの書面に書いてあるべきこと
書面誰から誰へ・いつ中身
誓約書(7条)依頼者→業者、契約の前調査結果を犯罪・違法な差別・その他の違法行為に使わない
重要事項説明の書面(8条1項)業者→依頼者、契約の前業者の名称と住所、届出先の公安委員会名、できる調査の内容、料金の概算額と支払時期、契約の解除、資料の処分
契約内容の書面(8条2項)業者→依頼者、契約の後すぐ調査の内容・期間・方法、報告の方法と期限、料金の額と支払の時期・方法、解除と資料の処分の定め

業者がしてはいけないことも、法律に書いてあります。調査の結果が犯罪や違法な差別などに使われると分かったときは、その調査をしてはいけない(9条1項)。探偵業務を探偵業者でない者に丸投げしてはいけない(9条2項)。仕事で知った人の秘密を、辞めたあとも漏らしてはいけない(10条)。そして6条に、この法律があるからといって、他の法律で禁止されている行為ができるようになるわけではない、と念を押す条文があります。住居に入り込む、相手の車に無断でGPSを付けて位置を追う(2021年のストーカー規制法の改正で規制の対象になりました)、役所から住民票を取る権限があるふりをする。どれも探偵業法の届出があっても違法です。警察庁の資料でも、2025年に探偵業者が他の法律で検挙された主な事例は、軽犯罪法違反、ストーカー規制法違反、建造物侵入でした。

依頼する側が困るのは、料金の相場が法律に書いていないことです。決まっているのは「契約前に概算額を書面で示す」ことだけで、額は業者が決めます。だから見積は、合計ではなく内訳で読みます。調査員の人数と時間あたりの単価、車両費、報告書の作成費、成功報酬の有無、調査を途中でやめたときの精算の仕方。この五つが書いてあれば、二社の見積を同じ土俵で比べられます。

書き方の例として、架空の見積を一枚作ります。不貞の素行調査、調査員2名、1日6時間を2日間。調査料は1時間あたり1名9,000円なので、9,000円×2名×6時間×2日で216,000円。車両費が1日15,000円×2日で30,000円。報告書の作成が30,000円。小計276,000円、消費税(10パーセント)27,600円、合計303,600円(税込)。この書き方なら、「3日目が要ると言われたら幾ら増えるか」「1日で終わったら幾ら戻るか」が自分で計算できます。「一式」の一行では、どちらも計算できません。

内訳のある見積の例(架空、不貞の素行調査、調査員2名×6時間×2日)
項目計算金額
調査料9,000円×2名×6時間×2日216,000円
車両費15,000円×2日30,000円
報告書の作成―30,000円
小計276,000円
消費税(10%)27,600円
合計(税込)303,600円

冒頭の女性の話に戻ります。兄の所在を探す目的は、遺産分割協議に加わってもらうためでした。私はまず、見積を持ち帰って、業者の標識(公安委員会名と届出番号)を確かめること、契約前に8条の書面を求めること、それが出てこない業者とは契約しないことを伝えました。もう一つ伝えたのは、相続人の所在調査は、探偵に頼む前に自分でできる部分があることです。相続人は、自分の権利を行使するために必要な範囲で、兄の戸籍の附票(住所の履歴)を本籍地の役所に請求できます。探偵には、役所から附票や住民票を取る権限はありません。附票で住所が分かれば、調査は手紙一通で終わることがあります。この手順は、相続人の所在調査の記事に書きました。

探偵に頼むのが向いているのは、附票の住所に本人がいない、手紙が戻ってくる、近所も知らない、という段階からです。聞込みと張込みで「今そこに住んでいるか」を確かめるのが探偵業務の本来の仕事で、ここは役所の書類では分かりません。頼むときは、「何が分かれば調査終了か」(住所の確認か、本人と会えることか)を契約書面の「調査の内容」に書いてもらいます。終わりが書いていない調査は、終わりません。

女性は見積を持ち帰り、その業者の事務所に標識がなかったので、別の業者に「附票の住所から先」だけを頼みました。調査は1日で終わり、兄は附票の住所の隣町に住んでいました。この記事の表は、契約の前後で行き来する三つの書面と、それぞれに書いてあるべきことをまとめたものです。見積を受け取ったら、まずこの表の二つ目の欄と照らしてください。足りない項目がある業者には、その項目を書面で求める。それでも出てこないなら、法律が「出しなさい」と言っている書面を出さない業者だ、ということです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-09

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-09 確認)。

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