探偵・調査 2026-10-09
相続人の住所が分からない ― 戸籍の附票で住所を追う。探偵に頼むのは、その先
戸籍には本籍は載っても住所は載りません。相続人の現住所は、本籍地の役所にある「戸籍の附票」(住所の履歴)で追えます。相続人は遺産分割協議のために他の相続人の附票を請求でき、探偵にはその権限がありません。附票→手紙→現地、の順でどこまで自分でできるか、郵送請求の費用720円の内訳、附票でも見つからないときの探偵の所在調査と不在者財産管理人の分かれ道を、探偵業を営む行政書士の立場で書きます。
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父の戸籍をさかのぼって四通目で、前の結婚の子が出てきました。依頼者の女性にとっては、会ったことのない異母兄。戸籍には兄の本籍地は書いてありますが、住所は書いていません。「探偵に頼むしかないですか」。私は探偵業の会社を経営していますが、答えは「まだです」でした。相続人の住所は、役所の書類で追えるところまで追ってから、探偵の出番です。この記事は、その順番と、どこで切り替えるかの話です。
戸籍と住所は別の帳簿です。戸籍には本籍地と家族関係が載り、住所は載りません。住所の帳簿は住民票で、これは住んでいる市区町村にあります。この二つをつなぐのが「戸籍の附票」です。本籍地の市区町村が戸籍と一緒に作っている帳簿で、その戸籍に入っている人が、戸籍を作ってから今までどこに住民登録をしてきたかの履歴が載っています。相続人の本籍地が戸籍で分かれば、その役所に附票を請求して、現在の住所にたどり着けるわけです。
附票を請求できる人は決まっています。本人、配偶者、直系の親や子は請求できます(住民基本台帳法20条1項)。異母兄は直系ではないので、ここには入りません。ただ、同じ条文の3項に、「自分の権利を行使し、または義務を果たすために附票の記載を確認する必要がある人」は、理由を明らかにして請求できる、とあります。相続人が遺産分割協議のために他の相続人の住所を知る必要がある、というのはこの「権利の行使」に当たります。請求書には、亡くなった人との関係が分かる戸籍と、自分が相続人であることが分かる戸籍を添えて、「遺産分割協議のため」と目的を書きます。市区町村によって求められる書類が違うので、先に電話で確かめると一度で済みます。
| 請求する人 | 根拠 | 相続の場面では |
|---|---|---|
| 本人、配偶者、直系の親・子 | 20条1項 | 親の附票は子が取れる。兄弟姉妹は入らない |
| 自分の権利の行使・義務の履行に必要な人 | 20条3項 | 相続人が、遺産分割協議のために他の相続人の住所を確認する |
| 弁護士・司法書士・行政書士などの資格者(職務上請求) | 20条4項 | 相続手続きを受任した資格者が依頼者のために取る |
| 探偵業者 | 権限なし | 実地の調査(聞込み・張込み)が仕事。役所の書類は取れない |
附票の保存期間は、2019年6月の法改正で5年から150年に延びました(住民票の除票も同じです)。それより前に除かれた附票は、すでに廃棄されていて取れないことがあります。本籍を何度も移している人は、附票も本籍地ごとに分かれるので、戸籍をたどった順に附票も請求します。2024年3月から戸籍証明書は最寄りの役所で取れる広域交付が始まりましたが、附票は対象外で、本籍地の役所に直接(窓口か郵送で)請求します。戸籍のたどり方そのものは、戸籍の集め方の記事に書きました。
住所が分かったら、まず手紙です。相続が起きたこと、自分が誰か、何をお願いしたいか(遺産分割協議への参加)、連絡先を書き、返信用の封筒を入れます。いきなり協議書と印鑑証明書の依頼を送ると、警戒されて返事が来ないことが多い。この最初の手紙と、返事(または返送された封筒)は捨てずに取っておきます。あとで家庭裁判所に申し立てるとき、「探した証拠」になります。
附票ではなく住民票から追う道もあります。相続人の古い住所だけ分かっている場合は、その市区町村に住民票(転出していれば除票)の写しを同じ理由で請求すると、転出先の住所が載っています(住民基本台帳法12条の3)。本籍が分かっているなら附票のほうが一度で履歴が見えるので楽ですが、戸籍が手元にない段階では、こちらから入ることもあります。
役所の書類で追えるのはここまでです。附票の住所に手紙を出しても「宛所に尋ねあたりません」で戻ってくる、住民票を移さずに引っ越している、という場合、役所にはそれ以上の情報がありません。ここから先が、探偵業務(聞込み・尾行・張込みなどの実地の調査)の領域です。逆に言うと、探偵には、役所から住民票や附票を取る権限はありません。住民基本台帳法と戸籍法が職務上の請求を認めているのは、弁護士・司法書士・行政書士などの決まった資格者だけで、探偵業者は入っていません。「住民票を取ってきます」と言う探偵は、違法な方法で取るか、資格者に頼むかのどちらかです。
自分でできる範囲は、戸籍で本籍を知り、本籍地の役所から戸籍の附票で住所の履歴を取り、その住所に手紙を出すところまで。手紙が戻ってきたら、探偵の実地の調査(聞込み・張込み)の領域。どちらでも見つからなければ、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる。
行政書士や司法書士に相続手続きを頼んでいる場合は、その資格者が職務上の請求で附票を取れます(住民基本台帳法20条4項・戸籍法10条の2第3項)。依頼者本人が請求するのと取れる書類は同じで、違いは手間だけです。探偵に頼むのは、附票の住所に本人がいないと分かってからで、頼むときは「附票の住所はここ、手紙はこの日付で戻ってきた」と、ここまでの記録を渡します。調査の出発点が決まっていると、探偵の調査は短くなり、費用も減ります。探偵業法で決まっている契約前の書面と見積の読み方は、探偵業法の記事に書きました。
自分で附票を取る費用を書きます。附票の写しは1通300円の市区町村が多く(2026年10月時点、市区町村で異なります)、郵送請求なら手数料を定額小為替で送ります。小為替は郵便局で1枚につき200円の発行手数料がかかるので、300円の小為替を買うと500円。往復の郵便は、定形25グラムまでが110円(2024年10月から)で、返信用の封筒に貼る分と合わせて220円。合計で、附票1通につき720円です。本人が窓口に行けば、300円だけで済みます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 附票の写しの手数料(300円の市区町村が多い) | 300円 |
| 定額小為替の発行手数料(1枚200円) | 200円 |
| 郵便(往復、定形25グラムまで110円×2) | 220円 |
| 合計 | 720円 |
この女性の場合。兄の本籍は父の戸籍から分かり、兄が結婚して新しい戸籍を作った先の市でした。その市に郵送で附票を請求。添えたのは、父の死亡が載った戸籍、女性と父のつながりが分かる戸籍、兄が父の子であることが分かる父の古い戸籍、本人確認書類の写し、300円の小為替、返信用封筒。目的は「被相続人の遺産分割協議のため、相続人の住所を確認する必要がある」。10日で附票が届き、兄の現住所は隣の県でした。手紙を出すと、三週間後に返事が来た。兄は父が亡くなったことを知らず、「協議には応じる。実家は要らない」という内容でした。費用は附票720円と手紙の切手で、合計1,000円足らず。探偵の出番はありませんでした。
附票で見つからない場合の、次の二つを書いておきます。一つは探偵の所在調査で、附票の最後の住所を起点に、近隣の聞込みと転居先の確認をします。もう一つは、家庭裁判所の不在者財産管理人で、探しても分からない相続人の代わりに財産を管理する人を選んでもらい、その人と遺産分割協議をします。探しても見つからなかった記録(戻った手紙、探偵の報告書)が、この申立ての材料になります。この手続きは、行方不明の相続人の記事に書きました。
女性は「探偵の社長に相談して、探偵を使わずに済んだ」と笑っていました。それでいいのです。探偵の仕事は、役所の書類が尽きたところから始まります。相続人の住所は、戸籍→附票→手紙の順に、720円と三週間で分かることがある。この記事の図は、その順番と、どこから先が探偵の仕事かを一枚にしたものです。見積を取る前に、附票を取ってください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-09
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-09 確認)。
- e-Gov法令検索「住民基本台帳法」 ― 20条(戸籍の附票の写しの交付。1項は本人・配偶者・直系、3項は権利行使などの正当な理由がある人、4項は弁護士・行政書士などの特定事務受任者)、12条の3(住民票の第三者請求)
- e-Gov法令検索「戸籍法」 ― 10条・10条の2(戸籍謄本等の請求ができる人。第三者請求の要件と、資格者の職務上請求)
- e-Gov法令検索「探偵業の業務の適正化に関する法律」 ― 2条(探偵業務は聞込み・尾行・張込みなどの実地の調査)、6条(他の法令で禁止された行為はできない)