相続・手続き 2026-09-09
相続の相談先の選び方 ― 弁護士・司法書士・税理士・行政書士・調査士、何を誰に頼むか
相続の相談先は一つではありません。争いは弁護士、登記は司法書士、相続税は税理士、書類と協議書は行政書士、境界と分筆は土地家屋調査士、公正証書は公証役場。信託銀行や市役所の無料相談、法テラスもあります。「最初に誰に相談するか」で費用と時間が変わるので、事案の種類ごとの入口と、費用の目安、専門家同士の連携のされ方、相談前に用意するものを整理します。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → [亡くなってすぐ(3か月まで)] → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)
最初に行ったのは、銀行の相続相談窓口でした。次に、駅前の弁護士事務所。三つ目が、私の事務所です。母を亡くした男性は、二か月かけて三か所を回り、「銀行では信託の話をされ、弁護士には『争いがないなら私の出番ではない』と言われました」。財産は実家と預金三口座、相続人は男性と妹の二人、争いはなく、相続税はかからない見込み。この男性が最初に来るべきだった場所は、三つ目でした。二か月と、弁護士の相談料1万円が、その代金です。この記事は、その二か月を、次の人に使わせないために書きます。
行政書士と司法書士の違いの記事で、二つの資格の守備範囲を書きました。この記事は、それを相続の相談先全体に広げます。相続の場面で「誰に相談すればいいか分からない」は、よくある最初の悩みで、最初の相談先を間違えると、たらい回しや二重の費用になります。
相談先を、専門家の種類で並べます。弁護士は、相続人の間に争いがある場合、遺留分侵害額請求、遺産分割調停・審判、遺言無効の争い、相続放棄や限定承認の判断。争いの代理ができるのは弁護士だけです。ただ、相続登記は細かい決まり(法務省の通達など)を押さえる必要がある専門の仕事で、実務では司法書士に任せる弁護士がほとんどです。費用は最も高く、争いのない相続を頼むと割高です。司法書士は、相続登記、その前提としての戸籍集めと協議書、相続放棄の申述書の作成、成年後見の申立て。不動産がある相続の登記は、司法書士の中心業務です。税理士は、相続税の申告、財産の評価、二次相続を含めた試算、生前贈与の設計。相続税がかかる相続では、まず相談したい相手です。行政書士は、戸籍の収集と相続関係説明図、遺産分割協議書、遺言の文案と保管制度の支援、預貯金や自動車の名義変更、農地の届出、といった書類の作成と手続きの代行。登記と税務と争いを除く、相続の「書類の仕事」の全般です。土地家屋調査士は、境界確定、分筆、地目変更、建物の表題登記。公証役場は、公正証書遺言と、死後事務委任や任意後見の公正証書。
「争いがあるか」「不動産があるか」「相続税がかかるか」の三つで、入口が決まります。争いがあれば弁護士。争いはなく、不動産があれば司法書士(登記)か行政書士(協議書と書類を整えて、登記だけ司法書士へ)。争いはなく、相続税がかかれば税理士。三つとも該当しない、預貯金と自動車だけの相続なら、行政書士か、自分で。土地を分ける、境界が未確定、なら土地家屋調査士が加わります。
| 場面 | 入口 | 備考 |
|---|---|---|
| 相続人の間に争いがある、遺留分、調停 | 弁護士 | 争いの代理は弁護士だけ。費用は最も高い |
| 不動産の相続登記 | 司法書士 | 登記の専門。協議書も登記に付随して |
| 相続税の申告・試算・生前贈与の設計 | 税理士 | 相続税がかかるなら最初の相談先 |
| 戸籍収集、相続関係説明図、協議書、遺言の文案、名義変更 | 行政書士 | 書類の仕事の全般。登記・税務・争いは除く |
| 境界確定、分筆、地目変更 | 土地家屋調査士 | 土地を分ける相続で |
| 公正証書遺言、任意後見、死後事務委任 | 公証役場 | 専門家の文案を持ち込むことが多い |
| 収入が一定以下 | 法テラス、市区町村の無料相談 | まず話を聞いてもらう入口 |
費用の目安を書いておきます(2026年9月時点の相場感で、事案と地域で幅があります)。弁護士は、相談30分5,000円程度、遺産分割の交渉や調停で着手金20〜50万円と成功報酬(得た財産の数%〜十数%)。司法書士は、相続登記一式で7〜15万円程度(不動産の数と相続人の数で加算)と登録免許税。税理士は、相続税の申告の記事で書いたとおり遺産の0.5〜1%程度。行政書士は、戸籍収集と相続関係説明図で3〜5万円、協議書の作成で5〜10万円、遺言の文案支援で3万円から、が目安。土地家屋調査士は、境界確定測量で数十万〜100万円超。公証役場は公正証書遺言の作り方の記事のとおり。
専門家同士の連携についても書いておきます。相続の実務では、一人の専門家がすべてを担うことはなく、最初に相談を受けた専門家が、必要に応じて他の専門家を紹介する形が普通です。行政書士が戸籍と協議書を整え、登記は提携の司法書士、申告は提携の税理士に、という流れ。あるいは税理士が入口で、登記を司法書士に。「ワンストップ」を掲げる事務所は、この連携を一つの窓口でまとめているものです。最初の一人が、全体の交通整理をしてくれるかどうかを、相談の場で確かめてください。
| 専門家 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 弁護士 | 遺産分割の交渉・調停 | 着手金20〜50万円+成功報酬 |
| 司法書士 | 相続登記一式 | 7〜15万円+登録免許税 |
| 税理士 | 相続税の申告 | 遺産総額の0.5〜1%程度 |
| 行政書士 | 戸籍収集・相続関係説明図/協議書/遺言の文案 | 3〜5万円/5〜10万円/3万円〜 |
| 土地家屋調査士 | 境界確定測量 | 数十万〜100万円超 |
| 信託銀行 | 遺産整理業務 | 最低100万円前後から |
専門家以外の相談先も挙げます。市区町村の無料法律相談(弁護士や司法書士が30分程度、予約制)。法テラス(収入が一定以下の人向けの無料相談と費用の立替)。各士業の会の無料相談会(定期的に開かれます)。信託銀行の遺産整理業務(すべてを任せられるが、報酬は最低100万円前後からと高く、財産が大きい相続向け)。金融機関や不動産会社の「相続相談」は、自社の商品(信託、売却、ローン)への入口であることが多いので、そのつもりで使います。
相談の前に用意するものを書いておきます。亡くなった人の情報(氏名、生年月日、死亡日、最後の住所、本籍)。相続人の一覧(関係、年齢、住所、連絡が取れるか)。財産の一覧(不動産の所在、預貯金の銀行、株、保険、借金)と、分かる範囲の金額。遺言の有無。争いになりそうな点。相続手続きの全体像の記事で書いた「財産の把握」を、粗くてもいいので一枚にまとめて持っていく。相続登記ナビで整理した内容は、そのまま相談メモになります。
現場で、この男性の相続を三つの質問で仕分けました。争いがあるか、ない。不動産があるか、ある(実家、固定資産税評価額1,600万円)。相続税がかかるか、財産合計約3,800万円、基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円で、かからない(相続税では土地を路線価で評価するので、実家の評価は固定資産税評価額より1割ほど高くなりがちですが、それでも4,200万円には届きません)。仕分けの結果は「争いなし・不動産あり・相続税なし」で、入口は行政書士か司法書士。私の事務所で戸籍と協議書と預金の解約を整え、登記は相続人二人の単純な事案なので本人申請。費用は、私の報酬が12万円、登録免許税が1,600万円×0.4%で6万4,000円、戸籍等の実費が約8,000円。合計約19万2,000円で、二か月後に全部終わりました。
同じ年に、逆の順で来た人もいます。最初に私のところに来て、話を聞くと、兄が実家に住み続けたいと言い、弟は売って分けたいと言う。財産の大半が実家で、代償金を払う資力が兄にない。これは「争いあり」の入口で、私にできることは、財産の一覧と戸籍を整えて、弁護士に引き継ぐところまで。着手金30万円と成功報酬の説明を弁護士から受けて、調停に進みました。最初に来た場所が違っていても、仕分けができれば、次の場所は一回で決まります。
費用の話で、一つ現場の感覚を書いておきます。信託銀行の遺産整理業務は、最低報酬が100万円前後で、財産が1億円を超える相続ではその価値があります。3,800万円の相続で使うと、財産の2.6%が報酬になり、司法書士や行政書士に頼む場合の5倍以上です。銀行の窓口で信託の説明を受けた男性は、「自分の相続の規模では、話が大きすぎると感じた」と言いました。その感覚は正しく、相談先は、相続の規模でも変わります。
最後に。相続の相談は、「誰に」より「いつ」が大事です。相続放棄の3か月、相続税の10か月、相続登記の3年。期限の中で、最初の相談を早く。相談だけなら数千円か無料で、そこで「自分でできる」と分かることも多い。この解説記事の多くは、その最初の相談で聞かれることを、先に書いたものです。
三か所目で終わった男性は、帰り際に「最初の質問が、争いがあるかどうか、だったのが分かりやすかった」と言いました。この記事の一つ目の表は、その質問の順番で並べてあります。「誰に」より「いつ」が大事だ、と最後の段落に書きました。二か月の遠回りは、期限には間に合いましたが、相続放棄の3か月だったら、残りは一か月しかありませんでした。最初の一か所を、三つの質問で選んでください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。