相続・手続き 2026-09-08

行政書士と司法書士の違い ― 相続で、誰に何を頼めるのか

相続の相談先として名前が挙がる行政書士と司法書士。法律で決まっている「できること・できないこと」の線引きと、行政書士が窓口になって登記だけを司法書士へ回す実務の形、本人申請で済む場合、弁護士や税理士の出番を、行政書士の立場から整理します。

目次を見る →

この記事の位置: 亡くなる前にできること → [亡くなってすぐ(3か月まで)] → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「司法書士さんに全部頼んだら、遺産分割協議書は作れないと言われて、行政書士さんに行ったら、登記はできないと言われました。私はどこに行けばいいんですか」。父を亡くした女性が、三つ目の事務所として私のところに来ました。財産は実家と預金三口座、相続人は母と女性と弟。争いはない。二つの事務所の説明はどちらも正しく、女性が困っていたのは、その二つを誰がつないでくれるのか、でした。

相続の手続きを誰に頼むか。行政書士、司法書士、弁護士、税理士。名前は知っていても、それぞれが何をできるのかは分かりにくいと思います。法律で業務の範囲が決まっているので、まずそこから整理します。

司法書士の中心は「登記」です。司法書士法で、登記・供託の申請代理、法務局に提出する書類の作成、そして裁判所や検察庁に提出する書類の作成が業務として定められています。相続でいえば、相続登記の申請、相続放棄の申述書や特別代理人選任の申立書といった家庭裁判所に出す書類の作成が司法書士の領域です。認定を受けた司法書士は、140万円以下の民事事件に限って簡易裁判所で代理もできます。成年後見人に就く司法書士も多くいます。

行政書士の中心は「書類の作成と、官公署への手続き」です。行政書士法で、官公署に提出する書類の作成と提出代理、権利義務や事実証明に関する書類の作成、それらの相談が業務とされています。相続でいえば、戸籍の収集、相続関係説明図、遺産分割協議書、遺言書の案文、法定相続情報一覧図の申出、預貯金や自動車の名義変更、農地や許認可の相続に伴う届出などです。

逆に、行政書士にできないことも法律で決まっています。登記の申請代理はできません。裁判所に提出する書類(相続放棄の申述書、特別代理人の申立書、調停の申立書)の作成もできません。相続人の間に争いがあるときに、一方の代理人として交渉することもできません。これは弁護士だけの業務です。相続税の申告は税理士の業務で、行政書士にも司法書士にもできません。

相続の手続きを、誰ができるか(2026年9月時点)
手続き行政書士司法書士弁護士税理士
戸籍の収集・相続関係説明図○○○○
法定相続情報一覧図の申出○○○○
遺産分割協議書の作成○○(登記に付随する範囲)○―
遺言書の案文づくり・遺言執行者○○○―
相続登記の申請代理×○△(法律上は可能だが、実務ではまれ)×
相続放棄・特別代理人など家庭裁判所の書類×○○×
相続人同士の争いの代理・交渉××○×
相続税の申告×××○
預貯金・自動車の名義変更、許認可の届出○△○―

では実務で、依頼者はどう動けばいいのか。私の事務所では、相続の相談をまず一つの窓口として受けています。戸籍を集め、相続人を確定し、財産を一覧にし、遺産分割協議書を作る。ここまでは行政書士の業務です。そのうえで、不動産があれば相続登記が必要になります。登記は行政書士にはできないので、内容がシンプルなら依頼者本人が法務局へ申請する方法を勧め、数次相続や相続人が多い場合など複雑なときは、提携している司法書士へ登記だけを引き継ぎます。依頼者から見れば窓口は一つで、必要なところだけ専門家が分担している形です。

窓口は一つ、必要なところだけ専門家に回す
窓口は一つ、必要なところだけ専門家に回す左に相続人の女性。窓口の行政書士が、戸籍・相続関係説明図・財産の一覧・遺産分割協議書・預金の解約を受け持つ。登記は司法書士(または本人申請)へ実線の矢印。争いがあれば弁護士、相続税がかかりそうなら税理士へ、点線の矢印で回す。 相続人 相談相談 行政書士(窓口) 戸籍・説明図・財産一覧戸籍・説明図・財産一覧 協議書・預金の解約協議書・預金の解約 登記登記 争いがあれば争いがあれば 相続税がかかりそうなら相続税がかかりそうなら 司法書士(または本人申請)司法書士(または本人申請) 弁護士弁護士 税理士税理士

左に相続人の女性。窓口の行政書士が、戸籍・相続関係説明図・財産の一覧・遺産分割協議書・預金の解約を受け持つ。登記は司法書士(または本人申請)へ実線の矢印。争いがあれば弁護士、相続税がかかりそうなら税理士へ、点線の矢印で回す。

家庭裁判所の手続きが要る相続や、財産のほとんどが不動産の相続は、最初から司法書士を窓口にするほうが行き来が少なくて済みます。

本人申請を勧める理由は費用だけではありません。相続登記の申請書は法務局が様式と記載例を公開していて、相続人が配偶者と子だけで協議がまとまっている事案なら、書類さえ揃えば本人で十分に通ります。相続登記の義務化の記事で書いた「本人で申請できる相続」の見分け方は、この分担の判断そのものです。

司法書士に最初から頼んだほうがいい場合もあります。不動産が中心で、それ以外の財産がほとんどない。あるいは相続放棄をしたい。家庭裁判所の手続きが必要になる相続(未成年者・行方不明者・判断能力に不安のある相続人がいる)。こうしたときは、登記と裁判所書類の両方を扱える司法書士のほうが、行き来が少なくて済みます。多くの司法書士事務所は、登記に付随する範囲で遺産分割協議書の作成もします。

弁護士の出番は「争い」です。遺産分割で相続人の意見が割れ、話し合いでまとまらない。遺留分を請求したい、請求された。遺言の有効性を争いたい。ここに入ると、行政書士も司法書士も一方の味方として交渉することはできないので、弁護士を紹介して引き継ぎます。争いになる前の段階、つまり全員が納得して書面にする段階までが、行政書士と司法書士の仕事です。

現場でやったことを順に書きます。まず、女性の相続で必要な手続きを一枚の紙に並べました。戸籍の収集、相続関係説明図、財産の一覧、遺産分割協議書、預金三口座の解約、実家の相続登記、の六つ。このうち登記以外の五つは行政書士の業務で、登記だけが司法書士の業務です。相続税は、財産が実家(固定資産税評価額1,400万円、路線価ベースで約1,800万円)と預金2,200万円で合計4,000万円、基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円なので申告不要。税理士は要りませんでした。

次に、費用を並べました。私の事務所で戸籍収集から協議書、預金解約までを一括で12万円。登記は、相続人が母と子二人で協議がまとまっている単純な相続なので、女性本人が法務局に申請する方法を勧めました。登録免許税は固定資産税評価額1,400万円の0.4%で5万6,000円、これは誰が申請しても同じ。司法書士に頼めば報酬が7〜10万円ほど足されるところ、本人申請ならゼロです。女性は「自分でできるなら」と本人申請を選び、私は協議書と戸籍一式を法務局用に整えて渡し、申請書の記載例を一緒に確認しました。法務局の相談窓口を一度使って、登記は一回の補正もなく完了しました。

この家の費用(相続人三人・実家と預金三口座、2026年10月時点)
項目本人申請にした場合登記も司法書士に頼んだ場合
行政書士の報酬(戸籍収集〜協議書〜預金の解約)12万円12万円
登録免許税(固定資産税評価額1,400万円×0.4%)5万6,000円5万6,000円
司法書士の報酬(登記)0円7万〜10万円ほど
合計17万6,000円24万6,000円〜27万6,000円

窓口を一つにすると、書類を出す順番も決められます。この家で最初に決めたのは、預金の解約を先に、登記をあとにすることでした。遺産分割協議書に添える相続人の印鑑証明書は、相続登記では発行からの期限を問われません。一方、金融機関は「発行後6か月以内」のように期限を付けるところが多く、この家の三つの銀行のうち二つがそうでした。登記を先にして銀行の手続きが遅れると、印鑑証明書を三人分取り直すことになります。母・女性・弟には、印鑑証明書を一人2通ずつ取ってもらい、銀行で原本を返してもらえるかを、口座ごとに先に電話で確かめました。

戸籍の束は、法定相続情報一覧図にして一枚にしました。一覧図の申出は、親族のほか、行政書士や司法書士にも代理を頼めます。法務局で写しを5通、無料で受け取り、三つの銀行に1通ずつ、登記に1通、予備に1通。銀行ごとに戸籍の束を出して返ってくるのを待つ往復がなくなり、三つの解約を同じ週に並べて進められました。2024年4月からは、登記の申請書に一覧図の番号を書けば写しの添付も省けます。一覧図は法務局に5年保管されるので、あとで写しが足りなくなっても、最初に申出をした人なら取り直せます。

窓口を分けるときに、いちばん多いつまずきは、協議書の不動産の書き方です。別の相続で、ほかで作った協議書を持って来た方がいました。実家を「〇〇市〇〇町1丁目2番3号の土地建物」と住所で書いてあり、登記事項証明書の所在・地番・家屋番号と合っていません。さらに、名寄帳を取ると、家の前の私道の持分が協議書から抜けていました。登記を引き継ぐ司法書士から書き直しを求められ、相続人四人に実印を押し直してもらうのに、一か月かかりました。協議書を作る側が、登記事項証明書と名寄帳を先に取り、不動産を一筆ずつ写しておけば、引き継ぎで書き直しは起きません。行政書士が窓口になるなら、ここが一番の仕事です。

一方で、同じ月に来た別の相続では、最初から司法書士を紹介しました。相続人の一人が行方不明で、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる必要があり、財産は土地だけ。裁判所の書類も登記も司法書士の業務なので、行政書士が間に入る意味がありませんでした。窓口を私にすると、かえって行き来が増える。この見極めが、本文で書いた「財産の中心が不動産か、家庭裁判所の手続きが要るか」です。

まとめると、相続の手続きは「誰か一人に全部」ではなく「窓口を一つにして、必要なところだけ分担」が現実的です。窓口を行政書士にするか司法書士にするかは、財産の中心が不動産かどうか、家庭裁判所の手続きが要るかどうかで決めてください。どちらに頼んでも、争いがあれば弁護士、相続税がかかりそうなら税理士が加わります。

三つ目の事務所で女性に渡したのは、六つの手続きと、それぞれを誰がやるかを書いた一枚の紙でした。二つの事務所の説明はどちらも正しく、足りなかったのはこの紙です。「誰か一人に全部」ではなく「窓口を一つにして分担」と本文に書いたのは、女性のように、正しい説明を二回聞いて、二回困る人を減らしたいからです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-01

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-01 確認)。

あわせてどうぞ

解説記事一覧