離婚・家族 2026-09-12
別居の準備 ― 家を出る前に確認しておく五つのこと
離婚を考え始めたら、話し合いより先に「別居の準備」が要ります。財産の一覧を作る、必要な書類のコピーを取る、婚姻費用を請求する段取り、子の転校の手続き、そして安全の確保。準備なしで家を出ると、あとの話し合いで不利になったり、証拠や財産に手が届かなくなったりします。この記事は、この棚の各記事への入口としても使える、別居前のチェックリストです。
この記事の位置: [別居前・離婚を考え始めたら] → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
「明日、家を出ます」。金曜の夕方に電話をくれた女性は、荷物をまとめている途中でした。夫の暴力はない。ただ、もう一日も一緒にいたくない。私は、五つのことを聞きました。通帳のコピーはあるか、ない。源泉徴収票は、ない。子の学校の書類は、ない。自分の口座に生活費は、12万円。行き先は、実家。「三日、待てますか」。女性は、月曜まで待ちました。この記事は、その三日間の話です。
離婚の相談で、実は一番早く聞かれるのが「もう家を出たいのですが、今すぐ出て大丈夫でしょうか」です。答えは、「危険が迫っているなら今すぐ、そうでなければ、できれば準備をしてから」です。この記事は、その準備の中身を、五つに分けて書きます。危険が迫っている場合は、この記事より先にDV・モラハラと保護命令の記事を読んでください。
一つ目、財産の一覧を作ることです。財産分与の基本の記事で書いたとおり、財産分与は別居時点の財産が基準になります。預貯金の残高、不動産の権利証や固定資産税の通知書、株式や保険の証券、住宅ローンの残高、退職金の見込額。これらは、別居してしまうと確認が難しくなります(相手が通帳を隠す、書類を処分する、ということも起こります)。通帳や証券のコピー、残高が分かる画面のスクリーンショットを、別居前に取っておいてください。
二つ目、必要な書類のコピーです。自分と子の戸籍謄本、住民票、保険証、年金手帳、印鑑登録カード、マイナンバーカード、子の学校関係の書類(母子手帳、通知表)。相手の年収が分かる源泉徴収票や確定申告書も、婚姻費用と養育費の算定表の計算に必要なので、可能な範囲でコピーしておくと、あとの話し合いが早く進みます。
三つ目、別居後すぐに婚姻費用を請求する段取りです。別居中の婚姻費用の記事で書いたとおり、婚姻費用は請求した時点からしか認められないのが実務です。別居した当日か、遅くともその週のうちに、内容証明郵便で請求する。文面のひな形は、弁護士やインターネットの書式で用意しておき、別居後すぐに出せるようにしておきます。
四つ目、子がいる場合の転校や保育園・幼稚園の手続きです。学区が変わる引っ越しをするなら、転校先の学校を事前に調べ、必要書類(在学証明書、教科書給与証明書)を今の学校からもらう段取りを確認します。DVなど相手に転校先を知られたくない事情がある場合は、離婚後の手続きの記事で書いた住民票の閲覧制限(DV等支援措置)を、転校の手続きと合わせて自治体に相談してください。
五つ目、安全と当面の生活費の確保です。別居直後は、相手の口座に依存していた生活費が止まることがあります。自分名義の口座と、当面(1〜2か月分)の生活費を、別居前に確保しておく。実家や信頼できる知人に、別居することと、行き先(詳しくは言わなくても、緊急連絡先として)を伝えておく。子を連れて別居する場合、子の学用品、常備薬、母子手帳など、すぐに必要なものを一つの袋にまとめておくと、当日慌てません。
別居のタイミングについても一言書きます。「連絡もなく突然家を出る」ことは、あとで相手から「悪意の遺棄」(離婚調停と裁判離婚の流れの記事で書いた裁判離婚の原因の一つ)だと主張されるリスクがあります。DVなど安全上の理由がある場合を除き、書き置きや簡単な連絡を残す、あるいは事前に「別居する」という意思を伝えておくほうが、あとの話し合いでは有利に働くことが多いです。ただし、相手に伝えると危険が増す場合は、安全を優先してください。
| 項目 | すること | 関連記事 |
|---|---|---|
| 財産の一覧 | 通帳・証券・不動産・保険・ローン残高のコピー | 財産分与の基本 |
| 書類のコピー | 戸籍・住民票・保険証・年金手帳・相手の収入資料 | 離婚協議書に書くこと |
| 婚姻費用の請求 | 別居当日〜その週に内容証明で請求 | 別居中の婚姻費用 |
| 子の転校・保育 | 転校先の確認、必要書類の準備、住民票の閲覧制限 | 離婚後の手続き |
| 安全と生活費 | 自分名義の口座、当面の生活費、緊急連絡先の確保 | DV・モラハラと保護命令 |
三日でやったことを、順に書きます。土曜、夫が外出している間に、夫名義の通帳三冊と、住宅ローンの返済予定表、生命保険の証券、前年の源泉徴収票を、スマートフォンで撮影。夫の年収は620万円と分かりました。自分と子の戸籍謄本と住民票は、市役所の休日窓口で取得。子(9歳)の学校には、月曜に転校の相談をする段取りで、必要書類(在学証明書、教科書給与証明書)を確認。日曜、内容証明の文面を、私が下書きし、女性が清書。宛先は夫、内容は別居の事実と、算定表に基づく婚姻費用月10万円の請求。月曜、女性は子と実家に移り、その日の午後に内容証明を投函。実家には、金曜のうちに電話で伝えてありました。
三日待ったことの意味を、数字で書きます。婚姻費用は内容証明の月から。金曜に出ていても月曜に出ていても、同じ月なので、起算点は変わらず。ただ、源泉徴収票がなければ、請求額の根拠が「たぶん600万円くらい」になり、調停で夫が「そんなにない」と言えば、そこで止まる。通帳の写真があったので、財産分与の一覧は、別居時点の残高で最初から作れました。夫名義の預金は410万円。写真がなければ、夫が「200万円しかない」と言ったときに、反証がありませんでした。
一つ、女性が三日の間に考え直したこともあります。「連絡もなく出る」つもりでしたが、書き置きを残すことにしました。「子と実家に行きます。話し合いは代理人を通してください」の二行。夫は、この書き置きを見て、翌週に私の事務所に電話をかけてきました。「悪意の遺棄」と主張する余地を、二行が消しました。安全上の理由がない別居では、この二行が、あとの話し合いを変えます。
最後に、この記事は入口です。財産の分け方は財産分与の基本、生活費は婚姻費用、子どものことは親権と面会交流の詳細、書面の作り方は離婚協議書に書くこと、安全の確保はDV・モラハラと保護命令。それぞれ、もう一段詳しく書いています。準備は、気持ちの整理をする時間にもなります。焦って家を出るより、五つのうちできる範囲だけでも整えてから動くことを勧めています。
「明日、家を出ます」は、「月曜に、家を出ます」になりました。三日で、通帳の写真と源泉徴収票と戸籍と内容証明と、二行の書き置き。離婚は、別居から七か月で協議離婚が成立し、財産分与は別居時点の一覧で、婚姻費用は内容証明の月から、養育費は源泉徴収票の620万円で計算されました。「できれば準備をしてから」と本文の最初に書いた準備は、この家では、三日でした。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。