離婚・家族 2026-09-12
財産分与の基本 ― 何が対象で、何が対象外か、2分の1の原則と住宅ローンの家
財産分与は、婚姻中に夫婦で築いた財産を、離婚のときに分ける制度です。名義がどちらでも、婚姻中に増えた分は共有財産として原則2分の1ずつ。結婚前の財産と相続・贈与でもらった財産は対象外。預貯金、不動産、保険、退職金、そして借金の扱い、住宅ローンが残る家の三つの選択肢、請求期限(2026年4月の改正で2年から5年に)、税金を整理します。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → [離婚の中身を決める] → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
「家は夫の名義で、ローンも夫。私には何もないですよね」。18年の結婚生活を終えようとしている女性の、最初の言葉でした。専業主婦で、預金は自分名義で80万円。夫名義の家、夫名義の預金、夫の退職金の見込み。女性は「何もない」と思っていました。一覧表を作ると、女性の取り分は約1,900万円でした。この記事は、その一覧表の話です。
離婚のときに最も金額が大きく、最も計算がいるのが財産分与です。「夫の名義だから夫のもの」ではなく、「婚姻中に築いたものは名義にかかわらず二人のもの」というのが原則です。何が対象で、どう分けるかを、実務の順で書きます。
夫名義の自宅、預金、保険や退職金など、婚姻中に築いた財産をひとまとめにして、夫と妻が2分の1ずつ受け取る。名義がどちらかは関係ない。
対象になるのは、婚姻中に夫婦の協力で得た財産(共有財産)です。預貯金、不動産、自動車、株式や投資信託、解約返戻金のある生命保険、退職金(近い将来に支給される見込みがあれば、婚姻期間に対応する分)、家財。名義は問いません。妻名義の預金でも、夫名義の家でも、婚姻中に増えた分は対象です。専業主婦(主夫)でも、家事や育児で財産形成に貢献したとして、原則2分の1です。
対象にならないのは、「特有財産」です。結婚前から持っていた預貯金や不動産、婚姻中に相続や贈与で受け取った財産(相続した実家、親からもらった資金)、そして、それらを元にした財産。相続した預金を婚姻中の口座に混ぜていると、特有財産の証明が難しくなるので、相続手続きの全体像の記事で書いた「財産の把握」と同じく、通帳の記録で出所を示せるかが鍵です。
| 対象(共有財産) | 対象外(特有財産) |
|---|---|
| 婚姻中に貯めた預貯金(名義を問わない) | 結婚前からの預貯金・不動産 |
| 婚姻中に買った不動産・自動車 | 相続・贈与で受け取った財産とそれを元にした財産 |
| 解約返戻金のある保険、株式・投資信託 | 別居後に得た財産 |
| 退職金(婚姻期間に対応する分、支給見込みがあれば) | 個人的な浪費・ギャンブルの借金(相手には及ばない) |
| 婚姻生活のための借金(差し引く) |
分け方の原則は2分の1です。特別な事情(一方の特殊な才能や努力で著しく財産が増えた、など)がなければ、収入の差や家事の分担にかかわらず、半分ずつ。基準時は、別居した時点(別居していなければ離婚時)で、その時点の財産を一覧にして分けます。別居後に増えた財産は対象外です。
借金の扱いも書きます。住宅ローンや教育ローンのように、婚姻生活のために負った借金は、財産の額から差し引いて考えます(マイナスの財産分与)。一方、ギャンブルや個人的な浪費の借金は対象外で、借りた本人のものです。財産の合計から婚姻生活のための借金を引いて、残りを分ける。合計がマイナスなら、分けるものがない、ということになります。
住宅ローンの残る家が、最も揉めます。選択肢は三つ。一つ、売却して、代金からローンを返し、残れば分ける(オーバーローンなら残債の扱いを決める)。二つ、一方が住み続け、ローンも名義もその人に一本化する。金融機関の同意が要り、収入によっては借り換えが通らないことがあります。三つ、名義とローンは元のまま、もう一方が住み続ける。夫名義・夫のローンの家に妻と子が住む形で、よくある形ですが、夫が返済を止めれば家は競売になり、妻は住めなくなります。不動産の名義の記事で書いたとおり、この形は不安定で、期限(子が成人するまで、など)を決めて、その後に売却か名義変更をする、という約束を協議書に書いておくべきです。
| 選択肢 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| 売却 | 代金でローンを返し、残りを分ける | オーバーローンなら残債の負担を決める |
| 一方に一本化 | 住む人にローンと名義を移す | 金融機関の同意・借り換えの審査 |
| 名義とローンは元のまま住み続ける | 夫名義の家に妻子が住むなど | 返済が止まれば競売。期限と出口を協議書に |
請求期限を書きます。財産分与は、離婚のときに決めなくても、離婚後に請求できますが、期限があります。改正前は離婚から2年で、2026年4月の民法改正で5年に延びました。それでも、離婚のときに決めて、協議書に書くのが原則です。離婚後に請求すると、相手が財産を使ってしまっていたり、資料が手に入らなかったりします。
税金についても一言。財産分与で受け取る側には、原則として贈与税はかかりません(分与として相当な範囲なら)。不動産を分与で受け取ると、登録免許税(評価額の2%)と不動産取得税がかかり、分与する側には、不動産の含み益に譲渡所得税がかかることがあります(居住用の3,000万円控除は、離婚後に元配偶者へ分与すれば使えます)。不動産の分与は、税金の順番で損得が変わるので、税理士に一度確認してください。
一覧表の中身を書きます。別居時点の財産。夫名義の預金680万円、妻名義の預金80万円。自宅は査定2,800万円、住宅ローン残債1,500万円で、純資産1,300万円。夫の生命保険の解約返戻金210万円。夫の退職金は、勤続22年のうち婚姻期間18年分で、会社の規程による見込額1,400万円のうち約1,150万円が対象。自動車は査定60万円。合計で、預金760万円+自宅1,300万円+保険210万円+退職金1,150万円+車60万円で3,480万円。夫が結婚前から持っていた預金150万円は特有財産で除外し、妻が母から相続した200万円も除外(通帳で出所を示せた)。共有財産は約3,480万円、2分の1で約1,740万円。ここに、女性の名義の80万円がすでにあるので、夫から受け取る分は約1,660万円。退職金は支給時まで払えないので、退職時に払う約束を協議書に書き、それ以外の約1,080万円を離婚時に。
自宅の扱いが、この家でも一番揉めました。女性は子二人と住み続けたい。三つの選択肢のうち、二つ目(女性の名義とローンに一本化)は、女性に収入がなく借り換えが通らない。三つ目(夫名義・夫のローンのまま女性が住む)は不安定。結局、一つ目に近い形で、自宅は下の子が高校を卒業するまでの五年間、夫名義のまま女性と子が住み、五年後に売却して残債を返し、残りを分ける、という期限付きの約束にしました。その間の住宅ローンは夫が払い、養育費とは別に「住居費相当」として扱う。協議書に期限と手順を書き、公正証書にしました。
税金の確認も一つ。自宅を五年後に売るとき、夫が売主で、離婚後の売却なので、居住用の3,000万円控除は夫が使えない可能性がある(離婚後に住んでいないため)。売却時に譲渡所得が出るなら、女性に分与する前に税理士に確認する、という一文を協議書に入れました。「税金の順番で損得が変わる」と本文に書いた確認です。
財産分与の作業は、まず一覧表を作ることから始まります。預貯金は別居時点の残高、不動産は査定額(土地価格スキャンで桁を掴んでから、不動産会社の査定)、保険は解約返戻金の額、退職金は会社の規程での見込額、借金は残高証明。この表がないと、話し合いは「感覚」で進み、まとまりません。表ができれば、あとは2分の1です。
「私には何もない」と言った女性の一覧表は、共有財産3,480万円、取り分1,740万円でした。名義ではなく、婚姻中に増えた分。その原則を、一覧表が形にしました。「表がないと話し合いは感覚で進み、まとまらない」と本文の最後に書きました。この家では、表ができた日に、夫が「そんなにあるのか」と言い、その日から、話が数字で進みました。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。