離婚・家族 2026-09-12

離婚協議書に書くこと ― 条項の順番と、あとで揉めない書き方

離婚協議書は、夫婦で合意した内容を書面にしたものです。決まった様式はなく、私文書でも効力があります。書くのは、離婚の合意、親権、養育費、面会交流、財産分与、年金分割、慰謝料、清算条項、そして通知義務。条項ごとに、何をどこまで具体的に書くか、曖昧に書いて揉めた例、公正証書にするべき条項、行政書士に頼むときの費用を整理します。

目次を見る →

この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → [書面にする・届を出す] → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)

夫婦が自分たちで書いた離婚協議書を持って来ました。A4一枚。「夫は妻に養育費として相応の額を支払う」「財産は話し合って分ける」「今後互いに干渉しない」。三行です。二人は「これで公正証書にしてください」と言いました。公正証書にはできます。ただ、この三行を公正証書にしても、養育費が止まったときに差し押さえる金額が、どこにも書いてありません。この記事は、その一枚を、使える書面に書き直した話です。

協議離婚の記事で「決めたことは書面に」と書きました。その書面が離婚協議書です。決まった様式はなく、手書きでもパソコンでも構いません。夫婦が署名(押印)すれば、私文書として契約の効力を持ちます。ただし、書き方が曖昧だと、効力があっても使えません。条項の順番と、具体性の水準を書きます。

一条目は、離婚の合意です。「甲と乙は、協議離婚することに合意し、離婚届は乙が令和〇年〇月〇日までに提出する」。誰がいつまでに届を出すかを書いておくと、署名した届が放置されることを防げます。

二条目は、親権と監護です。未成年の子の氏名と生年月日を書き、親権者を定めます。2026年4月の改正で、共同親権を選ぶ場合は「父母双方を親権者と定める」と書き、日常の世話をする監護者を定めるならその旨も書きます。単独親権なら「親権者を母と定め、母が監護養育する」。親権の記事で書いた選択の考え方が、ここに反映されます。

三条目が、養育費です。ここが最も具体性が要ります。子一人につき月額いくら、毎月何日までに、どの口座へ、いつまで(20歳に達する月まで、または大学卒業の月まで)、進学や病気の特別な費用をどう分担するか、収入の変動があった場合の見直しの協議。養育費と算定表の記事で書いた目安を土台に、金額を決めます。「月額5万円を毎月末日限り、乙名義の〇〇銀行の口座に振り込む」まで書きます。「相応の額を支払う」では、払われません。

四条目は、面会交流です。月に何回、何時間、どこで受け渡すか、宿泊を認めるか、学校行事への参加、電話やビデオ通話の頻度、子の意思を尊重すること。細かく書きすぎると守れず、粗すぎると揉めます。「月2回程度、日時と方法はその都度協議する」を骨格に、最低限の頻度と連絡手段だけ固定する、というのが実務でよく使う形です。

五条目は、財産分与です。財産分与の記事で書いた対象財産を一覧にし、誰が何を取得するか、代償金があるなら額と支払日を書きます。不動産は登記事項証明書どおりに所在・地番・家屋番号を書き、名義変更(財産分与を原因とする所有権移転登記)を誰がいつまでにするかを書きます。住宅ローンが残る家は、誰が住み、誰が返済し、名義をどうするかを、金融機関の同意が要ることも含めて書きます。

六条目は、年金分割です。「甲と乙は、厚生年金の按分割合を0.5と定める」。合意分割はこの一文と、年金事務所への手続きで進みます。年金分割の記事で手続きを書いています。

七条目は、慰謝料です。ある場合は、額、支払期日、分割なら回数と期日、遅延した場合の扱い。ない場合は「慰謝料の請求はしない」と明記します。慰謝料の記事で相場と証拠の話を書いていますが、協議書では金額と期日だけです。

八条目が、清算条項です。「甲と乙は、本協議書に定めるほか、互いに何らの債権債務がないことを確認する」。この一文で、あとから「実はまだ請求したいものがある」を封じます。ただし、書いたあとで発覚した隠し財産や、子の養育費(子の権利なので親の合意で放棄できない)は、清算条項の外です。

九条目に、通知義務と協議条項を置きます。住所・連絡先・勤務先が変わったら通知する、この協議書に定めのない事項や事情の変更は誠実に協議する。養育費の記事で書く不払いへの対応は、相手の勤務先が分かっていることが前提なので、通知義務が効きます。

離婚協議書の条項と、具体性の水準
条項書くこと曖昧だと
離婚の合意誰がいつまでに届を出すか届が放置される
親権・監護共同か単独か、監護者届が受理されない
養育費月額・支払日・口座・終期・特別費用・見直し払われない
面会交流最低限の頻度と連絡手段会えない争いになる
財産分与財産の一覧、取得者、代償金、登記の期限、ローンの扱い名義が動かない
年金分割按分割合(0.5)手続きが進まない
慰謝料額と期日、または「請求しない」あとから請求される
清算条項他に債権債務がないことの確認蒸し返される
通知・協議住所・勤務先の変更通知、事情変更の協議不払い時に追えない

公正証書にするべき条項は、養育費、慰謝料、財産分与の代償金など「将来にわたって、または分割で払われる金銭」です。公正証書の記事で書く強制執行認諾文言があれば、不払いのときに裁判なしで差押えができます。離婚協議書を作ってから、その内容を公証役場に持ち込む、という順番です。

現場で、一行ずつ直しました。「相応の額」は、算定表を一緒に見て「月額5万円」に。「支払う」は「毎月末日限り、乙名義の〇〇銀行〇〇支店の普通預金口座に振り込む」に。いつまでかを聞くと「大学まで」と言うので、「22歳に達したあとの最初の3月まで。ただし高校卒業後に進学しないときは18歳に達したあとの最初の3月まで」に。入学金や大きな医療費は「双方協議のうえ折半を原則とする」に。この一条だけで、三行の協議書は八行になりました。

「財産は話し合って分ける」は、その場で話し合ってもらいました。預貯金は夫名義300万円、妻名義150万円。車は夫名義で、妻が使っている。結果、「甲は乙に財産分与として金75万円を〇月〇日までに支払う。車両(車台番号〇〇)は乙が取得し、名義変更の手続きは甲が協力する」。話し合いは20分で終わりました。「今後互いに干渉しない」は、法律上は意味を持ちにくい文なので、清算条項「本協議書に定めるほか、互いに何らの債権債務がないことを確認する」に置き換え、面会交流の条項(月2回、受け渡しは駅、宿泊は夏休みに1回)と、住所・勤務先が変わったら通知する条項を足しました。仕上がりは三枚、九条です。公正証書にしたのは、養育費と財産分与の75万円の部分です。

八か月後、妻から電話がありました。「二か月、振込がありません」。公正証書の正本を持って、公証役場で執行文をもらい、夫の勤務先(協議書の通知条項で把握していた)に給与差押えの申立てをしました。差押えは翌月から始まり、以後、養育費は給与から直接、妻の口座に入っています。三行の協議書のままなら、この時点で「相応の額」がいくらかを決めるところから始めて、半年かかっていました。

行政書士に頼む場合の費用は、協議書の作成だけなら3〜4万円程度、公正証書の文案作成と公証役場の手配を含めて5〜10万円程度が目安です。夫婦の合意ができていることが前提で、合意そのものを作る交渉は弁護士の領域です。自分で書くなら、この記事の条項の順番で、金額と期日を全部数字で書く。それだけで、協議書の役目の大半は果たせます。

夫婦が持って来た三行は、間違いではありませんでした。気持ちとしては、その通りだったのだと思います。ただ、書面は気持ちを記録するものではなく、止まったときに動かすためのものです。数字と日付と口座番号。この記事の表に「具体性の水準」を書いたのは、三行と九条の差が、そこにしかないからです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-15

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

あわせてどうぞ

解説記事一覧