離婚・家族 2026-09-12

養育費と算定表 ― 月額の決め方、終期、不払いの実態と、2026年の法定養育費

養育費は、離婚後に子と離れて暮らす親が、子のために払うお金です。額は、裁判所が公表している算定表(双方の年収と子の数・年齢で読む)を目安に決めるのが実務の標準で、たとえば年収500万円の会社員が、年収100万円の相手と暮らす子一人(14歳以下)に払う目安は月4〜6万円の帯です。終期、特別費用、見直し、不払いの実態と対策、2026年4月の改正で入った法定養育費(子一人あたり月2万円)と先取特権を整理します。

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この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → [離婚の中身を決める] → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)

「月に5万円で、大学を出るまで」。協議離婚を決めた30代の夫婦が、二人で相談に来ました。子は一人、10歳。夫は会社員で年収500万円、妻はパートで年収100万円。額は二人で話して決めたそうで、私の仕事は、それを効力のある形にすることでした。ただ、その前に一つ聞きました。「5万円という数字は、どこから出ましたか」。夫は「相場だと聞いた」と言い、妻は「妥当だと思った」と言いました。二人とも、算定表を見たことはありませんでした。この記事は、その表の読み方と、表に書いていないことの話です。

養育費は、離婚しても親であることは変わらない、という原則から来る義務です。子と離れて暮らす親(非監護親)が、子と暮らす親(監護親)に、子の生活費・教育費・医療費として払います。親の権利ではなく子の権利なので、親同士の合意で「要らない」と放棄することは、本来できません。額の決め方から書きます。

額の目安は、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」です。払う側と受け取る側の年収(給与か自営業か)と、子の人数と年齢(0〜14歳、15歳以上)で、表の交点に月額の帯(1〜2万円、2〜4万円、4〜6万円…)が示されています。2019年12月に改定された表が現在使われています。調停や審判ではこの表が基準になり、協議離婚でも、この表の額を土台に話し合うのが実務の標準です。表は裁判所のサイトで誰でも見られます。

例を挙げます。払う側が年収500万円の会社員、受け取る側が年収100万円のパート、子が一人で10歳。この条件で表を読むと、月額4〜6万円の帯に当たります。子が二人(10歳と7歳)なら6〜8万円の帯。払う側の年収が800万円なら、子一人で8〜10万円の帯。あくまで帯で、帯の中のどこにするか、帯の外にするかは、住宅ローンの負担や私立学校の学費など個別の事情で調整します。

算定表の読み方の例(子一人・10歳、払う側は給与収入。帯は目安)
払う側の年収受け取る側の年収月額の目安
300万円100万円2〜4万円
500万円100万円4〜6万円
500万円300万円4〜6万円(帯の下寄り)
800万円100万円8〜10万円
500万円(子二人:10歳・7歳)100万円6〜8万円

決めることは、月額だけではありません。支払日と方法(毎月末日に口座振込)、終期(20歳に達する月まで、が最も多く、大学進学を前提に22歳の3月まで、とする合意も増えています。成人年齢が18歳になっても、養育費の終期は当然には18歳になりません)、特別な費用(進学の入学金、大きな医療費、塾)の分担、収入が大きく変わったときの見直しの協議。離婚協議書の記事で書いたとおり、これを全部、数字と日付で書きます。

不払いの実態を書いておきます。厚生労働省の全国ひとり親世帯等調査(令和3年度、2021年11月時点)では、母子世帯で養育費の取り決めをしているのは46.7%、養育費を「現在も受けている」のは28.1%。取り決めをしている世帯に限っても、受けているのは57.7%でした。取り決めをしていない世帯が多く、取り決めても止まる。この数字が、公正証書の記事で書いた強制執行認諾を勧める理由です。公正証書があれば、止まった時点で給与の差押えができ、将来分もまとめて差し押さえられます。

2026年4月の民法改正で、二つの仕組みが入りました。一つ、「法定養育費」。離婚のときに養育費の取り決めをしなかった場合でも、法律で定める最低限の額を、監護親が請求できるようになりました。取り決めがないから一円も払われない、という状態をなくすための制度で、額は法務省令で、子一人あたり月2万円と定められました(子二人なら月4万円。算定表をもとに取り決める額より低い水準です)。二つ、養育費の債権に「先取特権」が付き、公正証書や調停調書がなくても、子一人あたり月8万円までの範囲で差押えの申立てができるようになりました。それでも、額を自分たちで決めて公正証書にするほうが、額も手続きも有利です。法定養育費は最後の網で、取り決めの代わりではありません。

養育費で決めること
項目書き方の例
月額子一人につき月5万円
支払日・方法毎月末日限り、〇〇銀行の口座へ振込
終期20歳に達する月まで(大学進学時は22歳の3月まで)
特別費用入学金・大きな医療費は折半、事前に協議
見直し収入の大幅な変動、再婚・養子縁組のときは協議
不払い対策公正証書に強制執行認諾文言。勤務先変更の通知義務

受け取る側の注意も書きます。養育費は、受け取る側の所得には算入されず、贈与税もかかりません。児童扶養手当の所得の計算では、受け取った養育費の8割が所得に算入されるので、手当の額に影響することがあります。離婚後の手続きの記事で、手当の申請を書いています。

現場で、裁判所の算定表を一緒に見ました。払う側の給与500万円、受け取る側の給与100万円、子一人で0〜14歳。表の交点は「4〜6万円」の帯です。二人が決めた5万円は、帯のちょうど真ん中でした。相場だと聞いた、妥当だと思った、という二人の感覚は、表と合っていました。ここまでは良い話です。表に書いていないことを、次に決めました。

一つ目、終期。「大学を出るまで」は、書面では使えません。何歳の何月まで、と書く必要があります。二人は「22歳に達したあとの最初の3月まで」にしました。大学を卒業する年の3月です。進学しなかった場合はどうするか、を聞くと、二人とも考えていなかったので、「高校卒業後に進学しない場合は、18歳に達したあとの最初の3月まで」という一文を足しました。二つ目、子が15歳になったら表の帯が上がること。0〜14歳と15歳以上で表が分かれていて、同じ年収なら15歳から6〜8万円の帯に移ります。5万円のままにするか、15歳で見直すか。二人は「15歳になった月から6万円」と決めました。三つ目、特別な費用。入学金、塾、大きな医療費は月額に含まれないので、「双方で協議し、折半を原則とする」と書きました。四つ目、支払日と口座。毎月末日、妻の口座へ振込。

書面は公正証書にしました。妻は「彼は払ってくれる人だから、公正証書までしなくても」と言い、夫も頷きました。私は、310件の公正証書を作ってきて、作らなかった人の側で起きたことを話しました。相手の再婚のあと、支払いが止まる例が多いこと。止まったとき、公正証書があれば裁判なしで給与を差し押さえられ、なければ調停から始めて半年かかること。二人は公正証書にしました。手数料は、養育費の目的価額(5万円×12か月×5年と6万円×12か月×5年の10年分で660万円)で1万7,000円でした。これは当時の計算です。2025年10月に公証人手数料令が改められ、養育費の目的価額は5年分が上限になりました。いま同じ内容で作ると、5万円×12か月×5年の300万円で、手数料は1万3,000円です(証書の枚数による加算などは別です)。

三年後、夫から連絡がありました。再婚して子が生まれ、収入は変わらないが扶養家族が増えた。養育費を減らしてほしい、という話です。これは正当な事由に当たり得るので、まず妻と協議し、まとまらなければ家庭裁判所の減額調停です。二人は協議で、5万円から4万円に変えました。公正証書があったからといって、額が一生固定されるわけではなく、事情が変われば見直せます。ただ、見直しは「協議か調停」を通す。相手に無断で減らすことはできない、というのが公正証書の効き方です。

払う側の注意も一つ。養育費を払っている親は、子を扶養親族として税の扶養控除の対象にできる場合があります(監護親と重複はできません)。また、面会交流と養育費は別の話で、「会わせてもらえないから払わない」「払わないから会わせない」は、どちらも法律上は通りません。子の権利は、親同士の駆け引きの外にあります。

最初の日に「5万円という数字はどこから出ましたか」と聞いたのは、数字が間違っているかを確かめるためではありませんでした。二人が同じ表を見て、同じ根拠で決めたかを確かめるためです。根拠を共有した数字は、三年後に見直すときも、同じ表に戻れます。感覚で決めた数字は、見直しのたびに感情の話になります。養育費の額は表で決まり、養育費の続き方は書面で決まる。この記事の二つの表は、その順番で置いています。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-02

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-02 確認)。

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