離婚・家族 2026-09-12

別居中の婚姻費用 ― 離婚が決まるまでの生活費は、誰がいくら払うのか

別居しても、離婚が成立するまでは夫婦です。収入の多い側は、少ない側と子の生活費(婚姻費用)を分担する義務があります。額は養育費と同じ算定表で決まり、養育費より高い帯になります。請求した時点からしか認められないのが実務なので、別居したらすぐ請求する。決め方、調停の流れ、払わない場合、離婚が長引く場合の扱いを整理します。

目次を見る →

この記事の位置: [別居前・離婚を考え始めたら] → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)

別居して七か月、子二人と暮らす女性が来ました。夫からの生活費はゼロ。女性のパート収入は月9万円で、貯金を取り崩して七か月。「離婚が決まるまで、我慢するしかないんですよね」。我慢する必要はなく、請求できる。ただ、七か月分は、ほぼ取り戻せない。請求した月からが原則です。この記事は、その七か月と、八か月目からの話です。

離婚の話し合いが始まると、多くの夫婦は別居します。別居から離婚の成立まで、数か月から数年。その間の生活費をどうするか。答えは、「離婚が成立するまでは夫婦なので、収入の多い側が分担する」です。これを婚姻費用と呼び、実務では「こんぴ」と略します。養育費と似ていますが、違う点があります。

婚姻費用は、夫婦と未成熟の子の生活費、住居費、教育費、医療費など、婚姻生活を維持するための費用です。民法は、夫婦が資産・収入その他一切の事情を考慮して分担する、と定めています。別居中でも、離婚が成立していなければこの義務は続きます。収入の少ない側(多くは子と暮らす側)が、多い側に請求します。

額は、養育費と同じ「養育費・婚姻費用算定表」で決めます。養育費の記事で書いた表の、婚姻費用の側です。婚姻費用は、子の分だけでなく配偶者本人の生活費を含むので、同じ年収でも養育費より高い帯になります。例えば、払う側が年収500万円の会社員、受け取る側が年収100万円で子一人(10歳)なら、養育費は4〜6万円の帯ですが、婚姻費用は8〜10万円の帯です。

婚姻費用と養育費の違い
婚姻費用養育費
いつ別居から離婚の成立まで離婚の成立後
誰の分配偶者本人+子子のみ
額の目安算定表の婚姻費用の側(養育費より高い帯)算定表の養育費の側
いつから請求した時点から(さかのぼれないのが実務)取り決めた時点から
決まらないとき婚姻費用分担請求調停→審判養育費請求調停→審判

最も大事なのは、「請求した時点から」です。婚姻費用は、過去にさかのぼって請求できないのが実務の扱いで、調停や審判では、請求した月(調停の申立て月や、内容証明で請求した月)からの分が認められます。別居してから半年、何も言わずに我慢していた分は、取り戻せません。別居したら、その月のうちに、書面(内容証明郵便が確実)で請求する。それが最初にすることです。

決め方は、協議で決まれば書面にして、公正証書にすれば強制執行認諾文言で差押えができます。協議で決まらなければ、家庭裁判所に「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てます。調停は、離婚調停と同時に申し立てることが多く、離婚調停の中で婚姻費用だけを先に決める、という進め方が普通です。調停で決まらなければ審判に移り、裁判所が算定表を基準に額を決めます。審判は、離婚そのものより早く出ます。

払わない場合は、調停調書や審判書があれば、差押えができます。給与なら手取りの2分の1まで(扶養に関する債権)。裁判所の履行勧告・履行命令という、差押えの前の段階の手続きもあります。公正証書の記事で書いた仕組みは、婚姻費用でも同じです。

注意点を書きます。一つ、別居の原因を作った側(不貞をして家を出た側など)からの婚姻費用の請求は、本人の生活費の部分について認められない、または減額されることがあります。ただし、子の分は認められます。二つ、住宅ローンの扱い。払う側が、相手と子が住む家のローンを払い続けている場合、その分を婚姻費用から差し引く調整がされることがあります。三つ、離婚が成立した時点で婚姻費用は終わり、養育費に切り替わります。離婚協議書の記事で書いたとおり、離婚後は養育費の条項が効きます。

順に書きます。まず、その日のうちに、内容証明郵便で婚姻費用の請求書を夫に送りました。文面は、別居の事実、子二人と暮らしていること、算定表に基づく月額の請求、振込先。この内容証明の日付が、請求の起算点です。夫は年収520万円の会社員、女性は年収108万円、子は8歳と5歳。算定表で、婚姻費用は月10〜12万円の帯。請求額は月12万円としました。

夫は払わず、女性は家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立て、同時に離婚調停も申し立てました。婚姻費用の調停は、離婚調停の中で先に扱われ、第二回期日で、月11万円、内容証明の月からの分を含めて支払う、で合意。調停調書ができた時点で、内容証明から四か月分の未払い44万円と、以後の月11万円。夫は、調書の翌月から払い始め、未払い分は三回の分割で。払わなければ給与の差押えができる、という調書の効力が、夫を動かしました。別居から七か月分、約77万円は、請求していなかったので、請求の対象になりませんでした。

一つ、夫側の主張も書きます。夫は、女性と子が住む家の住宅ローン(月8万円)を払い続けていて、「その分を婚姻費用から引くべきだ」と主張しました。調停委員は、住宅ローンの一部を考慮して、算定表の帯の下限寄りの11万円とし、ローン分の全額を引くことは認めませんでした。ローンは夫の資産形成でもあるので、全額を生活費と同視はしない、という整理です。「住宅ローンの扱いは調整されることがある」と本文に書いた形が、この1万円です。

婚姻費用は、離婚の話し合いの「時間」を支えるお金です。これが決まっていないと、収入の少ない側は生活が立たず、不利な条件で離婚を急ぐことになります。逆に、決まっていれば、財産分与や親権を落ち着いて話せる。別居した月に請求する。相談の場で最初に伝える、一番短い助言です。

七か月分の77万円は戻らず、八か月目からの月11万円は、内容証明の日付から始まりました。「別居したら、その月のうちに、書面で請求する」と本文に書いた理由は、この77万円です。婚姻費用は、離婚の話し合いの時間を支えるお金で、その時間は、請求した日から数え始めます。女性の七か月は、数えられなかった時間でした。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

あわせてどうぞ

解説記事一覧