離婚・家族 2026-09-12

協議離婚の流れ ― 届を出す前に決める五つのことと、決めずに出したときに起きること

日本の離婚の9割近くは、裁判所を通さない協議離婚です。夫婦で合意し、離婚届を出せば成立します。簡単に見えますが、届を出す前に、親権、養育費、面会交流、財産分与、年金分割の五つを決めて書面にしておかないと、離婚後に何年も引きずります。協議離婚の全体の流れ、決めること、書面の作り方、専門家(行政書士・弁護士)の使い分け、2026年4月の民法改正で変わった点を整理します。

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この記事の位置: [別居前・離婚を考え始めたら] → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)

夫婦が二人で来て、机の上に離婚届を置きました。署名も押印も、証人二人の欄も埋まっています。「今日、帰りに市役所に出します。その前に、書類に問題がないか見てほしくて」。書類に問題はありませんでした。私が聞いたのは「親権のほかに、決まっていることはありますか」でした。二人は顔を見合わせて、「離婚することは決まっています」と言いました。それは、五つのうちの一つも決まっていない、という意味でした。

離婚には四つの方法があります。夫婦の合意で届を出す協議離婚、家庭裁判所の調停で合意する調停離婚、調停でまとまらないときに裁判所が判断する審判離婚、裁判で決める裁判離婚。このうち協議離婚が全体の9割近くを占め、調停が1割弱、裁判は数%です(人口動態統計の公表値の規模感です)。この記事は、その協議離婚を、自分たちで進める人のための全体像です。

協議離婚の成立そのものは簡単です。夫婦が離婚に合意し、証人二人の署名がある離婚届を市区町村に出せば、その日に成立します。理由は問われませんし、裁判所も関係ありません。相続の手続きが「亡くなった日から動かせない時計」で進むのに対して、協議離婚は「届を出す日を自分たちで決められる」手続きです。だからこそ、出す前に決めておくべきことがあります。

届を出す前に決めることは五つです。一つ、親権。未成年の子がいる場合、離婚届に親権者の記載がなければ受理されません。2026年4月の民法改正で、離婚後も父母の双方を親権者とする「共同親権」を選べるようになり、どちらか一方の「単独親権」との選択になりました。二つ、養育費。月額、支払日、終期(何歳まで)、進学時の加算、支払方法。三つ、面会交流。頻度、方法、宿泊の有無、連絡の取り方。四つ、財産分与。婚姻中に築いた財産(預貯金、不動産、保険、退職金)の分け方と、住宅ローンの扱い。五つ、年金分割。厚生年金の記録を分ける合意と按分割合。これに、慰謝料の有無と額が加わることがあります。

決めずに出すと、何が起きるか。親権以外は、決めなくても離婚は成立します。そして、決めなかった養育費は、払われないまま何年も過ぎます。財産分与は離婚から一定期間(改正前は2年、2026年4月の改正で5年)を過ぎると請求できなくなり、年金分割も期限があります(2026年4月1日以降の離婚は5年、それより前の離婚は2年)。「まず離婚して、あとで決める」は、決める機会を失う道です。相談の場で最も多い後悔は、「早く別れたくて、養育費と財産分与を決めずに届を出した」です。

離婚届を出す前に決める五つのこと
項目決める内容決めないと
親権共同親権か単独親権か。単独なら誰か届が受理されない(未成年の子がいる場合)
養育費月額、支払日、終期、進学時の加算、支払方法払われないまま時間が過ぎる。改正後は法定養育費の請求は可能
面会交流頻度、方法、宿泊、連絡手段会えない・会わせないの争いになる
財産分与婚姻中の財産の分け方、住宅ローンの扱い請求期限(改正後5年)を過ぎると請求できない
年金分割厚生年金の記録の按分(上限2分の1)請求期限(2026年4月以降の離婚は5年)を過ぎると分割できない

決めたことは、書面にします。口約束は、離婚後に相手が「そんな約束はしていない」と言えば消えます。書面は、離婚協議書という私文書でも効力はありますが、養育費のように将来にわたって払われるものは、公正証書にして「強制執行認諾文言」を入れておくと、不払いのときに裁判なしで給与や預金の差押えができます。離婚協議書の記事と公正証書の記事で、書き方と作り方を書いています。

流れを、時間の順に書きます。一、別居するかどうかを決め、別居中の生活費(婚姻費用)を決める。二、五つの事項を話し合う。財産の一覧と、算定表による養育費の目安を先に手元に用意すると、話が数字で進みます。三、合意した内容を離婚協議書にまとめ、養育費や慰謝料があるなら公正証書にする。四、離婚届に親権者を記載し、証人二人の署名をもらって提出する。五、離婚後の手続き(氏、戸籍、健康保険、年金、児童扶養手当、住所)を、離婚後の手続きの記事の順で進める。

専門家の使い分けを書きます。夫婦の合意ができている、または話し合いで決められる場合、離婚協議書と公正証書の文案作成、公証役場との調整、離婚届や関連する届出の準備は、行政書士の業務です。費用は協議書だけなら3〜4万円、公正証書の文案と手配を含めて5〜10万円程度が目安です。一方、相手が話し合いに応じない、親権や財産で争いがある、相手と直接やり取りしたくない、という場合は、相手との交渉を代理できるのは弁護士だけです。行政書士は交渉も調停の代理もできません。争いがあれば弁護士、合意があれば行政書士(または自分で)、という線です。

協議離婚の流れ

  1. 1 別居と婚姻費用を決める(別居中の生活費は請求した時からが原則)
  2. 2 五つの事項を話し合う(財産の一覧と算定表の目安を先に用意)
  3. 3 離婚協議書→公正証書(養育費・慰謝料は強制執行認諾文言つきで)
  4. 4 離婚届を提出(親権者記載・証人2人)(出す日は自分たちで決められる)
  5. 5 離婚後の手続き(氏・戸籍・保険・年金・手当・住所)

現場の続きです。二人には小学生の子が一人、持ち家(夫名義、ローン残り1,800万円)、預貯金が合わせて600万円ありました。私は紙に五つの項目を書き、決まっているものに丸をつけてもらいました。丸がついたのは親権(母)だけ。養育費は「あとで相談」、面会交流は「会いたいときに」、財産分与は「家は夫が住むから夫のもの」、年金分割は言葉自体を知らなかった。この状態で届を出すと何が起きるかを、一つずつ話しました。養育費は取り決めがなければ止まりやすい。財産分与は、家のローンを引いた価値の半分を妻が請求できるのに、請求しなければゼロ。年金分割は、婚姻中の厚生年金の記録を半分にできるのに、期限(2026年4月1日以降の離婚なら5年、それより前なら2年)を過ぎると請求できなくなる。

届は、その日は出しませんでした。六週間かけて、三回来てもらいました。一回目は財産の一覧作り。家の査定を取り、ローン残高証明を取り寄せ、預貯金と保険を全部書き出す。二回目は数字。算定表で養育費の帯(月4〜6万円)を確かめ、5万円と決める。家は夫が住み続け、ローンも夫が払う。家の価値からローンを引いた分(査定2,400万円−1,800万円=600万円)の半分と、預貯金600万円の半分、合わせて600万円を妻が受け取る。年金分割は按分0.5。三回目は書面。離婚協議書を作り、養育費と財産分与の分割払いの部分を公正証書にしました。届を出したのは、公正証書ができた翌日です。

反対の例も書いておきます。別の相談で、離婚から2年半経った女性が「元夫に家の分をもらっていない」と来ました。離婚のときは「早く別れたかったので、何も決めずに届を出した」。改正前の当時、財産分与の請求期限は離婚から2年で、すでに過ぎていました。改正後は5年に延びましたが、それでも期限は期限です。2年半前に六週間かけていれば、彼女は数百万円を受け取れていました。

最後に、急がない、ということを書いておきます。離婚届は、出す日を選べます。五つを決め、書面にし、公正証書にしてから出す。その順番を守るために、二、三か月かかっても、離婚後に何年も引きずるよりずっと短い。相続の棚では「期限の時計」の話をたくさん書きましたが、協議離婚は、時計を自分で止めておける数少ない手続きです。

最初の日、離婚届を机に置いた二人は、帰りに市役所に寄るつもりでした。六週間後に届を出した二人は、財産の一覧と算定表と公正証書を持っていました。届の紙は同じです。違うのは、その紙を出す日を、自分たちで決めたことです。この記事の最後に「急がない」と書いたのは、そのためです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-30

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-30 確認)。

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