離婚・家族 2026-09-12

離婚時の年金分割 ― 合意分割と3号分割、情報通知書、手続きの期限

年金分割は、婚姻期間中の厚生年金の記録(標準報酬)を夫婦で分ける制度です。将来の年金額そのものではなく「記録」を分けるので、受け取るのは自分の年金開始年齢から。夫婦の合意で最大2分の1に分ける合意分割と、2008年4月以降の第3号被保険者の期間について請求だけで2分の1になる3号分割。年金事務所で取る情報通知書、手続きの流れ、期限(原則離婚から2年)、国民年金や企業年金は対象外であることを整理します。

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この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → [離婚の中身を決める] → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)

「夫の年金の半分がもらえるんですよね」。結婚生活32年、専業主婦だった女性が、そう聞きました。半分は、もらえません。夫の年金は月18万円で、その半分の9万円が女性に、という話ではない。分かれるのは、婚姻期間中の厚生年金の「記録」で、女性の年金が、その記録の分だけ増える。情報通知書を取ると、増える額の見込みは月約4万3,000円でした。9万円ではなく、4万3,000円。この記事は、その差の説明から始めます。

年金分割は、離婚のときに最も誤解の多い制度です。「夫の年金の半分がもらえる」ではありません。婚姻期間中の厚生年金の「記録」を分け、その分が自分の将来の年金額に反映される、という制度です。何が分かれて、何が分かれないかから書きます。

対象は、厚生年金(共済年金を含む)の、婚姻期間中の記録です。会社員や公務員として働いた期間の標準報酬(給料の記録)を、夫婦の間で分けます。対象にならないのは、国民年金(基礎年金)、企業年金や確定拠出年金、個人年金、そして婚姻前・離婚後の記録です。自営業同士の夫婦や、婚姻中にどちらも厚生年金に入っていなかった場合は、分けるものがありません。

仕組みは二つです。一つ、「合意分割」。婚姻期間中の厚生年金の記録について、夫婦の合意(または裁判所の決定)で按分割合を決めて分けます。上限は2分の1で、実務ではほぼ2分の1にします。二つ、「3号分割」。2008年4月以降に、一方が会社員(第2号)でもう一方がその扶養の配偶者(第3号被保険者)だった期間について、第3号だった側が年金事務所に請求するだけで、相手の合意なしに2分の1に分けられます。2008年3月以前の期間や、共働きの期間は合意分割です。多くの夫婦は、両方を組み合わせて使います。

合意分割と3号分割
合意分割3号分割
対象期間婚姻期間中の厚生年金の記録全体2008年4月以降の第3号被保険者だった期間
按分割合合意または裁判所の決定で、上限2分の1請求だけで2分の1
相手の合意必要(公正証書・認証私署証書・調停調書など)不要
請求期限離婚の翌日から2年(原則)同左

効果を、例で書きます。婚姻期間20年、夫はその間ずっと会社員で平均的な給与、妻は専業主婦。合意分割と3号分割で2分の1に分けると、夫の20年分の厚生年金の記録の半分が妻の記録になります。妻が65歳から受け取る年金に、その記録に基づく厚生年金(老齢厚生年金)が加わる。額は記録の内容で変わりますが、月に数万円の増額になる家が多い。一方、夫の将来の年金はその分減ります。妻が自分の年金開始年齢になるまでは受け取れず、離婚時にお金が動くわけでもありません。

手続きの流れです。一、年金事務所に「年金分割のための情報通知書」を請求します。婚姻期間中の記録と、按分割合の範囲が書かれた書類で、離婚前でも一方だけで請求でき、相手には通知されません。二、按分割合を決めます。協議で決めるなら、離婚協議書に「按分割合を0.5と定める」と書き、公正証書にするか、公証役場で「年金分割の合意書」を作ります(合意分割の手続きでは、公正証書か公証人の認証を受けた私署証書が要ります。夫婦二人で年金事務所に行けば、その場での合意書でも可)。調停や審判で決めることもできます。三、離婚後に、年金事務所に「標準報酬改定請求」をします。3号分割は、この請求だけで済みます。四、年金機構から改定の通知が届き、記録が分かれます。

年金分割の手続き

  1. 離婚前 年金事務所で「情報通知書」を請求(一方だけで可。相手に通知されない)
  2. 協議 按分割合(0.5)を協議書・公正証書に(または公証人の認証、調停・審判)
  3. 離婚後 年金事務所へ標準報酬改定請求(3号分割は請求だけ)
  4. 2年以内 請求期限(過ぎると分割できない)
  5. 年金開始 自分の年金に反映(離婚時にお金は動かない)

期限を書きます。年金分割の請求は、離婚した日の翌日から2年以内が原則です。これを過ぎると、合意があっても分割できません。財産分与の期限が5年に延びたのに対して、年金分割は年金法の制度なので別で、年金制度改正で延長の議論はありますが、申請時点の期限を年金事務所で確認してください。離婚と同時に情報通知書を取り、離婚後すぐに請求する、が安全です。

注意点を三つ。一つ、離婚後に元配偶者が亡くなっても、分割済みの記録は自分のものとして残ります。逆に、分割の請求前に相手が亡くなると、原則として請求できなくなる(死亡から1か月以内なら可)ので、離婚後は早く手続きします。二つ、分割を受けた側が再婚しても、記録は影響を受けません。三つ、年金分割は「受け取る側の年金を増やす」制度で、離婚時にまとまったお金を受け取る財産分与とは別です。財産分与の記事で書いた一覧表には、年金は入れず、この記事の手続きで別に扱います。

数字を書きます。夫の年金月18万円の内訳は、基礎年金約6万5,000円と厚生年金約11万5,000円。分割の対象は厚生年金の記録で、しかも婚姻期間32年分のうち、夫が厚生年金に加入していた期間。夫は結婚前から会社員で、婚姻期間は全部が加入期間。11万5,000円のうち、婚姻期間に対応する分が約9万円、その記録の2分の1で約4万5,000円分が女性の記録になり、女性が65歳から受け取る老齢厚生年金が月約4万3,000円増える(計算の細部で少し変わる)。女性自身の基礎年金約6万円と合わせて、月約10万3,000円。「夫の半分の9万円」と思っていた女性には、期待外れの数字でしたが、4万3,000円は、年52万円、20年で1,000万円を超えます。

手続きも書きます。2008年3月以前の期間(婚姻期間32年のうち約14年)は合意分割、2008年4月以降の18年は3号分割。合意分割の按分は0.5で、離婚協議書を公正証書にし、その中に「年金分割の按分割合を0.5と定める」の条項を入れました。離婚届を出した翌週に、女性が一人で年金事務所に行き、公正証書と情報通知書と戸籍を持って標準報酬改定請求。3号分割は同じ請求書で同時に。年金機構からの改定通知は、請求から約六週間で届きました。費用はゼロ。

一つ、危なかったことも書きます。女性は最初、「離婚が落ち着いてから手続きしよう」と言っていました。2年の期限があり、そして、請求前に夫が亡くなると、原則として請求できなくなる。夫は67歳で、持病がありました。「離婚届と一緒に、情報通知書の請求を」と本文の最後に書いたとおり、離婚届の前に情報通知書を取り、離婚届の翌週に請求。落ち着いてから、では、2年の期限の中でも、間に合わない可能性がありました。

年金分割は、専業主婦(主夫)の期間が長かった人ほど効果が大きく、手続きは年金事務所で無料です。相談の場では、「離婚届と一緒に、情報通知書の請求を」と伝えています。

「半分」の答えは、月4万3,000円でした。9万円ではなく、でも、20年で1,000万円。女性は、その数字を聞いて、「それなら、ちゃんと手続きします」と言いました。この記事の一つ目の表に、合意分割と3号分割を並べたのは、32年のうち14年と18年で、手続きの入口が違ったからです。年金分割は、額を誤解されやすく、手続きを後回しにされやすい制度です。どちらも、情報通知書の一枚で直ります。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

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