離婚・家族 2026-09-12
親権 ― 2026年4月からの共同親権と単独親権、監護者、面会交流
2026年4月1日に施行された民法改正で、離婚後も父母の双方を親権者とする「共同親権」を選べるようになりました。従来どおりの単独親権も選べます。何が変わったのか(親権の内容、日常の世話をする監護者、重要な決定の合意、急迫の場合)、どう決めるか(協議、決まらなければ家庭裁判所)、DVや虐待がある場合の扱い、面会交流の決め方、改正前に離婚した人はどうなるかを整理します。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → [離婚の中身を決める] → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
改正の施行から二か月後の相談でした。夫婦は離婚に合意していて、子は8歳。「共同親権にしたほうがいいんですよね」と夫が言い、妻は「共同にすると、何か決めるたびに彼の許可がいるんですか」と聞きました。二人とも制度を誤解していて、しかも誤解の方向が逆でした。夫は共同親権を「子と関われる権利」だと思い、妻は「元夫に縛られる仕組み」だと思っていた。どちらも半分だけ正しい。この記事は、その半分ずつを埋めるものです。
離婚のとき、未成年の子がいれば親権者を決めなければ届が受理されません。2026年3月までは、父か母のどちらか一方(単独親権)しか選べませんでした。2026年4月1日、民法改正が施行され、離婚後も父母の双方を親権者とする「共同親権」が選べるようになりました。制度の中身と、決め方を、施行後の実務の目線で書きます。
親権とは、子の身の回りの世話と教育(身上監護)と、子の財産の管理と法律行為の代理(財産管理)をする権利と義務です。改正後は、離婚のときに、父母の協議で「共同親権」か「単独親権」かを決めます。協議で決まらなければ、家庭裁判所が決めます。家庭裁判所は、共同親権にすると子の利益を害する場合(父母の一方が子に虐待をするおそれ、DVなどで父母が協力して親権を行うことが難しい場合)には、単独親権にしなければならない、とされています。
共同親権にした場合の親権の行い方も、改正で決められました。子の教育や居所、医療といった重要な事項は、父母が共同で決めるのが原則です。ただし、「日常の行為」(食事、服、日々の習い事など)と、「急迫の事情」がある場合(急な手術、DVからの避難など)は、一方だけで決められます。父母の意見が対立して決められないときは、家庭裁判所が、その事項について一方が単独で決められるよう定めることができます。
共同親権でも、子が主にどちらと暮らすかは決めます。日常の世話をする親を「監護者」と定めることができます。監護者は、子の監護と教育、居所の指定と変更を単独で行うことができ、もう一方の親権者はそれを妨げてはならない、と定められています(民法824条の3)。そのうえで、父母が合意して、進学や転居などの大きなことは相談して決めると取り決めておく形もあります。
| 共同親権 | 単独親権 | |
|---|---|---|
| 親権者 | 父母双方 | 父または母 |
| 重要な事項(居所・進学・医療) | 父母が共同で決める。対立すれば家裁が単独で決められる者を定める | 親権者が決める |
| 日常の行為・急迫の事情 | 一方だけで決められる | 親権者が決める |
| 監護者 | 定めることができる(監護・教育・居所の指定はその親が単独で) | 親権者=監護者が普通 |
| 家裁が単独にしなければならない場合 | 虐待のおそれ、DVなど父母の協力が困難な場合 | — |
| 養育費・面会交流 | 親権の形にかかわらず別に決める | 同左 |
どちらを選ぶべきか、の一般論は書きません。相談の場で伝えているのは、判断の軸です。一つ、父母が離婚後も子のことについて連絡を取り合い、相談できる関係か。共同親権は、その関係が前提の制度です。二つ、DV、モラハラ、虐待の事実や不安があるか。あれば単独親権で、家庭裁判所もそう判断します。三つ、居所や進学で意見が割れそうか。割れる見込みが強いなら、共同にしても家庭裁判所の関与が増えます。四つ、養育費と面会交流。親権の形にかかわらず、養育費の記事で書いたとおり養育費は払われ、面会交流は行われます。親権は「決定に関わる権利」で、「会える」「払う」とは別の話です。
面会交流について書きます。子と離れて暮らす親が子と会い、交流することで、親権の形とは別に、離婚のときに決めます。頻度(月1〜2回が多い)、時間、受け渡しの場所と方法、宿泊の有無、学校行事、電話やビデオ通話。離婚協議書の記事で書いたとおり、細かすぎず粗すぎず、最低限の頻度と連絡手段を固定します。決まらなければ、家庭裁判所の調停で決めます。面会交流を正当な理由なく拒み続けると、間接強制(一回拒むごとに金銭の支払いを命じる)の対象になることがありますが、子の意思や安全が最優先で、DVなどがある場合は面会が制限されます。
改正前に離婚した人はどうなるか。施行前に単独親権で離婚した父母も、施行後に、家庭裁判所に親権者の変更を申し立てて、共同親権に変えることができます。ただし、家庭裁判所は子の利益で判断するので、自動的に共同になるわけではありません。
現場の整理です。まず、この夫婦の関係を聞きました。離婚の理由は価値観の違いで、暴力や暴言はない。子の学校行事には二人とも出ていて、連絡もLINEで普通にできる。「離婚後も、子のことは相談できそうか」と聞くと、二人とも「できる」と答えました。共同親権の前提はここにあり、この夫婦は前提を満たしていました。
次に、共同親権にした場合の日常を、具体的に書き出しました。子は母と暮らす。母を監護者と定める。日常の行為、つまり食事、服、習い事の送迎、ちょっとした通院は、母が一人で決める。父の許可は要りません。父母で決めるのは、転校、進学先、大きな手術、海外への転居のような重要な事項。妻の「何かのたびに許可がいる」は、日常については誤解でした。夫の「子と関われる」は、重要な決定に関われる、という意味では正しく、会える回数が増える、という意味では違います。面会交流は親権の形と別に決めます。
協議書には、こう書きました。「甲及び乙は、長男〇〇の親権者を父母双方と定め、監護者を乙(母)と定める。乙は、子の居所、進学、医療に関する重要な事項について、あらかじめ甲と協議する」。監護者の母は本来一人で決められる立場ですが、この夫婦は話し合って決めることを、二人で約束しました。そして面会交流を月2回、養育費を月5万円と、別の条項で決めました。この夫婦は共同親権を選びました。
別の相談も書いておきます。夫のモラハラで別居している妻から「夫が共同親権を主張している」という話でした。この場合、共同親権は家庭裁判所が認めません。父母が協力して親権を行うことが難しい事情(DV、虐待、支配的な関係)があれば、裁判所は単独親権にしなければならないと改正法に書かれています。妻は協議には応じず、調停で単独親権を求め、その方向で進んでいます。制度が「選べる」ようになったことと、「どちらでもいい」ことは、同じではありません。
親権の話は、制度が変わったばかりで、実務の運用(家庭裁判所がどういう場合に共同を認め、どういう場合に単独にするか)は、これから積み重なっていきます。この記事も、運用が見えてきたら直します。制度の条文は法務省の案内で確認でき、個別の判断は、争いがあれば弁護士、合意があって書面にするなら行政書士の領域です。
最初の日の二つの誤解、「関われる権利」と「縛られる仕組み」は、書き出してみると、どちらも「重要な事項を一緒に決める」という一点に集まりました。共同親権は、その一点を法律で保証する制度です。会う回数でも、払う額でもない。この記事の判断の軸の四つ目に「親権は決定に関わる権利で、会える・払うとは別」と書いたのは、この夫婦の二つの誤解を、一つの文にしたものです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-02
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。