離婚・家族 2026-09-12
DV・モラハラと保護命令 ― 逃げる前に知っておくこと、離婚への影響
配偶者からの身体的暴力や、支配的な言動(モラハラ)は、DV防止法上の「配偶者からの暴力」に当たることがあります。裁判所の保護命令(接近禁止命令は2024年4月から1年、退去等命令は2か月)の申立て、シェルターと一時保護、住民票の閲覧制限、そして離婚の話し合いを直接せずに進める方法(代理人を立てる、調停での配慮)を整理します。この記事は法的な制度の説明であり、危険が迫っている場合は、まず110番と配偶者暴力相談支援センターに連絡してください。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → [状況別(当てはまる方だけ)]
電話は、コンビニの駐車場からでした。「今、車の中にいます。家には戻れません」。声は落ち着いていましたが、後ろで子どもの声がしました。私が最初に言ったのは、制度の説明ではありませんでした。「今いる場所は安全ですか。安全なら、このまま配偶者暴力相談支援センターに電話してください。番号を言います」。書面の話は、その日はしていません。この記事の冒頭に「今まさに危険がある場合は、まず」と書いたのは、この電話のためです。
離婚の相談で、最も急を要するのがDV・モラハラの案件です。この記事は、制度の説明に限ります。今まさに危険がある場合は、まず110番、または内閣府のDV相談ナビ(#8008)や配偶者暴力相談支援センターに連絡してください。この記事を読む余裕があるときのために、制度を書きます。
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)の「配偶者からの暴力」は、身体に対する暴力だけでなく、脅迫も含みます。2023年の法改正(2024年4月1日施行)で、申立てができる人に「自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告げてする脅迫」を受けた者が加わり、命令が出る要件も「生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」から「生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」に広がりました。人格を否定する暴言、行動の監視、経済的な締め付けといった精神的な暴力が、心身への重大な危害につながる場合も、保護命令の対象になり得ます。「配偶者」には、事実婚の相手、生活の本拠を共にする交際相手、離婚や別居の前に暴力等を受け、その後も引き続き受けている場合の元配偶者も含みます。
保護命令は、地方裁判所に申し立てて、裁判所が相手に一定の行為を禁じる命令です。種類は六つあります。被害者への接近禁止命令(1年間。住居や勤務先の付近をはいかいすることも禁止)、被害者への電話等禁止命令(無言電話、連続した送信、深夜早朝の送信、GPSによる位置情報の取得なども含む)、被害者と同居する子への接近禁止命令、同居する子への電話等禁止命令(子が15歳以上なら子の同意が要ります)、被害者の親族等への接近禁止命令(親族等の同意が要ります)、そして加害者を自宅から退去させる退去等命令(2か月間。住居の所有者または賃借人が被害者だけの場合は、被害者の申立てがあれば6か月間)。接近禁止命令の期間は、2024年4月1日の改正前は6か月でした。申立てには、暴力の事実を示す資料(診断書、写真、警察への相談記録、日記のメモ)と、配偶者暴力相談支援センターまたは警察への事前の相談が実質的に必要です(相談していない場合は、申立人の供述を書いた書面を作り、公証人の面前で宣誓して認証を受けたもので代えられます。認証の手数料は1万1,000円)。違反すると2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金の対象です。
別居や避難の際に使える制度も書きます。一つ、配偶者暴力相談支援センターや民間シェルターでの一時保護。二つ、生活保護や母子生活支援施設の利用。三つ、住民票・戸籍の附票の閲覧制限(DV等支援措置)。市区町村に申し出ると、相手から住民票の写しなどが取れないように制限をかけられ、加害者が新しい住所を追跡することを防ぎます。四つ、子の転校手続きも、この支援措置と連動して、相手に知られないよう配慮した形で進められます。
| 種類 | 内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 被害者への接近禁止命令 | 被害者の住居・勤務先付近をはいかいすることなどを禁止 | 1年(改正前は6か月) |
| 被害者への電話等禁止命令 | 面会の要求、無言電話や連続した送信、深夜早朝の送信、GPSでの位置情報の取得などを禁止 | 接近禁止命令と同期間 |
| 同居する子への接近禁止命令 | 被害者と同居する未成年の子への接近を禁止(15歳以上は子の同意) | 接近禁止命令と同期間 |
| 同居する子への電話等禁止命令 | 子への連続した送信などを禁止(15歳以上は子の同意) | 接近禁止命令と同期間 |
| 親族等への接近禁止命令 | 被害者の親族等への接近を禁止(親族等の同意が必要) | 接近禁止命令と同期間 |
| 退去等命令 | 加害者を自宅から退去させる | 2か月(住居の所有者・賃借人が被害者だけで申立てがあれば6か月) |
離婚の話し合いをどう進めるかも書きます。相手と直接連絡を取ること自体が危険な場合、弁護士を代理人に立て、直接のやり取りをすべて弁護士経由にします。調停でも、待合室や出入口を分ける、期日をオンラインにする、といった配慮を裁判所に求められます。協議離婚の記事で書いた「話し合いで決める」形が使えない場合、調停や、状況によっては審判・裁判に進むことになります。財産分与や親権の判断でも、DVの事実は考慮されます(親権の記事で書いたとおり、共同親権は選べず単独親権になり、面会交流の詳細の記事で書いたとおり面会交流も制限や第三者機関の利用になります)。
証拠を残すことも、制度を使ううえで重要です。暴言や脅迫のメッセージのスクリーンショット、怪我の写真と受診記録、被害の日時と内容を記した日記やメモ、警察への相談履歴。不貞の慰謝料の記事で書いた証拠の話と同じく、記録が制度を動かします。ただし、記録を残す行為自体が相手に知られると危険が増す場合もあるので、安全な場所での保管方法(信頼できる家族に預ける、クラウドの別アカウントなど)も、相談窓口で助言してもらえます。
現場の経過を、できる範囲で書きます。彼女はその日のうちにセンターの一時保護施設に入り、翌週、警察に相談記録を残しました。手元にあった証拠は、夫の暴言の録音が三件、腕の痣の写真が二枚、そして三年分の日記。日記には日付と、何を言われ、何をされたかが書いてありました。この日記が、あとで一番効きました。センターの助言で、地方裁判所に保護命令を申し立て、申立てから九日で、接近禁止命令(一年)と子への接近禁止命令、電話等禁止命令が出ました。夫は審尋に出席し、暴力を否定しましたが、警察の相談記録と日記の一貫性が、裁判所の判断を支えました。
生活の手続きも、並行して進めました。市役所でDV等支援措置の申出をし、夫が住民票や戸籍の附票を取れないようにした。子の転校は、教育委員会がセンターと連携して、転校先を夫に知らせない形で進めた。児童扶養手当と、当面の生活費は、生活保護の窓口とセンターが調整した。私が関わったのは、これらの手続きの順番を整理したことと、離婚の話し合いを弁護士(法テラスのDV被害者向けの相談から依頼)に引き継いだことです。夫との連絡は、その日以降、すべて弁護士経由になりました。
離婚は、調停で成立しました。彼女は期日をオンラインで出席し、夫とは同じ建物に入っていません。親権は単独親権です。改正法では、DVなどで父母が協力して親権を行うことが難しい場合、家庭裁判所は単独親権にしなければならないとされています。面会交流は、当面は行わず、子の様子を見て第三者機関を通じた方法を検討する、という内容になりました。財産分与は預貯金の半分。慰謝料は、録音と日記を証拠に150万円。この額は、暴力の期間と内容から見て、弁護士が「相場の範囲」と言ったものでした。
最後に、この場面での専門家の役割を書いておきます。行政書士は、離婚協議書や公正証書の文案作成はできますが、相手との交渉や、身の安全に関わる緊急の対応はできません。DV・モラハラが疑われる相談では、まず配偶者暴力相談支援センターや弁護士(法テラスのDV等被害者法律相談、無料または立替)につなぎ、書面の作成は、安全が確保されたあとの段階で行う。この順番を、相談を受ける側としても守っています。
コンビニの駐車場から電話をかけてきた日、彼女に制度の説明をしていたら、その時間の分だけ、安全が遅れていました。制度の話は、安全のあとです。この記事に書いた保護命令や支援措置や証拠の話は、その「あと」のために置いてあります。今、車の中にいる人は、この記事を閉じて、#8008に電話してください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-01
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-01 確認)。
- 内閣府男女共同参画局「保護命令」 ― 保護命令の六つの類型、接近禁止命令1年・退去等命令2か月(6か月の場合)、違反は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、公証人の認証1万1,000円
- 警察庁「改正配偶者暴力防止法の施行について」(令和6年版犯罪被害者白書) ― 2024年4月1日施行。接近禁止命令の期間が6か月から1年に伸長され、罰則が加重された経緯