探偵・調査 2026-10-12
探偵との契約をやめたいとき ― クーリング・オフが使える場所、使えないときの解約と返ってくるお金
探偵の調査契約も、事務所以外の場所(自宅、喫茶店、ファミレスなど)で結んだものや、電話で勧誘されて結んだものは、契約書面を受け取った日から8日以内ならクーリング・オフできます。違約金は払わなくてよく、調査がもう始まっていても代金は要りません。事務所で結んだ契約でも、途中でやめることはでき、行われた分の精算になります。着手金33万円が全額戻った架空の例で、通知の書き方と金額を、2002年から探偵業を営んできた立場で書きます。
この記事の位置: [依頼する前に知っておくこと] → 所在を調べる → 証拠を集める
「昨日の夜、ネットの広告を見て探偵社に電話しました。すぐに相談員の方が近くのファミレスまで来てくれて、2時間話して、5日間で66万円の契約をしました。今朝、着手金の33万円も振り込みました。でも一晩たって、やっぱりやめたいんです。もう払ってしまったし、無理ですよね」。40代の女性からの電話でした。私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目です。電話の相手は、ほかの探偵社と契約した人でした。私は「無理ではありません。まず、契約した場所を教えてください」と聞きました。夜に不安な気持ちで電話をかけ、その日のうちに会って、その場で署名する。探偵の相談では、珍しくない流れです。だからこそ、あとから冷静に考え直すための決まりが、法律に用意されています。
契約をやめられるかどうかは、契約した場所で大きく変わります。特定商取引法は、事業者が自分の営業所(事務所や店)以外の場所で結んだ契約を「訪問販売」として扱います(2条1項)。自宅に来てもらって契約した場合はもちろん、喫茶店やファミレスで契約した場合も、ここに入ります。訪問販売なら、契約の書面を受け取った日から数えて8日以内であれば、書面か電子メールなどで、理由を言わずに契約をやめられます(9条。クーリング・オフ)。電話で勧誘されて、郵便などで契約した場合(電話勧誘販売)も、同じく8日です(24条)。探偵の調査はサービス(法律の言葉では「役務」)なので、この仕組みの対象です。
クーリング・オフの効き目は強いものです。通知は、出した時に効力が生まれます(9条2項)。8日目に出せば、相手に届くのが9日目でも間に合います。事業者は、違約金や損害賠償を求めることができません(9条3項)。すでに調査員が動いていても、その代金を求めることはできません(9条5項)。受け取ったお金は、速やかに返さなければなりません(9条6項)。8日は、書面を受け取った日を1日目として数えます。10月3日に受け取ったなら、10月10日までです。日数の数え方は、法律の期間の数え方の記事に書きました。
使えない場合もあります。自分で探偵社の事務所に出向いて契約したときは、訪問販売に当たりません。また、自分から「家で契約したいので来てください」と呼んだときも、対象から外れます(26条6項1号)。ただ、呼んだのが「話を聞きたい」「見積がほしい」というだけなら、この例外に当たらない場合があります。反対に、契約書面にクーリング・オフのことが書かれていないなど、決められた書面がきちんと渡されていなければ、8日の数え始めがそもそも来ていないことになります。
クーリング・オフができない契約でも、途中でやめることはできます。調査の契約は、民法の委任に近い契約で、いつでも解除できるのが原則です。ただし、それまでに行われた調査の分は払います。契約書に解約料が書かれていても、同じような契約で事業者にふつう生じる損害(平均的な損害)を超える部分は無効です(消費者契約法9条1項1号)。探偵業者は契約の前に、料金の概算と、契約の解除に関することを書いた書面を渡して説明する決まりです(探偵業法8条)。署名する前に、その欄を読んでください。
左上から、契約した場所で二つに分かれる。事務所以外(自宅・喫茶店・ファミレス)で契約した、または電話で勧誘されて契約した場合は、書面を受け取った日から8日以内ならクーリング・オフ。違約金なし、調査済みの分も払わない、払ったお金は戻る。自分で事務所に出向いて契約した、または自分から契約のために家に呼んだ場合はクーリング・オフの対象外だが、途中で解約でき、行われた調査の分を精算する。平均的な損害を超える解約料は無効。
通知の出し方です。はがきに、契約した日、契約の名前(調査の種類)、金額、担当者の名前、「この契約を解除します」、返金してほしい口座を書きます。両面をコピーし、郵便局で特定記録郵便か簡易書留で出して、受領証と一緒に保管します。電子メールで送ることもできます。その場合は、送った画面を保存しておきます。困ったときは、消費者ホットライン(188)で近くの消費生活センターにつながります。
通知を出したあとで、業者から言われやすいことがあります。「もう調査員を手配したので、手配料がかかります」。クーリング・オフでは、違約金も、すでに行った調査の代金も求められません。「8日はもう過ぎています」。数え始めは契約書面を受け取った日です。書面を後日郵送すると言われてまだ受け取っていない、書面にクーリング・オフのことが書かれていない、という場合は、8日がまだ始まっていないことがあります。「契約書に、解約は着手金を返さないと書いてあります」。クーリング・オフは、契約書のどんな特約よりも先に効きます。言われたことは日時と一緒にメモし、迷ったら消費生活センターに相談してください。
お金を表で比べます。この女性の契約は、調査員2名・1日6時間・5日間で、調査料480,000円(8,000円×2名×6時間×5日)、車両費60,000円(12,000円×5日)、報告書の作成60,000円、小計600,000円、消費税60,000円、合計660,000円(税込)。着手金は半分の330,000円でした。クーリング・オフなら、払うお金は0円で、着手金330,000円がそのまま戻ります。仮に事務所で契約していて、1日目の調査が終わったところでやめたとすると、1日分の調査料96,000円と車両費12,000円に消費税10,800円で118,800円を精算し、着手金から差し引いた211,200円が戻る計算です。
| クーリング・オフ | 事務所で契約し、1日目の後に解約 | |
|---|---|---|
| 精算する調査料 | 0円 | 96,000円(8,000円×2名×6時間) |
| 精算する車両費 | 0円 | 12,000円 |
| 消費税(10パーセント) | 0円 | 10,800円 |
| 払うお金の合計 | 0円 | 118,800円 |
| 着手金330,000円から戻るお金 | 330,000円 | 211,200円 |
この家の場合です。契約した場所はファミレスで、契約書面を受け取ったのは前の晩でした。8日以内です。女性はその日のうちに、はがきを簡易書留で出し、同じ内容をメールでも送りました。翌日、探偵社から「もう調査員の手配をしたので、手配料をいただきます」と電話があったそうです。女性は、9条3項と5項のとおり、そのお金は求められないはずだと伝えました。1週間後、着手金の330,000円が全額振り込まれました。そのあと女性は、帰宅時刻のメモを三週間つけてから、もう一度、相談先を考えることにしました。
探偵への相談は、気持ちが追い詰められたときにすることが多いものです。私は、相談したその場では契約しないことを勧めています。契約する前に確かめることは三つです。営業所に、公安委員会の届出番号が入った標識が掲げられているか(ウェブサイトに番号を載せている会社も多くあります)。契約前の書面に、料金の概算と、解除したときの扱いが書かれているか。見積の日数と時間に、なぜその長さが要るのかの説明があるか。一晩おいて、見積と契約前の書面を読み直す。それでも契約したあとで迷ったら、まず契約した場所と、書面を受け取った日を確かめてください。この記事の図は、その二つで道が分かれる様子を一枚にしたものです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-12
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-12 確認)。
- e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」 ― 2条1項(訪問販売。営業所等以外の場所での契約)、9条(訪問販売のクーリング・オフ。書面を受け取った日から起算して8日、通知を発した時に効力、損害賠償・違約金の請求不可、役務が提供されていても対価の請求不可、受け取った金銭の返還)、24条(電話勧誘販売のクーリング・オフ)、26条6項1号(住居で契約することを自分から請求した場合の適用除外)
- e-Gov法令検索「消費者契約法」 ― 9条1項1号(解除に伴う違約金などのうち、平均的な損害の額を超える部分は無効)
- e-Gov法令検索「探偵業の業務の適正化に関する法律」 ― 8条(契約前の重要事項説明。料金の概算額と支払時期、契約の解除に関する事項など)