探偵・調査 2026-10-26
夫の車にGPSを付けてもいいか ― ストーカー規制法の「位置情報無承諾取得」、夫婦でも問題になる場面、探偵に頼むときに確かめること
夫の帰りが遅い日が続き、通販で1万2,000円ほどのGPS発信機を買った、付ける前に相談したいという方が来ました。ストーカー規制法は2021年の改正で、相手の承諾なくGPS機器を取り付けたり位置情報を取ったりする行為を規制の対象に加えています。どんな目的なら対象になるのか、夫婦なら大丈夫と言えない理由、証拠としての弱さ、代わりに残せる記録、探偵に頼む前に確かめることを書きます。
この記事の位置: 依頼する前に知っておくこと → 所在を調べる → [証拠を集める]
「夫の帰りが遅い日が、この2か月で急に増えました。通販でGPSの発信機を買ってあります。車の裏に磁石で付けるだけの物です。付ける前に、聞いておきたくて」。相談に来たのは40代の女性でした。袋に入ったままの発信機は本体が1万2,000円ほどで、位置を見るには月2,000円ほどの通信料がかかると書いてありました。車はご主人の名義で、ご主人が毎日通勤に使っています。
私は2002年から探偵業を営んでいて、今年で24年目になります。この相談は、ここ数年で増えました。発信機が安く、誰でも買えるようになったからです。最初にお伝えしたのは、相手に黙ってGPSを付けることには、法律で規制されている場面がある、ということでした。
ストーカー規制法(正式にはストーカー行為等の規制等に関する法律)は、2021年の改正で「位置情報無承諾取得等」という行為を規制の対象に加えました。相手の承諾を得ないで、相手の持ち物にGPS機器などを取り付けること、その機器で相手の位置情報を取ること、が当たります。今の条文には、スマートフォンのアプリのように位置を送る装置のほか、紛失防止タグのように近くのスマートフォンを通じて位置を知らせる装置も書かれています。改正の前、最高裁が2020年に、GPSで居場所を調べる行為は当時の条文の「見張り」に当たらないと判断したことが、きっかけの一つでした。
ただし、この法律が対象にするのは、目的が決まった行為です。「恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」で行う場合です。浮気を疑う気持ちは、この目的に当たるのでしょうか。条文には「夫婦なら対象外」とは書かれていません。目的に当たるかどうかは、個別の事情で判断されます。別居中や、離婚の話し合いがこじれている最中なら、なおさら慎重に考えるべきです。だから「夫婦だから大丈夫」とは言えません。
左に発信機を手にした女性、右に夫の車を表す枠。中央に三つの枠:①相手の持ち物に装置を取り付ける、②GPS機器などで相手の位置情報を取る、③紛失防止タグのような装置で相手の位置を取る。下に、目的が恋愛感情や怨恨の充足だと規制の対象、夫婦だから対象外とは書かれていない、と注記。
ストーカー規制法2条3項。反復すれば「ストーカー行為」として1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(18条)。
規制の対象になると、警察から「繰り返してはいけない」という警告が出たり、公安委員会から禁止命令が出たりします。位置情報の取得を繰り返して「ストーカー行為」に当たれば、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、禁止命令に違反してストーカー行為をすれば2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金です(18条・19条)。
もう一つは、証拠としての弱さです。GPSで分かるのは「車がどこにあったか」だけです。車が夜にホテル街の駐車場にあっても、誰と一緒にいたのか、中で何があったのかは分かりません。不貞の慰謝料の記事に書いたとおり、裁判で求められるのは、二人が肉体関係を持ったと推認できる証拠です。不貞調査の報告書の記事で書いた、日時・場所・写真の三点がそろって、はじめて形になります。位置の記録だけでは、相手に「仕事の打ち合わせだった」と言われれば、それ以上は進みません。
しかも、発信機は見つかることがあります。点検やタイヤ交換で車の下をのぞかれたら、それまでです。見つかれば夫婦の話し合いの空気は一気に悪くなり、ご主人がそれ以降、行動に気をつけるようになります。私の経験では、こうなると、あとから行動調査をしても証拠を押さえるのが難しくなります。安い発信機一つで、一番大事な機会を失うことがあるのです。
では、自分でできることは何か。探偵に頼む前に自分でできることの記事に書いたとおり、手元の記録を整えることです。帰宅した時刻を毎日カレンダーに書く。「残業」「飲み会」と言われた日を書き添える。家計で払っているクレジットカードの明細や、家族で共有している記録など、自分が正当に見られる物の中から、同じ曜日や同じ場所が繰り返していないかを探します。夫のスマートフォンを無断で開いたり、アプリを勝手に入れたりするのは、不貞の証拠としてのLINEの記事に書いたとおり、別の法律の問題になり得ます。
証拠の集め方は、その先に何をしたいかで変わります。夫婦で話し合って関係を立て直したいのか、慰謝料を請求したいのか、離婚まで考えているのか。話し合いのためなら、日付の入った自分のメモと、相手の説明の食い違いだけで足りることもあります。慰謝料を請求したり、調停や裁判で争ったりするなら、相手が認めなかったときにも通る証拠が要ります。そこまで考えるなら、自分で無理に集めるより、先に弁護士に相談して、必要な証拠の形を聞いてから調査を頼むほうが、日数も費用も少なく済みます。離婚の相談先の選び方の記事に、誰に何を聞けるかをまとめました。
相談の方には、発信機を付けずに、2か月分の帰宅時刻をノートにまとめてもらいました。並べてみると、遅い日は毎週火曜日と金曜日に集中していました。行動調査の見積は、調査員2名が1時間あたり税込2万2,000円、1日5時間で11万円、それを火曜と金曜の2日で22万円。車両費が1日税込1万1,000円で2日2万2,000円。合わせて税込24万2,000円です。曜日が絞れていなければ、日数がもっと増えるところでした。料金は事務所ごとに違うので、これは一つの例です。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 調査員2名の調査料 | 1時間2万2,000円×5時間×2日(火・金) | 22万円 |
| 車両費 | 1日1万1,000円×2日 | 2万2,000円 |
| 合計 | 22万円+2万2,000円 | 24万2,000円 |
| 参考:付けていた場合のGPSの費用 | 本体1万2,000円+通信料2,000円×3か月(実際は付けずに返品) | 1万8,000円 |
見積書では、調査員の人数と時間、車両費や報告書の作成費が別になっているか、延長したときの1時間あたりの料金、成功報酬があるならその条件を確かめます。「定額で何日でも」という料金も、調査の範囲と報告書の中身を書面で確かめないと、ほかと比べられません。
探偵に頼むときにも、GPSのことは確かめておきます。探偵業法は、探偵が調査をするからといって、ほかの法律で禁じられていることができるわけではない、と定めています(6条)。また契約の前に、依頼者は調査の結果を違法なことに使わないという書面を出します(7条)。業者から「GPSを付ければ安くなります」と言われたら、何に、誰の承諾で付けるのかを書面で聞いてください。答えがあいまいな業者には頼まないほうが安全です。探偵業法の基本は、探偵業法で決まっていることの記事にまとめています。
逆に、自分がGPSで追われているかもしれないと感じたときは、車の下やバッグの中を確かめ、見つけた物は触る前に写真を撮り、警察の相談窓口(#9110)に相談します。身の危険を感じるなら、迷わず110番です。
相談の方は、買った発信機を開けないまま返品しました。帰り際に「付けていたら、たぶん見つかっていました」と言いました。GPSは、付けた瞬間に、相手の位置と一緒に、自分の立場も危うくします。疑いがあるときほど、まず自分の手元の記録から始めてください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-27
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-27 確認)。
- e-Gov法令検索 ストーカー行為等の規制等に関する法律 ― 2条3項(位置情報無承諾取得等:承諾なく位置情報記録・送信装置の位置情報を取得する、紛失防止タグのような装置で位置を取得する、装置を取り付ける)。目的は恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことへの怨恨の充足。18条・19条の罰則
- e-Gov法令検索 探偵業の業務の適正化に関する法律 ― 6条(他の法令で禁止・制限されている行為ができるわけではない、個人の権利利益を侵害しないように)、7条(違法な目的に使わない旨の書面)、9条