離婚・家族 2026-09-15
離婚と借金 ― 相手の借金は誰が返すのか、財産分与での引き算、連帯保証、自己破産と養育費
「夫の借金を私も返すのか」は、離婚相談の定番の不安です。答えは、生活のための借金は夫婦の連帯責任、ギャンブルや浪費の個人的な借金は本人の責任、が原則です。財産分与では、プラスの財産からマイナスを引いて計算し、マイナスが超えれば分けるものはない。連帯保証は離婚で外れない。自己破産しても養育費は消えない。借金まわりの不安を、一つずつ小さくします。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → [離婚の中身を決める] → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
「夫に、消費者金融の借金が380万円あると分かりました。離婚したら、私が半分返すんですか」。女性は、夫の督促状を持って来ていました。借金の使い道は、パチンコ。返す義務は、ありません。女性は「本当ですか」と聞き、私は督促状の宛名を指しました。夫の名前だけ。「これは、ご主人が、ご主人の名前で、ご主人のために借りたお金です」。この記事は、その380万円と、女性が実際に返すことになった別の借金の話です。
財産分与の基本の記事は、プラスの財産の分け方を書きました。この記事は、マイナスの財産、つまり借金の話です。相談の場で「相手に借金があるが、離婚したら自分も背負うのか」と聞かれることが多く、そして答えを聞くと、たいていの人は少し安心します。原則は単純だからです。
一つ目の原則。夫婦の一方が、日常の生活のためにした借金(家賃、食費、光熱費、子の学費、生活用品の分割払い)は、もう一方も連帯して責任を負います(民法761条の日常家事債務)。これは結婚している間の話で、離婚後に新たに借りた分には及びません。二つ目の原則。ギャンブル、浪費、個人的な趣味、事業の運転資金など、生活のためでない借金は、借りた本人だけの責任です。相手の名義で相手が借りた借金を、離婚したからといって自分が返す義務はありません。債権者から「妻なのだから払え」と言われても、法的な根拠はないので、払う必要はありません。
財産分与では、借金はこう扱います。婚姻中の共有財産(預貯金、不動産、保険、退職金)を全部足し、そこから婚姻中の共同生活のための借金(住宅ローン、生活のための借入れ)を引きます。残りがプラスなら、それを原則2分の1で分けます。残りがマイナスなら、分けるものはなく、財産分与の請求はできません。マイナスを二人で分担する義務も、原則としてありません(住宅ローンのある家の扱いは、離婚と住宅ローンの記事で別に書いています)。個人的な借金は、この計算に入れません。
連帯保証は、離婚で外れません。相手の借金の連帯保証人になっている場合(住宅ローン、事業の借入れ、奨学金など)、離婚しても保証人のままで、相手が払わなければ請求が来ます。外すには、債権者の承諾が要り、代わりの保証人を立てるか、借り換えるか、完済するかのどれかです。離婚協議書に「乙は甲を保証人から外すよう努力する」と書いても、債権者には効きません。保証人になっているものがあるか、別居の準備の段階で洗い出しておくのが先です。
相手の借金を自分が肩代わりして払っていた場合、その分を財産分与で考慮するよう求めることはできます。ただし、生活のための借金を払っていた分は「夫婦の生活費」と見られて考慮されないことが多く、相手の個人的な借金を払っていた分は、立替金として清算を求める余地があります。証拠(振込記録、返済の明細)を残しておくことです。
| 借金 | 誰が返すか | 財産分与での扱い |
|---|---|---|
| 生活費・学費・生活用品の分割(日常家事債務) | 夫婦の連帯責任 | 共有財産から引く |
| 住宅ローン | 名義人(連帯保証・連帯債務ならその人も) | 家の時価から引く |
| ギャンブル・浪費・個人の趣味 | 借りた本人 | 計算に入れない |
| 自分が連帯保証人になっているもの | 離婚後も保証人のまま | 外すには債権者の承諾 |
自己破産についても書いておきます。相手が自己破産すると、借金は免責されますが、養育費は免責されない債権です(破産法253条)。破産したから養育費を払わなくてよい、にはなりません。逆に、自分が多額の借金を抱えていて離婚を機に整理したい場合、自己破産・個人再生・任意整理のどれが向くかは、弁護士か司法書士に相談します。法テラスの立替えが使えることも多いです。
整理した順に書きます。夫の借金は三つ。一つ、消費者金融の380万円、使い道はパチンコ。個人的な借金で、女性に責任なし、財産分与の計算にも入れない。二つ、家電量販店の分割払い、残り18万円、冷蔵庫と洗濯機。日常家事債務で、女性も連帯責任。財産分与の計算では、共同生活のための借金として引く。三つ、夫の実家の改築資金として、夫が信用金庫から借りた200万円、女性が連帯保証人。これは、離婚しても保証は外れない。
財産分与の計算です。共有財産は、預金(夫名義210万円、妻名義90万円)と車(査定40万円)で340万円。共同生活のための借金は、家電の18万円。340万円から18万円を引いて322万円、2分の1で161万円ずつ。パチンコの380万円は、この計算に入れない。夫は「借金を引いたらマイナスだから、分けるものはない」と主張しましたが、380万円は夫個人の借金なので、引けない。女性の取り分は161万円で、女性名義の90万円を除いた71万円を、夫の預金から受け取りました。
連帯保証の200万円は、残りました。信用金庫に相談し、夫の父(改築した実家の所有者)を代わりの保証人にする形で、女性を保証から外す承諾を得るまで二か月。夫の父は最初、渋りましたが、「離婚した元嫁が息子の借金の保証人のまま」という状態を、夫の父自身が嫌がった。承諾書が出て、女性は保証から外れました。外れなければ、夫が払えなくなったときに、200万円の請求が女性に来ていました。「離婚協議書に『外すよう努力する』と書いても債権者には効かない」と本文に書いたとおりで、効いたのは、代わりの保証人でした。
最後に。借金の話は、聞くだけで気が重くなります。でも整理すると、自分が返す義務があるのは「生活のための借金」と「自分が保証人になったもの」だけで、それ以外は相手のものです。一覧を作って、どれがどれかを分けるところから始めれば、不安の大半は「返さなくてよいもの」に振り分けられます。大丈夫です。
380万円は夫のもの、18万円は二人のもの、200万円は代わりの保証人へ。三つの借金は、三つの違う答えでした。「自分が返す義務があるのは、生活のための借金と、自分が保証人になったものだけ」と本文の最後に書きました。女性が返したのは、18万円の半分と、保証を外すまでの二か月の不安だけです。督促状の宛名を見る。それが、最初の整理でした。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-02
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-02 確認)。
- e-Gov 法令検索「民法」 ― 761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)、768条(財産分与)
- e-Gov 法令検索「破産法」 ― 253条1項4号(養育費など子の監護に関する義務の請求権は免責されない)、253条2項(免責は保証人への請求に影響しない)