離婚・家族 2026-09-14
離婚と住宅ローン ― 家に住み続ける・売る・名義を変える、三つの道と連帯保証の落とし穴
住宅ローンが残る家は、離婚で最も揉める財産です。売って清算するか、どちらかが住み続けるか、名義とローンを移すか。三つの道それぞれに、金融機関の承諾、連帯保証・連帯債務、オーバーローン、税金の問題があります。実務で毎回同じ表を描いて説明してきた、住宅ローンつきの家の整理の順番を書きます。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → [離婚の中身を決める] → 書面にする・届を出す → 離婚が成立したら → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
「家は私と子どもが住み続けて、ローンは夫が払い続けます。それで話はついています」。離婚を決めた40代の女性が、そう言いました。夫もその場にいて、頷いています。子は小学生二人、家は夫名義、ローンはあと22年。二人とも善意で、この形に決めていました。私は「それが一番多くて、一番危ない形です」と言いました。二人は驚いた顔をしました。この記事は、その形をどう安全側に寄せるか、そして寄せきれない部分がどこに残るか、の話です。
離婚の財産分与で、預貯金や保険は計算すれば終わります。終わらないのが、住宅ローンの残る家です。理由は二つあります。家は物理的に分けられないこと、そして、ローンの契約は夫婦の合意では変えられず、金融機関が相手だということです。財産分与の基本の記事で2分の1の原則を書きましたが、家については、その前に「ローンとの関係」を整理しないと数字が出ません。
最初にすることは、三つの数字を並べることです。一つ、家の時価(不動産業者の査定を複数取るか、土地の値段の見方で書いた公示価格・路線価から概算する)。二つ、ローンの残高(金融機関の残高証明か、返済予定表)。三つ、名義(登記名義人と、ローンの債務者・連帯保証人・連帯債務者)。時価がローン残高を上回る「アンダーローン」なら、差額が財産分与の対象になる価値です。時価がローン残高を下回る「オーバーローン」なら、家の価値はマイナスで、財産分与の対象としてはゼロと扱うのが実務の通常です(マイナス分を他の財産と相殺するかは争いがあります)。
道は三つです。一つ目は、売って清算する。アンダーローンなら売却代金でローンを完済し、残りを分ける。オーバーローンなら、不足分を預貯金で埋めて完済するか、金融機関の同意を得て「任意売却」し、残った債務の返済を続けます。二つ目は、名義人がそのまま住み続ける。ローンの支払いも名義人が続け、家の価値(アンダーローンの差額の半分)を相手に代償金で払います。三つ目は、名義人でない側が住み続ける。子の学校を変えたくない母親が住み続け、父親名義のローンを父親が払い続ける、という形です。これが一番多く、一番危ない形です。
三つ目が危ない理由は、支払う人と住む人が違うからです。元夫が払い続ける約束をしても、数年後に再婚や失業で滞納すれば、家は競売にかかり、住んでいる元妻と子は退去を求められます。離婚協議書に「甲はローンを完済まで支払う」と書いても、金融機関に対しては何の効力もありません。この形を選ぶなら、公正証書に養育費や代償金の条項と一緒に書いて強制執行認諾文言をつける、滞納が分かる仕組み(返済口座の通帳の写しを年1回渡す等)を取り決める、完済後の名義移転の条項を入れる、の三つはしておくべきです。それでも、リスクがゼロにはなりません。
| 道 | 向く場合 | 注意点 |
|---|---|---|
| 売って清算する | どちらも住み続ける理由が弱い/オーバーローンで揉めそう | オーバーローンなら不足分の手当てか任意売却 |
| 名義人が住み続ける | 名義人に返済能力がある | 相手に代償金(アンダーローンの差額の半分) |
| 名義人でない側が住み続ける | 子の学校を変えたくない等 | 支払う人と住む人が違う。滞納で競売のリスク。金融機関には協議書の効力なし |
名義とローンを移す道は、原則として金融機関の承諾がないとできません。「ローンの名義変更」は、実際には住み続ける側が自分の名前で借り換えて、元のローンを完済する手続きです。住み続ける側に返済能力(安定した収入、勤続年数、年齢)がないと、審査は通りません。登記名義だけを先に移すのは、ほとんどのローン契約で「無断の所有権移転」として期限の利益喪失(一括返済を求められる)の事由になっているので、金融機関に相談せずに動かしてはいけません。
連帯保証と連帯債務は、離婚しても外れません。夫がローンの債務者、妻が連帯保証人という形で組んだ場合、離婚して妻が家を出ても、夫が滞納すれば妻に請求が来ます。ペアローン(二人がそれぞれ債務者で、互いに連帯保証)も同じです。外す方法は、住み続ける側の単独名義での借り換え、または代わりの保証人(親など)を金融機関が認めることのどちらかで、金融機関の審査次第です。「離婚協議書で保証人を外すと合意した」は、金融機関には通用しません。
税金も一言。家を財産分与で渡す側には、譲渡所得税がかかる可能性があります(分与した時点の時価で譲渡したものとして扱われます)。居住用財産の3,000万円特別控除は使えますが、配偶者への譲渡には適用されないため、離婚の成立前ではなく、離婚成立後に分与する順番にします。受け取る側には、清算としての財産分与なら贈与税も不動産取得税も原則かかりません。登録免許税(固定資産税評価額の2%)はかかります。
現場の数字です。家の査定は二社で2,500万円と2,700万円、間を取って2,600万円。ローン残高は2,200万円。差額の400万円がアンダーローン分で、その半分の200万円が、妻が受け取れる家の価値です。名義は夫、ローンの債務者も夫、そして妻は連帯保証人でした。この「連帯保証人」が、最初の壁になります。妻はパート収入で、自分の名前で2,200万円を借り換えることはできません。つまり、名義を妻に移す道は、この時点では閉じています。
残る道は二つ。売って清算するか、夫名義のまま妻が住み続けるか。二人は後者を選びました。そこで、できる手当てを全部しました。一つ、離婚協議書に「甲は本件不動産のローンを完済まで支払う。完済後、甲は乙に本件不動産を財産分与として移転登記する」と書き、養育費(月6万円)と一緒に公正証書にした。二つ、「甲は毎年3月に、ローン返済口座の通帳の写しを乙に交付する」という条項を入れた。滞納を早く知るためです。三つ、家の価値の半分200万円は、代償金として夫から妻に5年分割で払う。四つ、妻の連帯保証は外せないので、「甲が滞納したときは乙に直ちに通知する」を入れた。これで、できることは尽きました。
二年後、妻から電話がありました。通帳の写しが届かない。夫に連絡すると、失業して三か月滞納している、と分かりました。ここで公正証書が効いたのは養育費の差押えだけで、ローンの滞納は金融機関との話です。私は妻に、金融機関に直接連絡することを勧めました。妻は連帯保証人なので、金融機関は妻に状況を伝えます。結果、競売になる前に任意売却に切り替え、家は2,450万円で売れ、ローンは完済、残った約200万円は夫婦で分けました。妻と子は引っ越しましたが、競売で退去を迫られる形は避けられました。通帳の写しの条項がなければ、滞納を知るのは金融機関からの督促が妻に来たときで、その時点で半年以上経っていたはずです。
家の整理は、時価・残高・名義の三つの数字を出し、アンダーかオーバーかを確かめ、三つの道のどれにするかを決め、金融機関に相談する、の順番です。順番を逆にして「住み続けたい」から入ると、後で数字と金融機関に止められます。取り決めは離婚協議書に書くことの記事の順番で書き、家の条項は公正証書にしておくのが、実務での標準です。
最初の日に「一番危ない」と言ったとき、二人は驚きました。二年後、妻は「あのとき手当てをしていなければ、もっと遅く知ることになっていた」と言いました。この形を選ぶこと自体は、子の学校を考えれば自然です。ただ、選ぶなら、危ないと知ったうえで、知る仕組みを作っておく。この記事の表の三つ目の行に「金融機関には協議書の効力なし」と書いたのは、その一言で足りるからではなく、その一言から手当てが始まるからです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-15
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-15 確認)。
- 国税庁 タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例」 ― 居住用財産の3,000万円特別控除。配偶者への譲渡には使えない点