土地・不動産 2026-09-09
不動産売却の流れと媒介契約 ― 査定から引渡しまでの手順と、3種類の媒介契約の選び方
相続した実家を売る。初めての人にとって、不動産の売却は「何をどの順にするか」が見えないことが一番の不安です。査定、媒介契約、販売活動、売買契約、決済・引渡しの流れと、それぞれの所要期間、そして最初に結ぶ媒介契約の3種類(一般・専任・専属専任)の違いと選び方を、売主の立場で整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → [売るとき] → 貸す・借りる・特殊な権利
三社の査定額は、2,480万円、2,650万円、2,900万円でした。相続した実家を売る女性は、当然、2,900万円の会社を選びました。専任媒介で三か月。内覧は二件、申込みはゼロ。三か月目に、その会社から「2,500万円に下げませんか」と提案が来ました。最初の査定と400万円違う。女性は「最初からそう言ってほしかった」と言いました。この記事は、その三か月を、次の人に使わせないための話です。
相続した実家を売ることになった。多くの人にとって、不動産を売るのは人生で一度か二度です。全体の流れを先に知っておくと、不動産会社の説明が理解でき、急かされずに判断できます。順に書きます。
最初は「査定」です。不動産会社に、いくらで売れそうかを見てもらいます。机上査定(資料だけ)と訪問査定があり、売る気があるなら訪問査定です。この段階で、複数の会社に査定を頼むことを勧めています。査定額は会社によって数百万円違うことがあり、高い査定を出す会社が良い会社とは限りません(高く出して媒介契約を取り、あとで値下げを勧める手法があります)。自分でも相場を持っておくために、四つの地価の記事で書いた公示地価や路線価から土地の目安を出し、土地価格スキャンで確認しておくと、査定の説明の妥当性が判断できます。
売却の流れと期間の目安
- 0か月 査定(複数社に訪問査定)(自分でも相場を持っておく)
- 0〜1か月 媒介契約を結ぶ(一般/専任/専属専任)
- 1〜4か月 販売活動・内覧(片づけ、境界・越境の確認)
- 決定後 売買契約・手付金(重要事項説明、手付5〜10%程度)
- 契約後1〜2か月 決済・引渡し・所有権移転登記(固定資産税の日割り、仲介手数料の残り)
- 翌年2〜3月 譲渡所得の確定申告(空き家の3,000万円特別控除など)
次に「媒介契約」を結びます。不動産会社に売却を依頼する契約で、三つの種類があります。一般媒介は、複数の会社に同時に頼めて、自分で買主を見つけても構いません。専任媒介は、一社にだけ頼みますが、自分で買主を見つけて直接契約することはできます。専属専任媒介は、一社にだけ頼み、自分で見つけた買主もその会社を通します。専任と専属専任は、会社に指定流通機構(レインズ)への登録義務と、売主への定期報告義務(専任は2週間に1回以上、専属専任は1週間に1回以上)があり、契約期間は3か月以内です。一般媒介にはどちらの義務もありません。
どれを選ぶか。実務では、売れやすい物件(都市部の住宅、マンション)なら一般媒介で複数社に競わせる、売りにくい物件(地方、旗竿地、古家付き)なら専任で一社に本気で動いてもらう、という使い分けが基本です。専任は会社側にとって「他社に取られない」安心があるので、広告費をかけて動きやすい。一般は競争になる代わりに、各社が「他社で決まるかもしれない」と思って力を抜くことがあります。専属専任を選ぶ理由は、売主側にはあまりありません(自分で買主を見つける可能性をゼロにする契約なので)。
| 一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 | |
|---|---|---|---|
| 複数の会社に頼める | ○ | ×(1社) | ×(1社) |
| 自分で見つけた買主と直接契約 | ○ | ○ | × |
| レインズへの登録 | 義務なし | 7日以内 | 5日以内 |
| 売主への報告 | 義務なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
| 契約期間 | 定めなし(3か月が慣行) | 3か月以内 | 3か月以内 |
| 向く物件 | 売れやすい物件 | 売りにくい物件 | (売主側に選ぶ理由は少ない) |
媒介契約を結ぶと「販売活動」が始まります。会社が広告を出し、内覧の希望が入り、売主は内覧に立ち会う(空き家なら鍵を預ける)。相続した実家なら、家財を片づけ、境界と越境を確認しておくことが、この段階での売主の仕事です。境界が未確定だと、買主から確定測量を求められ、その費用と時間(数十万円、数か月)が売主の負担になります。販売期間は、相場どおりの価格なら3か月前後、売りにくい物件なら半年から一年を見ておきます。
買主が決まると「売買契約」です。買主から購入申込書が入り、価格や引渡し時期の条件を調整し、契約日に重要事項説明(買主向け)と契約書の読み合わせを行い、手付金(売買代金の5〜10%程度が慣行)を受け取ります。手付金の記事で書いたとおり、契約後に売主の都合で解除するには手付の倍額を返すことになるので、契約に臨む前に「本当にこの条件で売るか」を決めておきます。契約から決済までは、買主のローン審査の期間を含めて1〜2か月が普通です。
最後が「決済・引渡し」です。買主が残代金を支払い、売主は鍵と権利証(登記識別情報)を渡し、司法書士が所有権移転登記(と抵当権抹消登記)を申請します。固定資産税は引渡し日で日割り精算します。この日に、仲介手数料の残りを不動産会社に支払います。決済後、売却の税金の記事で書いた譲渡所得の申告を、翌年の確定申告で行います。相続した実家なら、空き家の3,000万円特別控除の要件を、契約前に確認しておくことが必須です。
順に書きます。女性は、専任媒介の三か月が切れた時点で、その会社との契約を更新せず、私に相談に来ました。まず、自分で相場を持つ。土地は路線価から公示ベースに直して約1,900万円(面積165平米)、建物は築32年で市場ではほぼゼロ評価、周辺の成約事例(不動産情報ライブラリの取引価格情報)を見ると、同じ町内の築30年前後の戸建ては2,300〜2,600万円で成約。2,900万円は、この地域の実勢より高く、2,480万円が一番実勢に近い査定でした。高い査定を出して媒介契約を取る手法、と本文に書いた形です。
次に、媒介契約の選び直し。この家は都市部の住宅地で、売りにくい物件ではない。一般媒介で、残りの二社に同時に依頼しました。価格は2,580万円で出し、一か月で内覧が五件、申込みが二件。2,500万円と2,550万円の申込みのうち、2,550万円の買主(ローン事前審査済み)と契約。契約から決済まで六週間。最初の三か月と合わせて五か月半かかりましたが、一般媒介に切り替えてからは二か月半です。
一つ、売主側の準備で効いたことを書いておきます。女性は、最初の三か月の間に、境界確定測量(隣接地三筆、約45万円)と、家財の片づけを終えていました。二社目以降の内覧で、買主は「境界確認書あり」を見て、値引きの理由を一つ失った。申込みの二件は、どちらも「測量済みなので早く決められる」と言っていて、三か月の間に売主がやったことは、無駄ではなかった。「境界と越境を確認しておくことが、この段階での売主の仕事」と本文に書いたとおりです。
売却で売主が持っておくべき書類は、権利証(登記識別情報)、固定資産税の納税通知書、建物の図面や建築確認の書類、境界確認書や測量図(あれば)、そして相続した物件なら相続登記が完了していること。相続登記が終わっていないと、売買契約は結べても決済ができません。売却を考え始めたら、まず相続登記です。
三社の査定額のうち、正しかったのは一番低い2,480万円で、女性が選んだのは一番高い2,900万円でした。三か月と400万円の値下げ提案の後、一般媒介で二か月半、2,550万円で売れました。「高い査定を出す会社が良い会社とは限らない」と本文に書きました。査定額を比べる前に、自分の相場を持つ。それがあれば、2,900万円という数字を、選ばずに済みました。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。