相続・手続き 2026-09-08
空き家を相続したら ― 放置のコスト、2023年改正の「管理不全空家」、国庫帰属と3,000万円控除
誰も住まない実家を相続した人へ。放置すると固定資産税が最大6倍になる仕組み(特定空家・管理不全空家)、相続放棄しても残る保存義務、建物を壊せば使える相続土地国庫帰属制度、売るなら使いたい3,000万円の特別控除。選択肢を、期限とセットで整理します。
この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → [相続した財産をどうするか] → 状況別(当てはまる方だけ)
市役所からの封筒を持って、男性が来ました。中身は「管理不全空家に関する指導」の通知。実家の庭木が隣家の敷地に伸び、雨樋が外れて隣の駐車場に落ちた。父が亡くなって四年、実家は誰も住まないまま。「勧告になると、固定資産税が6倍になると聞きました」。実家の土地の固定資産税は年3万8,000円。勧告で住宅用地の特例が外れれば、一番重い場合で約23万円(急に上がりすぎないようにする調整があるので、実際は6倍まで上がらないことも多いです)。この記事は、その封筒から、三年目の年末を過ぎてしまった家の話です。
親が亡くなり、誰も住まない実家が残る。相続の相談で最も増えているのがこの形です。「そのうち考える」で数年が過ぎ、屋根が傷み、庭木が隣に伸び、役所から手紙が来る。ここでは、空き家を相続した人が知っておくべき制度と、選択肢ごとの期限を整理します。
まず、放置のコストです。住宅が建っている土地は、固定資産税が「住宅用地の特例」で最大6分の1に軽減されています。空家等対策特別措置法に基づいて市町村が「特定空家」(倒壊のおそれ、著しく衛生上有害、景観を著しく損なうなど)と判断し、改善の勧告をすると、この特例が外れます。土地の固定資産税が最大6倍になる、というのはこの仕組みです。勧告に従わなければ命令、さらに行政代執行で取り壊され、費用は所有者に請求されます。
空き家をめぐる制度の変化
- 2015年5月 空家等対策特別措置法が全面施行(特定空家の勧告で住宅用地の特例が外れる仕組み)
- 2023年4月 相続土地国庫帰属制度が開始(建物のない土地を、審査と負担金を経て国へ)
- 2023年12月 管理不全空家を新設(特定空家の手前でも、勧告で特例が外れる)
2023年12月の法改正で、特定空家の一歩手前に「管理不全空家」という区分ができました。窓が割れている、雑草が繁茂しているといった、放置すれば特定空家になりそうな状態の家です。市町村が指導し、改善しなければ勧告、勧告の時点で住宅用地の特例が外れます。「まだ倒れそうではないから大丈夫」が通らなくなった、と考えてください。
相続放棄で逃れられるか、という相談も多いです。相続放棄の記事で書いたとおり、放棄しても、その時点で家を現に占有している人には、次に引き継ぐ人に渡すまでの保存義務が残ります。誰も引き継がなければ、家庭裁判所に相続財産清算人を選んでもらう申立てが必要で、その予納金は数十万円から百万円程度かかることがあります。放棄は「借金ごと全部手放す」手段であって、「家だけ捨てる」手段ではありません。
使う予定がない土地を手放す制度として、2023年4月に「相続土地国庫帰属制度」が始まりました。相続した土地を、審査を経て国に引き取ってもらう仕組みです。ただし条件が厳しく、建物がある土地は対象外なので、空き家は先に取り壊す必要があります。ほかにも、境界が不明確、崖がある、土壌汚染がある、担保に入っているといった土地は引き取られません。費用は審査手数料が一筆14,000円、承認されれば負担金として原則20万円(土地の種類や面積で変わります)。取り壊し費用と合わせると百万円単位になることが多いですが、「永久に固定資産税と管理責任を負い続ける」のと比べて判断します。
売る場合に必ず確認してほしいのが、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」です。亡くなった人が一人で住んでいた家を相続して売った場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。主な要件は、1981年5月31日以前に建てられた家であること、相続開始から3年目の年の12月31日までに売ること、売却額が1億円以下であること、売るときに耐震基準を満たすか取り壊すこと(2024年以降は買主が翌年2月15日までに行っても可)。適用期限は2027年12月31日までの譲渡です(2026年9月時点)。相続人が三人以上の場合は一人あたり2,000万円になります。古い実家ほど当てはまりやすく、数百万円の税額差になる特例なので、売る前に税理士か税務署で確認してください。
選択肢を並べると四つです。自分や家族が使う。人に貸す(自治体の空き家バンクに登録する手もあります)。売る(3年目の年末までなら特別控除)。壊して土地だけ持つか、国に引き取ってもらう。どれを選ぶにも、相続登記は先に済ませておく必要があります。名義が亡くなった人のままでは、売ることも貸すことも国庫帰属の申請もできません。
| 選択肢 | 主な条件・費用 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 自分や家族が使う | 相続登記。改修費 | 相続登記は3年以内 |
| 貸す | 相続登記。空き家バンクや仲介の利用 | 同上 |
| 売る | 3,000万円特別控除は1981年5月以前の建物・1億円以下・耐震か取壊し | 相続開始から3年目の年末まで(適用は2027年末の譲渡まで) |
| 壊して国に引き取ってもらう | 取壊し費用+審査手数料14,000円/筆+負担金原則20万円 | 制度上の期限はないが、固定資産税は毎年かかる |
現場で整理した数字です。父の死亡から四年、相続登記はまだで、父の名義のまま。相続人は男性と姉の二人。三年目の年末は過ぎているので、空き家の3,000万円特別控除は使えません。この家は1975年築で、要件の一つ目(1981年5月31日以前)は満たしていた。売っていれば、譲渡所得は売却額1,400万円から取得費(不明なので5%の70万円)と譲渡費用を引いた約1,280万円で、控除を使えば税額ゼロ、使えなければ約20%で約256万円。三年目の年末を一年過ぎたことで、256万円の差が出ました。
まずやったのは、指導への対応です。庭木の剪定と雨樋の撤去を業者に頼み、8万円。市役所に改善の報告をして、勧告には至らずに済みました。勧告が出れば特例が外れ、年3万8,000円が約23万円に。8万円で止められるなら、止める。次に、相続登記。男性と姉の協議で男性が取得することにし、本人申請で完了。登録免許税は土地と建物の評価額合計520万円の0.4%で2万800円。登記が終わって、ようやく売る・貸す・壊すの選択肢が動かせる状態になりました。
選んだのは、売却です。特別控除は使えないので、税額約256万円を見込んで、1,400万円で売り、手取りは仲介手数料と税を引いて約1,090万円。姉と半分ずつ。壊して土地だけ持つ案は、取り壊し費用が木造二階建てで約150万円、そのあと固定資産税が特例なしで年約23万円かかり続けるので、却下。国庫帰属は、建物を壊した上で審査手数料1万4,000円と負担金20万円、取り壊し費用と合わせて約170万円を払って手放す形で、売れる土地なら選ぶ理由がありません。四つの選択肢のうち、この家では「売る」が残りました。
| 三年目の年末まで | 四年目(この家) | |
|---|---|---|
| 譲渡所得(売却額1,400万円−取得費70万円−譲渡費用約50万円) | 約1,280万円 | 約1,280万円 |
| 空き家の3,000万円特別控除 | 使える → 課税所得0 | 使えない |
| 所得税・住民税(約20%) | 0円 | 約256万円 |
| 手取り(仲介手数料約52万円を引いたあと) | 約1,350万円 | 約1,090万円 |
私が相談で最初に言うのは、「三年目の年末」を手帳に書いてください、ということです。相続登記の義務も、空き家の特別控除も、期限は相続から三年。それを過ぎると、選べる手が減り、コストだけが残ります。
封筒を持って来た男性は、指導への対応に8万円、登記に2万800円、そして三年目の年末を過ぎた代金として、約256万円の税金を払いました。「三年目の年末を手帳に書いてください」と本文の最後に書いたのは、この256万円のためです。四年目に来た人に言えるのは、五年目にしないこと、それだけでした。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。