土地・不動産 2026-09-05
土地の値段は四つある ― 公示価格・路線価・固定資産税評価額・実勢価格の使い分け
同じ土地に「四つの値段」があるのはなぜか。それぞれ誰が何のために決めているのか、相続・売却・税金の場面でどれを見ればいいのかを、宅建士の立場から整理します。
この記事の位置: [まず読む:値段と書類の読み方] → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
兄弟三人で来て、それぞれが違う数字を持っていました。長男は「路線価で計算したら3,000万円」。次男は「固定資産税の通知書では2,600万円」。三男は「不動産屋の査定は4,200万円だった」。同じ実家の土地、150平米です。三人とも自分の数字が正しいと思っていて、その通りでした。全部正しい。この記事は、一つの土地に四つの正しい値段がある、という話です。
土地の相談で最初に混乱が起きるのは、「うちの土地はいくらなのか」という問いに、答えが四つ返ってくることです。公示価格、路線価、固定資産税評価額、そして実勢価格。どれも「その土地の値段」を名乗りますが、決めている主体も、目的も、時点も違います。ここを整理しておくと、相続でも売却でも話が早くなります。
一つ目の公示価格は、国土交通省が毎年1月1日時点の価格を調べ、3月に公表するものです。全国に設定された「標準地」について、不動産鑑定士の評価をもとに「正常な取引価格」を示します。目的は、一般の土地取引の指標になることと、公共事業で土地を買うときの基準になることです。似たものに都道府県が7月1日時点で調べる「基準地価」があり、9月に公表されます。どちらも「その地点の適正な価格の目安」であって、あなたの土地そのものの値札ではありません。
二つ目の路線価は、国税庁が道路ごとに付ける1平方メートルあたりの価格で、毎年7月に公表されます。目的は相続税と贈与税の計算です。公示価格のおおむね8割の水準に設定されていて、これに土地の面積を掛け、形や間口などの補正を加えて相続税評価額を出します。相続の相談で「路線価図を見ましょう」と言うのは、まず税金の話をしているからです。
三つ目の固定資産税評価額は、市町村(東京23区は都)が3年に一度見直す価格で、固定資産税や都市計画税、そして登記の登録免許税の計算に使われます。公示価格のおおむね7割が目安です。毎年春に届く納税通知書や、役所で取れる評価証明書に載っています。相続登記の費用を見積もるときに必要なのはこの数字です。
四つ目の実勢価格は、実際に売買が成立する価格です。誰かが公式に決めるものではなく、その時々の買い手と売り手の合意で決まります。地域や時期によって公示価格を大きく上回ることも、下回ることもあります。売却を考えるなら、最終的に意味を持つのはこの価格だけです。
四つの関係を一言でまとめると、「公示価格を100とすると、路線価が80、固定資産税評価額が70、実勢価格はその土地と時期次第」です。この比率は制度上の目安なので、都心の住宅地では実勢が公示を大きく上回り、地方では逆に公示に届かないこともよくあります。
では、場面ごとにどれを見ればいいか。相続税がかかりそうか知りたいなら路線価です。相続登記や毎年の税金の負担を知りたいなら固定資産税評価額です。売るか貸すかを考える出発点としては公示価格と基準地価が使いやすく、実際に売るときは不動産業者の査定や近隣の取引事例、つまり実勢価格の情報が必要になります。
実務で気をつけているのは、四つの数字を混ぜて話さないことです。「路線価で計算したら○千万円だから、そのくらいで売れるはず」という期待は、たいてい外れます。路線価は税金のための控えめな数字であり、実勢価格を保証するものではありません。逆に、「固定資産税評価額が低いから価値のない土地だ」と決めつけて放置するのも危険で、評価額の低さと売れやすさは別の話です。
現場で、四つを並べて紙に書きました。公示価格は、この土地の近くの標準地が1平米あたり25万円。150平米なら3,750万円。路線価は正面の道に付いた数字で1平米20万円、150平米で3,000万円。長男の数字です。固定資産税評価額は、次男が持ってきた課税明細書の土地の欄に2,625万円とありました。次男が覚えていた2,600万円はこの数字で、1平米あたり17万5,000円、公示価格のちょうど7割です。実勢価格は、三男が取った査定で4,200万円。公示3,750万円に対して1割ほど高く、この地域は駅に近く、買い手が多い場所でした。
実勢(査定) 4,200万円、公示価格 3,750万円(出発点)、相続税評価 3,081万円(相続税)、固定資産税評価額 2,625万円(税・登記)
公示価格は標準地25万円×150平米、相続税評価は路線価に角地の加算を足した額。公示価格を100とすると、相続税評価は約82、固定資産税評価額は70、実勢は約112。比率は地域と時期で変わります(2026年9月時点の、この記事の例)。
三人が揉めていた理由は、数字の違いではなく、用途の違いでした。長男は相続税の心配をしていて、路線価で見るのが正しい。相続税評価は3,000万円で、基礎控除(3,000万円+600万円×3人=4,800万円)の範囲内、預貯金を足しても申告不要と分かりました。次男は相続登記の費用を心配していて、固定資産税評価額が正しい。登録免許税は2,625万円の0.4%で10万5,000円。三男は売ることを考えていて、実勢価格が正しい。売れば4,200万円前後、仲介手数料などを引いて手取りは約4,000万円。三つの心配に、三つの数字がそれぞれ答えていました。
混ぜると起きる失敗も、その場で話しました。「路線価で3,000万円だから、3,000万円で売れる」と考えて売り急ぐと、1,200万円損をする。逆に「固定資産税評価額が2,625万円だから安い土地だ」と思って放置すると、4,200万円の土地を眠らせる。数字は、それぞれの目的でだけ使う。三人はその日、遺産分割の物差しには実勢価格の査定額を使い、税金の話にはそれぞれの評価額を使う、と決めました。
| 値段の種類 | 金額 | 何に使うか |
|---|---|---|
| 公示価格(標準地25万円/平米×150) | 3,750万円 | 売る・貸すを考える出発点 |
| 路線価(20万円/平米×150、角地加算前) | 3,000万円(加算後3,081万円) | 相続税・贈与税の計算 |
| 固定資産税評価額(課税明細書の土地の価格) | 2,625万円 | 固定資産税、相続登記の登録免許税(0.4%=10万5,000円) |
| 実勢価格(不動産会社の査定) | 4,200万円 | 実際に売るときの値段 |
路線価の3,000万円にも、一つ足し算が残っていました。この土地は南と東の二本の道に面した角地で、路線価図を見ると、横の東側の道には1平米18万円が付いていました。相続税の評価では、正面の路線価に、横の道の路線価の一定の割合を足します(側方路線影響加算)。普通住宅地区の角地なら3%で、18万円×3%×150平米で81万円。奥行きなどの補正はこの土地では効かないので、相続税評価額は3,081万円になります。基礎控除の4,800万円との間に余裕があったので結論は変わりませんでしたが、遺産の総額が基礎控除のすぐ下にある家では、この81万円が申告の要否を分けることがあります。路線価図の記事で書いた読み方が、ここで効きます。
四つの数字は、時点も揃っていません。公示価格はその年の1月1日時点、路線価も1月1日時点の評価で、7月に公表されます。固定資産税評価額は3年に一度の評価替えで決まり、2024年度の評価額は2023年1月1日時点の価格をもとにして、2026年度まで原則として据え置かれます(地価が下がった地域では途中で下げる修正があります)。実勢価格は、査定を取った日の相場です。相談の日、固定資産税評価額だけが3年近く前の値段を見ていたことになります。地価が上がり続けている地域では、評価額と実勢の開きは、7割という目安より大きく出ます。
遺産分割の物差しをどれにするかは、法律で決まっているわけではありません。相続人全員が納得すれば、路線価でも固定資産税評価額でも構いません。ただ、別の家で見た失敗があります。実家を継ぐ兄が、弟に払う代償金を固定資産税評価額で計算して合意し、2年後にその家を売ったら、評価額の1.5倍で売れた。弟から見れば、差額の半分を受け取りそこねた形で、兄は分け直しの話し合いに応じず、兄弟の行き来はそこで途絶えました。家を取る人と取らない人に分かれるときは、実勢に近い査定を2社以上から取り、その平均を物差しにする。三人はこの日そう決めて、三男が二社目の査定を頼むことになりました。
当サイトの「土地価格スキャン」は、このうち公示価格を基準に、地図上で囲んだ土地の面積と参考価格を出すツールです。基準の単価は、近くの標準地(同じ用途区分で5km以内に2地点以上)の中央値、それが無ければ市区町村内の標準地の中央値です。形状の補正は囲んだ形から自動で付き、都市計画と接道の補正は利用者が選びます。表示される金額は実勢価格でも査定額でもなく、「まず桁を掴む」ための出発点として使ってください。
帰り際、長男が「三人とも正しくて、三人とも間違っていた」と言いました。正しかったのは数字、間違っていたのは、他の二人の数字を否定したことです。この記事の表は、その日の紙をそのまま起こしたもので、一つの土地の四つの値段を、目的と一緒に並べています。「うちの土地はいくら」と聞かれたら、まず「何のために知りたいか」を聞く。答えはそこで決まります。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-14
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-14 確認)。
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」 ― 地価公示・都道府県地価調査の標準地の価格と、実際の取引価格の情報
- 国税庁「財産評価基準書(路線価図・評価倍率表)」 ― 毎年7月に公表される路線価図。地区区分と、角地の側方路線影響加算の前提
- 国税庁 タックスアンサー No.7191「登録免許税の税額表」 ― 相続登記の登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)