2026-10-07 ひなた ― 吉
ひだまりに
なにも言わずに
たたずんで
猫がそこにいる
それだけでいい
ただそこにいる、それで十分。
一日一首、架空の名前から生まれたオリクジを納めます。
ひだまりに
なにも言わずに
たたずんで
猫がそこにいる
それだけでいい
ただそこにいる、それで十分。
そら豆を
らんらん剥けば
のぞく緑
今日はこれだけ
いいことがあった
さやの中、今日の小さな正解。
つぼみまだ
むすばれもせず
ぎゅっと土
あたためている
根っこの話
地面の下で、もう動いている。
あたらしい
さいふのにおい
ひだまりに
なれてきたころ
春が来ている
なじんだものが、いちばんあたたかい。
るすばんの
りんごひとつが
こころなし
赤くなってた
今日もよかった
ひとりの午後に小さな実り。
みずたまり
なぜかきれいと
とまってる
りんごのにおい
風ふきぬけた
悪くない午後、確かにあった。
しずかにも
おいかぜが吹く
りんごの木
なびく枝から
実が落ちてくる
何もしなくても、もう転がってくる。
さいふから
ちょうど小銭が
のぞくけど
りん檎一個も
買えない春よ
財布ごとかわいい凶。
あめあがり
きのうの雲は
のきばまで
ぶどう色した
夕焼けに似る
昨日の残りが今日をそっと照らす。
あたらしい
きのうより少し
のびている
りんごの木みたく
ちゃんと育ってる
気づかないうちに、伸びてた。
あの角の
きいろい銀杏に
やっと気づく
まだ昼間だと
空が言ってた
見上げれば、ちゃんとそこにある。
ゆうべまた
きゅうりだけだよ
さいふから
千円消えた
でも腹へった
凶でもきゅうりは体にいい。
みずたまり
なにも映して
せいいっぱい
空が青くて
それだけでいい
今日の空は全部あなたのもの。
あの角を
かがやく自販機
りんごジュース
百円玉が
ちょうどあったよ
今日はそういう日だった。
こぬ雨を
よそに窓ふく
ねこがいて
それだけで足る
土曜の昼よ
なにもない日に、ちゃんとある。
ほぼ全部
しくじってきた
ねえそれが
わりといい味
出てるじゃないか
失敗は、だいたいキャラになる。
そのツキは
らいげつ回収
ねこのひたい
くらいとこにも
日なたはあるよ
凶でもねこはあたたかい。
あの波は
さっきも同じ
ねそべって
また来た気がする
それでいいんだ
行きつ戻りつ、それが海の正直さ。
さっきまで
よそのベランダに
りんごあり
気づけばなくて
それだけのこと
見えていたものが、ちゃんとあった。
さいごまで
よく噛んで食べた
りんご飴
それだけのこと
今日も悪くない
ちゃんと味わえた一日。
ゆるやかに
らせん状に日が
ねじれてく
向かい風さえ
背中を押してる
今日、全部が味方になった。
こぬか雨
はらりとぬれる
るすの窓
ただいまと言えば
灯りがともる
帰ってくる場所が、ある。
けんかした
しおりのはさまる
ろくじごろ
うすくひかって
本のやけた縁
ちいさな傷も、どこかあたたかい。
こぼれる陽
うすいカップに
じっと待つ
湯気の向こうで
朝がほどける
急がない朝も、進んでいる。
あめあがり
かどの自転車
りんが鳴る
雲の切れ間を
先に見つけた
光は、見つけた人から届く。
たしかめる
くつひも結ぶ
みぎの靴
少し遅れて
春がついてく
結び直せば、また歩ける。
ひるさがり
ななめの影を
たどる猫
塀の向こうに
海の気配が
猫だけが、近道を知っている。
まどぎわの
こっぷの水に
とおい空
揺れて映った
今日の青色
遠くは、ときどき机の上にある。
さびた鍵
くるりと回す
らじお鳴る
無人の部屋に
夏が戻った
開く音は、思い出より先。
あさの駅
おとが少ない
いすひとつ
始発を待てば
町が目覚める
最初の音を、待っている。
みちの端
ずっと小さな
きのうの葉
水たまりには
空が残った
引いた波にも、景色は残る。
ゆびさきに
うすい絵の具の
こぼれ青
窓を開ければ
風の続きが
塗り残しから、風が入る。
ののひかり
ぞうきの道を
みつけた日
誰にも言わず
道を一本
見つけた道は、もう始まっている。
かさがない
なのに降り出す
えきの前
走った先で
虹だけ届く
傘はない。虹はある。
つきの下
ばす停ひとつ
さびた椅子
海には遠い
青だけが来る
深夜の青は、行き先を急がない。