土地・不動産 2026-09-25

売ったあとの契約不適合責任 ― 相続した実家を売る人が、告知書と免責特約で決めておくこと

家を売って引き渡したあとに、雨漏りやシロアリが見つかったら、売主は何を負うのか。2020年の民法改正でできた「契約不適合責任」の中身、買主が請求できる四つのこと、通知の期間、個人の売主が使う免責特約と、その特約が効かない場面。相続した実家を売った相談の実際の数字で整理します。

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この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → [売るとき] → 貸す・借りる・特殊な権利

「免責って契約書に書いてあるから、大丈夫ですよね」。相談に来た60代の女性は、売買契約書のコピーを机に置いて、そう言いました。相続した築40年の実家を、個人の買主に1,800万円で売り、引き渡したのが二か月前。先週、買主から連絡があった。浴室の床下が腐っていて、シロアリの跡がある。修理に150万円かかるので払ってほしい。契約書の特約欄には「売主は契約不適合責任を負わない」とありました。私は、契約書の次に、もう一枚の書類を見せてもらいました。売るときに女性が書いた「告知書」です。

家を売ったあとに欠陥が見つかったとき、売主が負う責任を「契約不適合責任」といいます。2020年4月の民法改正で、それまでの「瑕疵担保責任」から名前と考え方が変わりました。引き渡した物が、種類・品質・数量について契約の内容に合っていないとき、買主は売主に四つのことを求められます。直してほしい(追完の請求)、その分を値引きしてほしい(代金の減額)、損害を払ってほしい(損害賠償)、契約をやめたい(解除)。大事なのは、判断の基準が「隠れた欠陥かどうか」ではなく「契約の内容と合っているかどうか」になったことです。つまり、契約書と告知書に何を書いたかで、結論が変わります。

期間にも決まりがあります。民法では、買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しないと、原則として請求できなくなります。ただし、売主が引き渡しの時に不適合を知っていた、または重い不注意で知らなかったときは、この期間の制限はかかりません。個人が売主の場合は、特約で期間を短くしたり、責任を負わないとしたりできます。中古住宅の個人間の売買では「引き渡しから3か月以内に通知されたものに限る」という特約がよく使われます。一方、売主が不動産会社(宅建業者)の場合は、引き渡しから2年以上とする特約を除いて、買主に不利な特約は無効です。

では、女性の契約書にある「責任を負わない」という特約は、どこまで効くのか。民法には、責任を負わない特約をしても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れない、という定めがあります。相続した実家の売主は、自分がそこに住んでいなかったので、家の傷み具合を知らないことが多い。だから免責特約が使われます。そして同じ理由で、「知っていたこと」を告知書に書いておくことが、売主にとっていちばんの守りになります。

免責特約が効く欠陥、効かない欠陥 ― 分かれ目は「売主が知っていたか」
免責特約が効く欠陥、効かない欠陥 ― 分かれ目は「売主が知っていたか」告知書と契約書から左右に分かれる図。左は売主が知らなかった欠陥で、免責特約が効く。右は売主が知っていて告知書に書かなかった事実で、免責特約があっても責任を免れない(民法572条)。 告知書・契約書の免責特約 売主が知らなかった欠陥売主が知らなかった欠陥 知っていて書かなかった事実知っていて書かなかった事実 免責特約が効く免責特約が効く 責任を負わないで済む責任を負わないで済む 免責特約が効かない免責特約が効かない 民法572条民法572条

告知書と契約書から左右に分かれる図。左は売主が知らなかった欠陥で、免責特約が効く。右は売主が知っていて告知書に書かなかった事実で、免責特約があっても責任を免れない(民法572条)。

相続した家で分からないことは「不明」と書けば足ります。「知っていたのに無と書いた」ときに、右側に入ります。

告知書は、不動産会社によっては「物件状況報告書」とも呼ばれ、媒介契約を結んだあとに売主が書きます。雨漏り、シロアリ、給排水管の故障、建物の傾き、境界や越境、騒音や近所の事情、過去の修繕。あわせて「付帯設備表」に、エアコンや給湯器があるか、壊れていないかを書きます。書き方のコツは一つで、分からないことは「不明」と書くことです。空欄にしない。推測で「無」と書かない。相続した家では「不明」が並ぶのが普通で、それは恥ずかしいことではありません。

もう一つの手が、建物状況調査(インスペクション)です。建築士などの専門家が、基礎や外壁のひび、雨漏りの跡、床下の状態を目で見て調べます。2018年4月から、不動産会社は媒介契約のときに、この調査をする業者を紹介できるかどうかを示すことになりました。費用は数万円からで、売る前に傷みが分かれば告知書に書け、値段に織り込めます。

女性の告知書に戻ります。「シロアリの被害」の欄には「無」と書いてありました。話を聞くと、父が15年前に床下の防蟻工事をした領収書が遺品の中にあり、女性は片付けのときにそれを見ていた。「被害があったかどうかは知りません。でも、工事をしたことは知っていました」。ここが分かれ目でした。

女性が知っていたのは15年前の防蟻工事で、今回の床下の腐食そのものを知っていたわけではありません。ただ、「無」と書いたのは推測で、本来は「平成の頃に防蟻工事あり。被害の有無は不明」と書くべき欄でした。知りながら告げなかったと言われる余地が残る。私の立場でできるのは、宅建士として契約書面と告知書の読み方を整理するところまでです。買主と争いになるなら弁護士の領分だと伝え、まず不動産会社を間に入れて話し合うことを勧めました。

話し合いは一か月かかりました。買主の請求は150万円で、内訳は床下の補修90万円、防蟻処理20万円、浴室の解体と復旧40万円。結論は、防蟻処理の20万円と床下の補修の半分45万円を女性が負担し、合計65万円。浴室の解体と復旧は、買主がもともとリフォームする予定だった部分なので、買主の負担になりました。合意の書面は、女性が依頼した弁護士に確認してもらってから交わしています。

買主の請求150万円は、話し合いでこう分かれた(この記事の例)
請求の中身請求額女性(売主)の負担買主の負担
床下の補修90万円45万円45万円
防蟻処理20万円20万円0円
浴室の解体と復旧40万円0円40万円(もともとリフォーム予定)
合計150万円65万円85万円

もし告知書に「防蟻工事あり、被害の有無は不明」と書き、売り出しのときに床下を見てもらっていたら、どうだったか。傷みが分かったうえで30万円ほど値引きして売っていれば、買主は承知して買ったことになり、「契約の内容に合っていない」とは言いにくくなります。1,800万円が1,770万円になる代わりに、65万円の支払いと一か月の揉め事は、なかった可能性が高いと私は考えています。

買主から連絡が来たときの、最初の動き方も書いておきます。慌てて「払います」と言わない。かといって「知りません」と突っぱねもしない。まず、不具合の写真と修理の見積書を出してもらい、仲介した不動産会社に連絡します。次に、契約書の通知期間の内に連絡が来ているかを確かめる。女性の契約書は「引き渡しから3か月以内」で、連絡は2か月目だったので、期間内でした。そのうえで、できれば自分の目で現地を見る。女性は床下の写真を見て、父の工事の領収書を思い出したそうです。

設備の扱いも、契約書で別に決めることが多い部分です。給湯器、エアコン、換気扇、コンロといった付帯設備は、「引き渡しから7日以内に申し出た故障に限り直す」といった短い期間を置くか、「古い設備なので責任を負わない」とする書き方をよく見ます。付帯設備表に「有・故障なし」と書いた設備が引き渡しの翌日に動かなかった、という揉め事は珍しくありません。動くかどうか分からない設備は、ここにも「不明」か「使用に耐えない可能性あり」と書いておきます。

売る前にやることを三つにまとめます。一つ、遺品の中から修繕の記録(領収書、保証書、工事の契約書)を探す。二つ、告知書には、分かっていることは年と内容まで書き、分からないことは「不明」と書く。三つ、契約書の免責特約と通知期間を読み、何が対象外になるかを不動産会社に確かめる。境界の話は境界確定の記事に、人が亡くなった家の告知は告知事項の記事に、売る手順全体は売却の流れの記事に書いています。

女性は帰り際に「免責って、何でも免れるという意味だと思っていました」と言いました。免責特約が守ってくれるのは、売主が「知らなかったこと」だけです。知っていたことは、書いておく。それが、売ったあとの自分を守るいちばん安い方法です。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-25

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-25 確認)。

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