土地・不動産 2026-09-09
公図と地積測量図の読み方 ― 境界が分からない土地で、最初に取る二枚の図面
相続した土地の境界が分からない。隣との塀がどちらの土地か曖昧。そのときに法務局で取る「公図」と「地積測量図」は、何が描かれていて、どこまで信用できるのか。明治の地租改正に由来する公図の精度、地積測量図が無い土地がある理由、登記簿の面積と実測が違う「縄伸び」、筆界と所有権界の違い、境界確定の流れを整理します。
この記事の位置: [まず読む:値段と書類の読み方] → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
相続した土地の公図を法務局で取って、女性は首をかしげました。「うちの土地、こんなに細長くないんですけど」。公図の上では、間口が奥行きの三分の一ほどの長方形。現地は、ほぼ正方形。公図の右上には「地図に準ずる図面」。明治の図面です。地積測量図は「該当なし」。登記簿の地積は198平米、女性が巻尺で測った現地は、およそ230平米。この記事は、その差の32平米が、売却の直前に何を引き起こしたかの話です。
土地の相談で「境界が分からない」と言われたとき、最初に取るのが法務局の二枚の図面です。一枚は公図、もう一枚は地積測量図。どちらも法務局の窓口か、オンラインの登記情報提供サービスで、一通数百円で取れます。ただし、この二枚は性格がまったく違い、信用できる範囲も違います。
公図は、土地の位置関係と形、地番を示す図面です。もとになっているのは明治時代の地租改正のときに作られた図面で、測量技術が今とは違うため、土地の形や大きさが実際と食い違っていることが珍しくありません。法律上は「地図に準ずる図面」という位置づけで、「その土地がどこにあり、どの土地と接しているか」を知るための図面と考えてください。公図で境界の正確な位置を決めることはできません。
一方、法務局が近年整備を進めている「14条地図」(不動産登記法14条の地図)は、現代の測量で作られた精度の高い地図で、境界の位置を座標で復元できます。都市部の一部や、地籍調査が終わった地域では公図の代わりにこの14条地図が備え付けられています。取った図面の右上や欄外に「地図(法第14条第1項)」とあれば14条地図、「地図に準ずる図面」とあれば公図です。この区別が、図面をどこまで信用できるかの最初の分かれ目です。
地積測量図は、その土地の測量結果を示す図面で、各辺の長さ、境界点の位置、面積の計算が描かれています。土地を分筆したときや、登記簿の面積を訂正(地積更正)したときに法務局へ提出されるので、一度も分筆していない古い土地には存在しないことが多いです。「地積測量図なし」と言われたら、その土地は測量された記録が法務局に無い、という意味です。作られた年代でも精度が違い、2005年以降のものは原則として世界測地系の座標が入っていて境界の復元性が高く、古いものは辺の長さだけで座標がないこともあります。
| 図面 | 何が分かるか | 精度・信用できる範囲 | 無い場合 |
|---|---|---|---|
| 公図(地図に準ずる図面) | 土地の位置関係・形・地番 | 明治の図面が元。形や大きさは実際と違うことがある | ほぼ全ての土地にある |
| 14条地図 | 境界の位置(座標で復元可能) | 現代の測量。精度が高い | 整備済みの地域のみ |
| 地積測量図 | 各辺の長さ・境界点・面積の計算 | 作成年代で差。2005年以降は座標付きが原則 | 分筆・地積更正をしていない土地には無い |
登記簿に載っている面積と、実際に測った面積が違うこともよくあります。実測のほうが大きいのが「縄伸び」、小さいのが「縄縮み」で、明治の測量の粗さと、当時の税負担の事情に由来します。山林や農地では一割以上違うことも珍しくありません。売買では、登記簿の面積で取引する「公簿売買」と、測量して面積を確定してから取引する「実測売買」があり、四つの地価の記事で書いた「参考価格に面積を掛ける」計算は、この面積がどちらなのかで答えが変わります。
もう一つ、言葉を分けておきます。「筆界」は法務局の登記上の土地の境で、当事者の合意では動かせません。「所有権界」は所有権が及ぶ範囲で、当事者が合意して動かせます。普通は一致していますが、越境や長年の占有でずれていることがあります。隣と「ここが境界だ」と合意しても、それは所有権界の合意であって筆界は変わらない、という点が、境界トラブルを複雑にしています。
境界を確定させる手順は、まず土地家屋調査士に依頼して、公図・地積測量図・過去の測量資料をもとに現地を測り、隣地の所有者の立ち会いのもとで境界点を確認し、境界確認書を交わし、必要なら地積更正登記をする、という流れです。費用は土地の広さや隣地の数によりますが、数十万円になるのが普通です。隣地が立ち会いに応じない、筆界がどこか分からない場合は、法務局の「筆界特定制度」で筆界を特定してもらう道もあります。
順に書きます。まず、公図が信用できる範囲の確認。「地図に準ずる図面」なので、位置と隣接関係だけを見る。この土地は、北側が道路、東西が民家、南側が別の民家の裏庭。隣接地は三筆。次に、地積測量図がないので、法務局には測量の記録がない。売却は、買主が住宅ローンを組む予定で、金融機関から「実測売買、境界確認書つき」を求められました。土地家屋調査士に依頼して、境界確定測量へ。
測量の結果です。実測面積は231.4平米。登記簿の198平米より33.4平米、約17%大きい。縄伸びです。境界点は、東側の隣家との間に古いコンクリート杭が二本残っていて、西側と南側は杭がなく、ブロック塀の中心を境界として隣地所有者三人と立ち会い、確認書を交わしました。立ち会いは、南側の隣家が「塀は自分の敷地内に建てた」と主張し、塀の中心ではなく塀の外側(女性の土地側)を境界とする、で調整。この調整で、実測は229.8平米に落ち着きました。地積更正登記をして、登記簿の地積を198平米から229.8平米に直し、地積測量図がこのとき初めて法務局に備え付けられました。費用は、測量と境界確認と登記で約52万円、期間は三か月半。
売買の値段にも効きました。この土地の売買は実測売買で、平米単価12万円。公簿の198平米なら2,376万円、実測の229.8平米なら2,758万円。差は約382万円。測量の費用52万円を引いても、330万円の差です。「参考価格に面積を掛ける計算は、面積がどちらかで答えが変わる」と本文に書きました。この土地では、公図と登記簿を信じていたら、330万円分の土地を、ないものとして売っていました。
相続した土地を売る、分ける、建てるとき、境界が確定していないと話が止まります。逆に言えば、境界確認書と地積測量図が揃っている土地は、買い手にとって安心材料です。相続登記が終わったら、次にこの二枚の図面を取って、境界がどの程度はっきりしている土地なのかを見ておく。それが、あとの手続きを軽くする準備になります。
「こんなに細長くないんですけど」と言った女性の土地は、三か月半と52万円で、正しい形と面積になり、330万円分、高く売れました。境界確認書と地積測量図が揃った土地は、買主にとって安心材料だと本文の最後に書きました。それは、売主にとっては、面積の証明です。明治の図面と、令和の測量の間にあった32平米は、測って初めて、女性のものになりました。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。