土地・不動産 2026-09-09
私道の持分と通行・掘削の承諾 ― 家の前の道が「他人の土地」だったとき
家の前の道路が市道ではなく私道だった。持分があるのか、通っていいのか、水道管を引き直せるのか。私道の三つの形(共有・相互持合・単独所有)、通行と掘削の承諾、2023年の民法改正で入った「ライフライン設備の設置権」、建築基準法上の道路との関係、相続で所有者が分からなくなる問題を整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → [境界・隣地・道] → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
建て替えの見積もりが出て、工務店との打ち合わせの最後に、担当者が言いました。「前面道路が私道なので、水道管の引き込みで掘削の承諾が要ります。持分はお持ちですか」。持っていませんでした。家の前の道は、40年前に分譲した業者の名義のまま。その業者は、20年前に廃業していました。承諾をもらう相手が、いない。この記事は、その道の下を掘れるようになるまでの、五か月の話です。
家の前の道路には、市町村が持つ公道と、個人が持つ私道があります。分譲地の中の道、袋小路の奥へ続く道、古い住宅地の細い路地。見た目は同じでも、私道は誰かの土地です。相続や売買の調査で私道が出てくると、確認することが一気に増えます。
私道の持ち方には三つの形があります。一つ目は「共有」で、私道に面する家の所有者全員が、私道全体を持分で共有する形。二つ目は「相互持合」で、私道を細かく分筆して、各自が自分の家の前ではなく別の区画を持ち合う形(自分の土地だけ売っても道が残るように、あえてずらして持ちます)。三つ目は「単独所有」で、分譲した業者や特定の一人が私道全体を持っている形です。登記事項証明書と公図で、自分の家の敷地とは別に私道の筆があるか、その所有者が誰かを確認すると、どの形か分かります。
| 形 | 持ち方 | 通行 | 掘削 |
|---|---|---|---|
| 共有 | 全員が私道全体を持分で共有 | 持分に基づいて可 | 他の共有者の承諾を取るのが実務 |
| 相互持合 | 分筆した区画を互いに持ち合う | 持分に基づいて可 | 掘る区画の所有者の承諾 |
| 単独所有 | 業者や特定の一人が全体を所有 | 所有者の承諾・通行地役権が必要 | 所有者の承諾(承諾料の慣行がある地域も) |
通行については、共有や相互持合で持分があれば、自分の土地として通れます。持分が無い場合は、私道の所有者との合意(通行の承諾や通行地役権の設定)で通るのが本来の形で、長年黙認されてきた通行は、あとから止められて争いになることがあります。公道に出るために他人の土地を通らざるを得ない土地には、民法上の囲繞地通行権がありますが、これは最低限の通行を認めるもので、車の通行まで当然に認められるわけではありません。
掘削は通行より問題になりやすいです。家を建て替える、水道管やガス管を引き直す。そのとき私道の下を掘るには、私道の所有者の承諾が要ります。持分があっても、共有物に手を加えるので他の共有者の承諾を求めるのが実務で、承諾書を取り交わします。承諾料を求められる慣行がある地域もあり、所有者が多いと一人ひとり訪ねて回ることになります。この「掘削承諾」が取れないために、建て替えが止まる例は珍しくありません。
2023年4月の民法改正で、この状況が一部変わりました。電気・ガス・水道などの「継続的給付を受けるための設備」を、他人の土地に設置したり、他人の設備を使ったりする権利が民法に明記されました(設備設置権・設備使用権)。設置する場所や方法は相手の損害が最も少ないものを選び、事前に通知することが条件で、承諾が取れなくても法律上は設置できる根拠ができています。ただし実務では、承諾書を取ってから工事する慣行は続いています。この改正は、承諾を頑なに拒む相手や、所在の分からない所有者がいるときの最後の拠りどころ、と考えてください。
私道をめぐる制度の変化
- 2023年4月 民法改正 ― ライフライン設備の設置権・使用権(他人の土地への設備設置を、通知のうえ法律上可能に。所在等不明共有者の制度も)
- 2024年4月 相続登記の義務化(私道の持分も対象。3年以内)
建築との関係も要点です。私道であっても、建築基準法上の道路(42条1項5号の位置指定道路や、2項道路)として扱われていれば、それに接する土地に建物を建てられます。逆に、私道が建築基準法上の道路でなければ、いくら持分があっても接道義務を満たさず、再建築不可です。持分の有無と、道路としての扱いは別の話なので、役所の道路台帳で必ず確認します。
私道の一番の問題は、時間が経つと所有者が分からなくなることです。分譲から数十年、持分を持っていた人が亡くなり、相続登記がされず、相続人が全国に散らばる。掘削の承諾を取ろうにも誰に頼めばいいか分からない。相続登記の義務化と、所在等不明共有者の持分を裁判所の決定で扱える制度(2023年改正)は、この問題への対応でもあります。自分が私道の持分を相続したなら、その持分の相続登記も忘れずに済ませてください。持分は忘れやすく、名寄帳を見て初めて気づくことが多い財産です。
順に書きます。まず、私道の登記事項証明書を取ると、所有者は分譲業者の会社名で、法人登記を調べると、20年前に解散、清算結了。会社はもう存在しません。次に、私道に面する家は七軒で、持分を持っている家はゼロ。全員が、掘削のたびに廃業した業者の承諾を「取ったことにして」工事してきた、というのが実態でした。水道局は、承諾書がなければ引き込み工事を受け付けない。
使ったのは、2023年改正の設備設置権です。他人の土地に水道管を設置する権利は民法にあり、所有者の承諾がなくても、損害の最も少ない方法を選び、事前に通知すれば設置できる。所有者が存在しない会社なので、通知の相手がいない。清算結了した会社の財産(この私道)については、清算人を選任し直す手続きを家庭裁判所ではなく地方裁判所に申し立てる方法がありましたが、時間がかかる。水道局と協議し、設備設置権の根拠と、所有者が存在しないことの証明(会社の閉鎖登記簿)、そして七軒の同意書を添えて、承諾書に代える扱いで受け付けてもらいました。ここまでで四か月。
並行して、七軒で相談し、私道を七軒の共有にする道も探りました。廃業した会社の私道を七軒で取得するには、清算人を選任して売買するか、時効取得を主張するか。時効取得は、七軒が道として使ってきた事実で主張できる可能性がありますが、裁判が要ります。今回は、建て替えを止めないことを優先して、設備設置権で工事を進め、私道の共有化は、七軒で費用を分担して弁護士に依頼する話が、いま進んでいます。「私道の一番の問題は、時間が経つと所有者が分からなくなること」と本文に書きましたが、分からなくなる以前に、いなくなることもあります。
家を買う人に向けて。重要事項説明には「私道負担」の欄があり、私道の持分の有無、面積、通行・掘削の承諾の状況が書かれます。持分なし・承諾なしの物件は、値段が安くても将来の建て替えで苦労します。私道の記述は、契約前に必ず読んでください。
見積もりの最後の一言から五か月で、水道管は私道の下を通り、家は建ちました。承諾をもらう相手がいない道で、2023年の改正が最後の拠りどころになった、という例です。「私道の記述は契約前に必ず読んで」と本文の最後に書きました。この家は、40年前に親が買ったときに、持分なしで買っていました。40年後の子が払ったのは、五か月と、七軒での話し合いです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。