相続・手続き 2026-09-08

不動産の共有はなぜ避けるべきか ― 「とりあえず共同名義」が十年後に招くもの

遺産分割で話がまとまらず、相続人全員の共有にした不動産。売るにも貸すにも全員の同意が要り、相続を重ねるたびに共有者が増えていきます。共有のルール(2023年改正)、共有物分割の方法、持分だけの売却、実務で勧める代わりの分け方を整理します。

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この記事の位置: [亡くなる前にできること] → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「三人で仲良く三分の一ずつにしました」。父の実家を相続した三兄弟の長男が、そう言ったのは18年前です。今年、その長男の息子が来ました。長男は昨年亡くなり、次男は五年前に亡くなり、三男は施設に入って判断能力に不安がある。実家の共有者を数えると、長男の妻と子二人、次男の妻と子三人、三男、で八人。息子は「実家を売りたいんですが、誰の判子が要るんですか」。八人全員の判子と、三男については成年後見人の選任。この記事は、18年前の「仲良く」が、今年いくらになったかの話です。

相続の相談で、あとから最も後悔されているのが「とりあえず共有」です。遺産分割で誰が家を取るか決まらない。公平にしたい。そこで兄弟三人の共同名義で相続登記をする。その時点では誰も困りません。困るのは十年後、二十年後です。

共有不動産の扱いは民法で決まっています。売る、建て替える、抵当に入れるといった「処分・変更」には共有者全員の同意が必要です。誰かに貸す、賃料を決める、大きな修繕をするといった「管理」には持分の過半数の同意が要ります。一人でできるのは、雨漏りを直すような「保存」だけです。つまり三人共有の家は、一人が反対すれば売れず、二人が賛成しなければ貸せません。

2023年4月の民法改正で、このルールが少し整理されました。形状や効用を大きく変えない「軽微な変更」は過半数でできるようになり、所在が分からない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得てその人抜きで管理や変更を決めたり、その人の持分を取得したりする手続きが作られました。行方不明の共有者がいて何もできない、という最悪の状態からは抜け出しやすくなっています。それでも、意見が割れている共有者が目の前にいる場合の解決にはなりません。

共有不動産で何をするのに、誰の同意が要るか(2023年4月改正後)
行為例必要な同意
保存雨漏りの修理、不法占拠者への明渡し請求共有者の一人で可
管理賃貸に出す(短期)、賃料の決定、通常の修繕持分の過半数
軽微な変更外壁の塗り替え、砂利敷きを舗装に持分の過半数
変更・処分売却、建て替え、抵当権の設定、長期の賃貸共有者全員

時間が経つと、共有は必ず複雑になります。兄弟三人の共有で、一人が亡くなればその持分はその人の配偶者と子へ。次の一人が亡くなればまた枝分かれ。二世代で共有者が十人を超えることは珍しくありません。相続登記の義務化の記事で書いた「相続人が二十人を超えて協議が事実上不可能」な土地は、たいていこうしてできています。固定資産税は共有者全員の連帯納付なので、誰かが払わなければ他の共有者に請求が来ます。

共有を解消する正規の手続きが「共有物分割」です。共有者はいつでも分割を請求でき、話し合いがまとまらなければ裁判所に決めてもらえます。方法は三つ。土地を物理的に分ける「現物分割」、一人が全部を取得して他の共有者に金銭を払う「代償分割」、売却して代金を分ける「換価分割」です。裁判になれば時間も費用もかかり、最後は競売で市場より安く処分されることもあります。

「自分の持分だけ売る」ことは法律上できます。ただし、他人と共有になる不動産の持分を買うのは、そうした持分を専門に扱う業者くらいで、価格は持分に見合う額よりかなり低くなります。買った業者は他の共有者に分割請求や買取りを持ちかけるので、残った家族が対応に追われることになります。持分売却は最後の手段と考えてください。

では、遺産分割の時点でどうすればいいか。実務で勧めているのは、共有にする前に代償分割を検討することです。家を取る一人が、他の相続人に持分相当の金銭を払う。手元に現金がなければ、家を担保に借りる、分割払いにする、生命保険金を原資にする、といった組み立てがあります。それでも難しければ、換価分割で売って現金で分ける。「誰も住まない家を共有で残す」より、売って分けるほうが家族の関係は保たれることが多い、というのが相談の場での実感です。

どうしても共有にせざるを得ない場合は、最低限、共有者の間で「誰が管理するか」「費用をどう分担するか」「売るときの手順」を書面にしておいてください。共有者が増える前に決めておけば、あとの世代が同じ問題を繰り返さずに済みます。

順に書きます。まず、八人の確定。長男と次男の相続登記はされておらず、実家の登記は三兄弟の共有のまま。長男の持分3分の1は妻と子二人へ、次男の持分は妻と子三人へ、それぞれ相続登記を先にする必要がある。戸籍を集め、二つの相続について協議書を作り、登記。ここまで四か月。次に、三男。施設で要介護3、認知症の診断あり。売却は「処分」で三男本人の同意が要り、本人に判断能力がなければ、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、後見人が家庭裁判所の許可を得て売却に同意する。申立てから選任まで三か月、居住用不動産ではないので許可は比較的早く、合わせて五か月。

費用と時間です。長男・次男の相続登記が、登録免許税各1万円台と司法書士の報酬で合わせて約14万円。成年後見の申立てが、実費と診断書で約2万円、専門職後見人の報酬は三男の財産から月2万円で、三男が亡くなるまで続く。私の報酬が、八人との連絡と協議書の作成で15万円。実家の売却額は1,800万円で、八人の持分に応じて分け、長男の息子の手取りは持分9分の1で200万円。18年前に、長男が実家を取得して弟二人に代償金を払っていれば、当時の評価額1,500万円の3分の1ずつ、500万円ずつで終わっていた。それを「仲良く」で先送りした18年分が、八人と、九か月と、後見人の月2万円です。

逆に、共有を避けた家も同じ月にありました。三姉妹で実家を相続、誰も住まない。長女が「三人の名義にしておけば」と言い、次女が「売って分けよう」と言った。換価分割で、実家を2,200万円で売り、税金と費用を引いて三等分、一人約690万円。四か月で終わり、三姉妹は今も年に二回、集まっています。「誰も住まない家を共有で残すより、売って分けるほうが家族の関係は保たれる」と本文に書いた実感は、この三姉妹と、八人の家の差です。

当サイトの「相続登記ナビ」は、遺産分割で取得者を一人に決めた場合の協議書の項目と登記申請書案を整理します。代償分割の条項(誰が誰にいくら払うか)も協議書に書けるので、共有を避ける分け方の下書きに使ってください。

「仲良く三分の一ずつ」は、18年後に八人の判子と後見人と九か月になりました。長男の息子は、200万円を受け取って、「父が18年前に一人で取っていれば」と言いました。この記事の表に「何をするのに、誰の同意が要るか」を置いたのは、その18年前に見てほしかった表です。共有は、決めない、という決め方で、決めない代金は、次の世代が払います。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

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