土地・不動産 2026-09-08
中古住宅の重要事項説明の読み方 ― 宅建士が契約前に必ず見る9つの項目
中古住宅を買うとき、契約の前に宅地建物取引士が行う「重要事項説明」。数十ページの書面のどこを読めばいいのか。登記、法令上の制限、私道、インフラ、建物状況調査、水害リスク、契約不適合責任、手付とローン特約、マンションの管理。宅建士が実際に見ている順に整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → [買う前に確認すること] → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
契約の前日に、買主の男性から電話が来ました。「重要事項説明書の写しをもらったんですが、48ページあって、明日までに読めません。どこを読めばいいですか」。私は、9項目の場所をページ番号で伝えました。男性は、その夜、9項目だけを読み、翌日の説明の席で、三つ質問しました。三つのうち一つが、契約の条件を変えました。この記事は、その48ページと、9項目と、三つの質問の話です。
中古住宅の売買では、契約を結ぶ前に、宅地建物取引士が買主に「重要事項説明」をすることが宅地建物取引業法で義務づけられています。取引士証を提示し、書面(35条書面)を渡し、口頭で説明する。数十ページになることも多く、当日に全部を理解するのは無理です。事前に写しをもらい、次の9項目を先に読んでおいてください。
| 項目 | 見るところ | 見落とすと起きること |
|---|---|---|
| 登記記録 | 所有者・抵当権・共有 | 名義や担保の処理が引き渡しまでに終わらない |
| 法令上の制限 | 用途地域・建ぺい容積・道路・セットバック | 建て替えで今より小さい家しか建たない |
| 私道 | 持分・通行掘削の承諾 | 建て替えや配管工事ができない |
| インフラ | 上下水道・ガス・引き込み管 | 引き直しの費用が発生する |
| 建物状況調査・耐震・石綿 | 実施の有無と結果 | 雨漏り・劣化を知らずに買う |
| 災害リスク | 水害ハザードマップ・警戒区域 | 保険料と将来の売りやすさに影響 |
| 契約不適合責任 | 対象・期間・免責 | 欠陥が出ても請求できない |
| 手付金・ローン特約 | 額・解除期限 | 期限を逃して手付金を失う |
| 管理(マンション) | 管理費・積立金・滞納・修繕計画 | 一時金や値上げが来る |
一つ目、登記記録。所有者が売主本人か、抵当権が付いているか。抵当権は売買代金で完済して抹消するのが普通ですが、その段取りが説明に書かれているかを見ます。共有名義なら共有者全員が売主になっているかも確認します。
二つ目、法令上の制限。用途地域、建ぺい率・容積率、高さの制限、そして接道義務の記事で書いた道路の種類と幅員、セットバックの有無。建て替えたときに今と同じ大きさの家が建つかどうかは、ここで分かります。市街化調整区域なら、建て替えの可否そのものを確認します。
三つ目、私道の負担。前面道路が私道の場合、その持分を一緒に買うのか、通行や掘削(水道管の引き込み)の承諾が得られているのか。私道の持分がなく承諾もないと、将来の建て替えで工事車両が入れない、水道管を引き直せないといった問題が起きます。
四つ目、インフラ。上水道、下水道(または浄化槽)、ガス(都市ガスかプロパンか)の整備状況と、前面道路から敷地までの引き込み管が誰のものか。引き込み管が隣地を通っている、口径が細くて建て替え時に引き直しが要る、といった事情はここに書かれます。
五つ目、建物状況調査(インスペクション)。2018年4月から、既存住宅の売買では、建物状況調査を実施したかどうか、実施していればその結果の概要を重要事項説明で示すことになりました。調査は義務ではないので「実施していない」と書かれていることも多いですが、実施済みなら、劣化や雨漏りの有無がここで分かります。建築時期と、耐震診断の有無(1981年5月以前の建物なら特に)も一緒に見ます。石綿(アスベスト)使用調査の記録の有無も項目にあります。
六つ目、災害リスク。2020年8月から、水害ハザードマップ上の位置を説明することが義務になりました。洪水・内水・高潮の浸水想定区域に入っているか、土砂災害警戒区域や津波災害警戒区域に当たるか。保険料と、将来の売りやすさに直接効きます。
七つ目、契約不適合責任。引き渡した住宅に契約内容と違う欠陥(雨漏り、シロアリ、設備の故障など)があった場合に、売主がどこまで責任を負うか。個人が売主の中古住宅では、責任を負う期間を引き渡しから3か月程度に限る、あるいは一部の設備について免責とする、といった特約が付くことが多いです。「何が対象で、いつまでか」を必ず読みます。
八つ目、手付金とローン特約。手付金の額と、解除できる期限。そして住宅ローンが承認されなかった場合に契約を白紙に戻せる「ローン特約」の有無と期限。特約の期限までに承認が下りなければ、期限内に解除の意思を伝える必要があります。ここを読み落として手付金を失う例は、実務で毎年見ます。
九つ目、マンションなら管理の状況。管理費と修繕積立金の額、滞納の有無、長期修繕計画の有無、大規模修繕の予定、管理規約(ペット、民泊、リフォームの制限)。積立金が計画に対して足りていない場合は、将来の一時金や値上げが見込まれます。
三つの質問を、そのまま書きます。一つ目、「私道負担の欄に『持分なし』とありますが、掘削の承諾は取れていますか」。売主側の回答は「未確認」。契約は、売主が私道所有者から通行・掘削の承諾書を取得することを条件に加え、承諾書は引き渡しまでに取れました。二つ目、「契約不適合責任の期間が『引き渡しから2か月』とありますが、給湯器と雨漏りは対象ですか」。回答は、給湯器は「設備」として免責、雨漏りは対象。男性は、給湯器の製造年(14年前)を確認し、価格交渉で15万円の値引きを得ました。三つ目、「ローン特約の期限が契約から3週間ですが、銀行の審査は4週間と言われています」。特約の期限を4週間に延ばして契約。この三つ目が、契約の条件を変えた質問で、延ばしていなければ、審査が間に合わなかった場合に手付金200万円を失うところでした。
9項目のうち、この物件で「問題なし」だった項目も書きます。登記記録は売主の単独名義で、抵当権は売買代金で完済・抹消の段取りが書かれていた。法令上の制限は第一種低層住居専用地域、建ぺい率50%・容積率100%で、現在の建物は建ぺい率42%、建て替えても同じ規模が建つ。インフラは上下水道と都市ガス、引き込み管は自己敷地内。建物状況調査は「実施していない」で、1998年築なので新耐震。災害リスクは、浸水想定区域の外、土砂災害警戒区域の外。マンションではないので9項目目は該当なし。48ページのうち、この6項目で「読んで終わり」にできたのが約20ページ、残りが約款と添付図面でした。
書面に残った事実が守ってくれた例も一つ。この家では、引き渡しの三か月後に雨漏りが見つかりました。契約不適合責任の期間は2か月で、過ぎています。ただ、重要事項説明書の付属の「物件状況報告書」に、売主が「雨漏り:過去にあり(2019年、修理済み)」と書いていました。修理済みの箇所と同じ場所からの雨漏りで、修理が不完全だった可能性が高く、売主と交渉して、修理費の半額を負担してもらいました。期間を過ぎても、書面の記載が交渉の根拠になった例です。
最後に、読み方の姿勢を一つ。重要事項説明は、宅建士が「知っていること」を説明する書面で、「知らないこと」は書かれません。気になる点は、説明を受ける前に質問して、書面に反映してもらってください。書面に残った事実だけが、あとで守ってくれます。
48ページを前日に渡された男性は、9項目を読んで、三つ質問し、そのうち一つで手付金200万円を守りました。「重要事項説明は、宅建士が知っていることを説明する書面で、知らないことは書かれない」と本文の最後に書きました。掘削の承諾は「知らない」ことで、質問して初めて「未確認」と分かった。9項目は、その「知らないこと」を、契約の前に見つけるための順番です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。