離婚・家族 2026-09-29
財産分与で家の名義を移す登記 ― 登録免許税2%、そろえる書類、ローンが残るとき
離婚協議書に「マンションは妻に分与する」と書いても、登記をしなければ名義は元の配偶者のままです。財産分与による所有権移転登記は、渡す側と受け取る側の共同申請で、登録免許税は評価額の2%。そろえる書類、登記原因の日付、渡す側にかかることがある税金、住宅ローンが残っているときの注意を、評価額1,200万円のマンションを例に整理します。
この記事の位置: 別居前・離婚を考え始めたら → 離婚の中身を決める → 書面にする・届を出す → [離婚が成立したら] → 離婚後の生活 → 状況別(当てはまる方だけ)
「協議書に書いたので、マンションはもう私のものですよね」。離婚して半年たった女性の相談です。協議書には「夫は妻に、財産分与として下記のマンションを譲渡する」とあり、二人の署名と押印がありました。ところが登記事項証明書を取ってみると、所有者は元夫のまま。元夫が再婚するらしいと聞いて、急に不安になったそうです。
財産分与の合意は、二人の間では有効です。ただ、不動産の持ち主が誰かを第三者に主張するには、登記が要ります。登記が元夫の名義のままだと、元夫がマンションを売ったり、担保に入れたりすることが、手続きのうえではできてしまいます。元夫が亡くなれば、名義を移すのに元夫の相続人(再婚相手や子)の協力が要ります。元夫に借金があれば、差し押さえの対象になるおそれもあります。相続登記と違って財産分与の登記に申請の期限はありませんが、先に延ばすほど、協力してもらう相手が増えます。
登記は、受け取る側(権利者)と渡す側(義務者)の二人で申請するのが原則です(共同申請)。法務局の申請書の様式には「所有権移転登記申請書(財産分与)」があり、記載例も公開されています。登記の原因は「令和◯年◯月◯日財産分与」と書きます。日付は財産分与の協議が成った日で、離婚届を出す前に話がまとまっていたときは、離婚が成立した日になります。財産分与は離婚が前提なので、婚姻中の日付では財産分与になりません。
そろえる書類は次のとおりです。渡す側(元夫)は、登記識別情報(昔の登記なら権利証)、発行から3か月以内の印鑑証明書、実印を押した申請書か委任状。受け取る側(女性)は住民票。そして、財産分与の中身を書いた「登記原因証明情報」と、固定資産税評価証明書です。登記原因証明情報は、離婚協議書そのものを使うこともできますが、協議書には養育費など登記に関係ない内容も書かれているので、登記用に一枚にまとめ直すことが多いです。2026年10月5日以降の申請は、名義人になる人の国籍等を申し出る新しい様式になります。
左に元夫、右に元妻。真ん中のマンションの名義が、財産分与の矢印で元夫から元妻へ移る。元夫が出すのは登記識別情報と印鑑証明書、元妻が出すのは住民票。下に、評価額1,200万円の2%で登録免許税24万円。
調停調書・審判・判決で登記手続きが命じられていれば、受け取る側だけで申請できます。
登記原因証明情報には、当事者の氏名と住所、不動産の表示、離婚が成立した日、財産分与の協議が成った日、そして「財産分与として、この不動産の所有権を元妻に移転した」という内容を書き、渡す側の元夫が記名押印します。もう一つ確かめておくのが、元夫の住所です。登記されている住所と、印鑑証明書の住所が違う場合(離婚で元夫が引っ越した場合など)は、前提として元夫の住所変更の登記が要ります。住所変更登記の記事で書いたとおり、その分の登録免許税と書類が増えるので、申請前に登記事項証明書で登記上の住所を見ておきます。
元夫が協力しないときはどうか。家庭裁判所の調停で「登記手続きをする」と調書に書かれるか、審判・判決が出れば、受け取る側だけで申請できます。協議離婚の協議書や公正証書では、この単独申請はできません。離婚協議書に書くことの記事で、登記に協力する期限を書いておく理由がここにあります。
お金の話です。登録免許税は、固定資産税評価額の1,000分の20、つまり2%です。相続登記の0.4%や、土地を売買したときの軽減税率とは違い、財産分与には軽減がありません。受け取る側には、財産分与は夫婦の財産の清算なので、原則として贈与税はかかりません。一方、渡す側には、分与した時の時価で売ったのと同じ扱いで譲渡所得がかかります。買った時より値上がりしていれば、元夫に所得税・住民税が出ることがあります。居住用の特例が使えるかどうかは離婚の成立時期などで変わるので、離婚と税金の記事で整理し、判断は税理士に確かめてください。不動産取得税は、財産分与の中身によって扱いが分かれるので、都道府県の税事務所に確かめます。
住宅ローンが残っている場合は、もう一段注意が要ります。ローンの契約では、担保の家の名義を変えるときに金融機関の承諾が要るとされていることが多く、黙って名義だけ移すと契約違反になるおそれがあります。受け取る側が借り換えてローンを引き継ぐ、完済したら名義を移すと協議書に書いておく、といった形を金融機関と相談しながら決めます。離婚と住宅ローンの記事で、選択肢を並べています。
期限の話もしておきます。財産分与を家庭裁判所に求められる期間は、2026年4月の民法改正で、離婚から2年が5年に延びました(施行前に成立した離婚は従来の2年です)。この女性のように協議書で合意ができていれば、残っているのは登記の手続きだけですが、合意がまとまらないまま時間が過ぎると、請求そのものができなくなるおそれがあります。話し合いが止まっているなら、期限から逆算して調停を考えます。
この家の数字です。マンションの評価額は、敷地(敷地権の割合に応じた土地の評価額)が420万円、建物が780万円で、合計1,200万円。登録免許税は1,200万円×2%で24万円です。ローンは離婚前に完済していて、抵当権の抹消登記も済んでいました。元夫に連絡すると、再婚前に片付けたいと協力的で、印鑑証明書と登記識別情報を郵送してくれました。申請書は女性が自分で作り、本人申請で出しました。
かかったお金を並べると、下の表のとおりです。登録免許税が24万円、評価証明書が2通で600円、元夫の印鑑証明書が300円、女性の住民票が300円、登記が終わったあとに確認のために取った登記事項証明書が600円で、合計24万1,800円でした(証明書の手数料は市区町村によって違います)。司法書士に頼めば、この金額に報酬が加わります。
| 項目 | 数量 | 金額 |
|---|---|---|
| 登録免許税(評価額1,200万円×2%) | 1件 | 240,000円 |
| 固定資産税評価証明書(敷地・建物) | 2通 | 600円 |
| 元夫の印鑑証明書 | 1通 | 300円 |
| 元妻の住民票 | 1通 | 300円 |
| 登記後の登記事項証明書(窓口で書面請求) | 1通 | 600円 |
| 合計 | 241,800円 |
申請は、マンションの所在地を管轄する法務局の窓口に出すか、郵送します。書類に不足があれば、法務局から電話で補正の連絡が来るので、申請書には日中につながる電話番号を書いておきます。登記が終わると、元妻には新しい登記識別情報(12桁の英数字が書かれた書面)が交付されます。次に売るときや担保に入れるときに要るもので、なくしても再発行されません。受け取ったら、協議書と一緒に保管します。
申請から10日ほどで登記が終わり、女性は新しい登記事項証明書を受け取りました。所有者の欄に自分の名前を見て、「協議書に書いただけでは、紙の上の約束だったんですね」と言いました。財産分与は、協議書で決まり、登記で守られます。協議書に署名した日に、登記の日取りも一緒に決めておいてください。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-29
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-29 確認)。
- 法務局 不動産登記の申請書様式について ― 「所有権移転登記申請書(財産分与)」の様式と記載例。2026年10月5日以降の申請は国籍等の申出がある新様式
- 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表 ― 売買・相続以外(贈与・交換など)の所有権移転は1,000分の20
- 国税庁 No.3114 離婚して土地建物などを渡したとき ― 渡した側に、分与した時の時価で譲渡所得がかかる