土地・不動産 2026-09-09
住所変更登記の義務化(2026年4月〜) ― 引っ越したら不動産の登記も2年以内に
相続登記に続いて、2026年4月1日から、不動産の所有者の住所・氏名の変更登記も義務になりました。引っ越しや結婚で住所・氏名が変わったら2年以内に登記、怠ると5万円以下の過料。義務化前の変更も対象で、2028年3月末が期限。法務局が住基ネットと連携して職権で変更する仕組み(スマート変更登記)、申請の方法と費用、相続登記との関係を整理します。
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「登記の住所が、25年前のアパートのままなんです」。土地を売る話が進んでいた60代の男性が、不動産業者に言われて相談に来ました。25年の間に引っ越しは三回。売買の決済までに、登記上の住所を今の住所につなげる証明が要る、と言われたそうです。住民票を取っても、今の住所と一つ前の住所しか載っていません。「三回も引っ越したことを、どうやって証明するんですか」。その日は、義務化が始まる半年前でした。
所有者不明土地の対策は、2024年4月の相続登記の義務化で終わりではありません。もう一つの原因、「登記上の住所が古くて所有者に連絡がつかない」問題に対応するため、2026年4月1日から、不動産の所有者の住所と氏名の変更登記が義務になりました。相続登記ほど話題になっていませんが、対象は不動産を持つ人全員です。
内容はこうです。登記名義人の住所や氏名(法人なら本店や商号)に変更があったときは、変更の日から2年以内に変更登記を申請しなければならず、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象になります。引っ越し、結婚や離婚による氏の変更、法人の本店移転が典型です。義務化の前、つまり2026年3月31日以前に生じていた変更も対象で、その場合の期限は施行日から2年、2028年3月31日までです。
登記の義務化の流れ
- 2024年4月1日 相続登記の義務化(取得を知った日から3年以内。義務化前の相続は2027年3月31日まで)
- 2026年4月1日 住所・氏名変更登記の義務化、スマート変更登記の開始(変更から2年以内。5万円以下の過料)
- 2028年3月31日 義務化前に生じていた住所・氏名変更の期限
これまで、住所変更登記は義務ではなく、多くの人が引っ越しても登記をそのままにしていました。売るときに「登記の住所と今の住所が違う」と言われ、売買の前提として住所変更登記を慌てて入れる、というのが実務の日常でした。相続の場面でも、亡くなった人の登記上の住所が何十年も前のもので、住民票の除票では住所のつながりが証明できず、戸籍の附票や上申書で補う、という手間が起きています。義務化は、この積み残しを解消するためのものです。
申請の方法は二つあります。一つは、自分で(または司法書士に頼んで)法務局に変更登記を申請する方法。必要なのは、住所の変更なら住所のつながりが分かる住民票(または戸籍の附票)、氏名の変更なら戸籍と住民票です。登録免許税は不動産一個につき1,000円で、土地と建物なら2,000円です。オンラインでも申請できます。
もう一つが、義務化と同時に始まった「スマート変更登記」です。所有者があらかじめ法務局に氏名・住所・生年月日などの検索用情報を申し出ておくと、法務局が住民基本台帳ネットワークで住所の変更を定期的に確認し、変更があれば本人の意思を確認したうえで職権で登記を変更してくれる仕組みです。この職権による変更は無料で、一度申し出ておけば、以後の引っ越しのたびに自分で申請する必要がなくなります。2026年4月以降に所有権の登記をする人(相続登記や売買で名義を取得する人)は、申請の際に検索用情報を提供することになっていて、それ以前から所有している人も任意で申し出られます。
| 自分で申請 | スマート変更登記(職権) | |
|---|---|---|
| 申請 | 法務局へ変更登記を申請(窓口・郵送・オンライン) | 検索用情報を申し出ておく。以後は法務局が住基ネットで確認し職権で変更 |
| 必要書類 | 住民票・戸籍の附票(住所)、戸籍+住民票(氏名) | 申出時に氏名・住所・生年月日など |
| 費用 | 登録免許税 不動産1個につき1,000円 | 無料 |
| 向く人 | 売却・担保の予定に合わせて入れたい人 | 今後も引っ越す可能性がある人、相続登記をこれからする人 |
相続登記との関係を整理します。亡くなった人の登記上の住所が古い場合、相続登記の前に住所変更登記をする必要はなく、相続登記の中で住所のつながりを証明する書類(住民票の除票、戸籍の附票)を添えれば足ります。義務化されたのは「生きている所有者」の住所変更で、亡くなった人については相続登記でまとめて処理します。ただし、相続で名義を取得した人が、その後に引っ越したら、そこからは2年以内の変更登記が義務です。
現場の続きを書きます。住所のつながりを証明する王道は「戸籍の附票」です。本籍地の市区町村が、その戸籍に入っている人の住所の履歴を記録しているもので、引っ越しを何回していても、附票を取れば一枚で全部つながります。ところがこの男性は、二回目の引っ越しのときに本籍も移していました。前の本籍地の附票は、除かれてから5年で廃棄される時代のもので(2019年6月から保存期間は150年に延びましたが、それ以前に期限が来たものは残っていません)、取り寄せてみると「保存期間経過により発行できません」の回答でした。
つながりが証明できないときの実務は、「上申書」です。登記の住所から今の住所まで転居してきた本人に間違いない、という文書を作り、実印を押して印鑑証明書を添え、登記済証(権利証)や固定資産税の納税通知書のように「その人が所有者であること」を示す書類を一緒に出します。法務局によって求める書類が少し違うので、事前に相談窓口で確認しました。結果、附票二通と上申書一通で通り、登録免許税は土地一筆で1,000円。手続き自体は難しくありませんが、書類を集めるのに三週間かかり、決済日を一度ずらしました。
登記の住所(25年前のアパート)から2軒目、3軒目、今の住所へと引っ越しが続く。住民票でつながるのは今の住所と一つ前だけ。今の本籍の戸籍の附票は2軒目から今までをつなぐが、前の本籍の附票は保存期間が過ぎて廃棄されており、アパートから2軒目の間は上申書と権利証などで埋めた。
2019年6月から附票の保存期間は150年になりましたが、それ以前に期限が来たものは残っていません(2026年9月時点)。
この「三週間」が、義務化で変わる部分です。2026年4月以降に所有権の登記をする人は、申請のときに検索用情報(氏名・住所・生年月日など)を法務局に出します。すると法務局が住基ネットで住所の変更を定期的に確かめ、本人に意思確認をしたうえで、職権で登記を変えてくれる。これがスマート変更登記です。この男性のように「25年分の引っ越しを後から証明する」場面は、これから所有者になる人にはなくなっていきます。反対に、今すでに所有者で、登記の住所が古い人は、2028年3月31日までに自分で動く必要があります。
検索用情報の申出も、実際にやってみた話を一つ。義務化のあと、相続登記を私が手伝った70代の女性は、申請書の欄に氏名のフリガナと生年月日、メールアドレスを書くだけでした。登記完了後、法務局から「検索用情報を登録しました」の通知が届き、以後は住所が変わると法務局から確認の連絡が来て、返事をすれば登記が変わります。費用はかかりません。相続で名義を取る人は、ここに何も書かずに出すと「後で自分で申請する側」に残るので、欄を空けないでください。すでに所有者で、まだ申し出ていない人も、法務局の窓口かオンラインで申出だけできます。25年分の引っ越しを上申書で埋めた男性には、登記が終わった日にこの申出をしてもらいました。
氏名の変更も同じ義務の対象です。義務化のあと、離婚して旧姓に戻った50代の女性の相談がありました。自宅の登記は、結婚していた頃の姓と、離婚前に住んでいた社宅の住所のまま。住所と氏名の両方が変わっていても、申請書は一通で足ります。登記の原因を「年月日住所移転」「年月日氏名変更」と並べて書き、添付するのは、氏の変更が分かる戸籍謄本と、住所のつながりが分かる住民票です。登録免許税は、変更が二つあっても不動産1個につき1,000円のままです。
その女性の家で手間取ったのは、書類ではなく「不動産が何個あるか」でした。女性は土地1筆と建物1棟だと思っていましたが、市役所で名寄帳(その人が市内に持っている不動産の一覧)を取ると、家の前の私道の持分が1筆、別に載っていました。私道は固定資産税がかからないことが多く、納税通知書に出てこないので、持っていることを忘れがちです。住所変更の登記は筆ごとなので、私道の持分を漏らすと、そこだけ古い姓と住所が残ります。結局、土地2筆(宅地と私道の持分)と建物1棟の3個で、登録免許税は3,000円。市区町村によっては非課税の私道が名寄帳に載らないこともあるので、公図で家の前の道の地番を確かめ、登記事項証明書で名義を見ておきます。
過料の5万円についても書いておきます。法務局は、いきなり過料の手続きに進むのではなく、先に登記の申請を促す通知を送り、それでも申請しない場合に裁判所へ知らせる流れです。重い病気やDV被害で住所を知られたくないなど、正当な理由がある場合は過料の対象になりません。DV被害などを受けている人は、2024年4月から、申出によって、登記事項証明書に今の住所の代わりに別の連絡先を載せられるようになっています。住所を変えたことが登記簿から相手に知られる、という心配がある人は、申請の前に法務局に相談してください。
実務での助言は二つ。一つ、不動産を持っていて、登記の住所が今の住所と違う人は、2028年3月31日までに変更登記を。売却や担保設定の予定があるなら、そのときにまとめて入れても構いません。二つ、2026年4月以降に相続登記をする人は、申請時に検索用情報を提供し、スマート変更登記の対象にしておく。それで、次の引っ越しからは法務局側で処理されます。相続登記ナビで相続登記の準備をする人には、この検索用情報の提供もセットで案内しています。
売買が終わったあと、男性が「引っ越すたびに登記も変えるなんて、誰も知らないですよ」と言いました。その通りで、だから義務になりました。過料の5万円より、売るときに決済が三週間止まることのほうが、実際には痛い。不動産を持っている人は、一度、登記事項証明書の住所欄を今の住所と見比べてみてください。違っていれば、それがこの義務の対象です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-25
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-25 確認)。
- e-Gov法令検索「不動産登記法」 ― 住所・氏名の変更登記の申請義務(76条の5)、登記官による職権での変更(76条の6)、過料(164条)
- 法務省 民事局 ― 相続登記・住所等変更登記の義務化の公式案内