相続・手続き 2026-10-27

亡くなった親の貸金庫を開ける ― 相続人全員の同意を求められる理由、遺言執行者がいるとき、中身の記録の残し方と、封のある遺言が出てきたら

母親の通帳に「貸金庫使用料」の引き落としを見つけた長女が、銀行から相続人全員の同意を求められ、遠方の弟と疎遠な妹をどう説得するかで止まっていました。貸金庫の中身は相続人全員の共有の財産であること、遺言執行者がいれば話が変わること、開ける日に全員で中身の一覧を作って署名する方法、封のある遺言が出てきたら開けずに家庭裁判所へ、という順番を、3人きょうだいの実例の数字で書きます。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → [相続人と財産を確定する] → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「母の通帳を記帳したら、毎年4月に『カシキンコ』と1万9,800円が引き落とされていたんです」。80代の母親を亡くした50代の長女が相談に来ました。銀行に聞くと、母親名義の貸金庫の契約があり、開けるには相続人全員の同意が要る、と言われた。相続人は長女と、遠方に住む弟、10年ほど連絡を取っていない妹の3人です。「中に何が入っているか分からないのに、全員を集めるんですか」。

貸金庫の見つけ方から書きます。一番多いのは、この長女のように通帳の引き落としで気づく形です。ほかに、自宅に見慣れない鍵やカードが残っている、銀行から使用料の案内や契約更新のはがきが届く、といったきっかけがあります。家族が知らないまま、権利証や遺言、現金を預けている人は少なくありません。相続した財産の一覧を作る記事でも書いたとおり、通帳の引き落としの欄は、財産を探す地図になります。

貸金庫の契約は、銀行の金庫の中の箱を借りる契約です。借りていた人が亡くなると、その契約上の立場と箱の中身は相続財産になり、相続人が何人もいれば、全員の共有になります(民法898条)。共有の物を、一人の判断で持ち出すことはできません。銀行が全員の同意や立会いを求めるのは、あとで「勝手に持ち出した」「中身が減っている」という争いに巻き込まれないためです。具体的には、戸籍で相続人全員を示し、全員の同意書と印鑑証明書を出して、代表者が開ける、という形が多いです(細かい手順は銀行ごとに違います)。

話が変わるのは、遺言で遺言執行者が決められている場合です。遺言執行者は、遺言の中身を実現するために、相続財産を管理し、必要な一切の行為をする権利と義務を持ちます(民法1012条)。遺言執行者だけで貸金庫を開けられる扱いにしている銀行もあります。ただし、遺言そのものが貸金庫の中にある、という場合は、この道は使えません。

貸金庫の中身は相続人全員の共有。全員の同意で代表者が開けるか、遺言執行者が開けるか
貸金庫の中身は相続人全員の共有。全員の同意で代表者が開けるか、遺言執行者が開けるか中央に銀行の貸金庫(箱)。左に相続人3人(長女・弟・妹)がいて、全員の同意書と印鑑証明書を出し、代表者が開ける矢印。右に遺言執行者がいる場合、遺言執行者だけで開けられる扱いの銀行もある、という点線の矢印。下に、開けた日は中身を一覧にして写真を撮り全員が署名する、封のある自筆の遺言は開けずに家庭裁判所で検認、と書いてある。貸金庫貸金庫 長女 弟 妹 全員の同意全員の同意 同意書+印鑑証明書同意書+印鑑証明書 遺言執行者 開けられる銀行も開けられる銀行も 開けた日:中身を一覧に・写真・全員が署名開けた日:中身を一覧に・写真・全員が署名 封のある自筆の遺言は開けずに家庭裁判所で検認封のある自筆の遺言は開けずに家庭裁判所で検認 現金を使う・品物を売るのは単純承認とみなされるおそれ現金を使う・品物を売るのは単純承認とみなされるおそれ

中央に銀行の貸金庫(箱)。左に相続人3人(長女・弟・妹)がいて、全員の同意書と印鑑証明書を出し、代表者が開ける矢印。右に遺言執行者がいる場合、遺言執行者だけで開けられる扱いの銀行もある、という点線の矢印。下に、開けた日は中身を一覧にして写真を撮り全員が署名する、封のある自筆の遺言は開けずに家庭裁判所で検認、と書いてある。

2026年10月時点の民法による。手続きの細部(書類、代表者の立て方)は銀行ごとに違います。

開ける前に、知っておきたいことが三つあります。一つ目は、相続放棄との関係です。相続放棄を考えているなら、相続を知ってから3か月の期限があり、その間に財産を処分すると、相続することを認めた(単純承認した)とみなされます(民法921条)。中身を見て一覧を作ることは、処分にあたりません。ですが、入っていた現金を使ったり、品物を持ち帰って売ったりするのは、処分と見られるおそれがあります。開けた日は、見て、記録して、元に戻すか、全員が同意した形で預かるまでにします。

二つ目は、記録の残し方です。開ける日に、立ち会った人全員で、中身を一つずつ一覧に書き、写真を撮り、全員が署名します。来られない相続人がいるなら、銀行の担当者に立ち会ってもらい、その旨も一覧に書きます。中身をめぐって争いになりそうなときは、公証人に立ち会ってもらい、見たままを公正証書にしてもらう方法(事実実験公正証書)もあります。費用はかかりますが、誰も手を触れていない状態の記録が残ります。

鍵が見つからないこともあります。その場合は、銀行が業者を呼んで鍵を壊して開け、錠前を取り替える形になるのが普通で、その費用は借りていた側(相続人)が払う決まりの銀行が多いです。開ける前に、鍵の有無と、無いときの費用を銀行に聞いておきます。使用料にも気をつけます。亡くなったことを銀行に伝えると、故人の口座は止まり、使用料の引き落としもできなくなります。払われなかった使用料は、故人の借りと同じ扱いで、相続人に請求が来ることがあります。解約の日までの使用料をどの財産から払うかも、開ける日に一緒に決めておくと話が早く済みます。

遺言がほかの場所に預けられていないかも、並行して確かめます。公正証書遺言は、公証役場の検索の仕組みで、作られているかどうかを調べられます。法務局に預けた自筆の遺言は、法務局で「遺言書保管事実証明書」を請求すると、預けられているかどうかが分かります。貸金庫の中の遺言より新しい遺言が別の場所にある、ということもあるからです。

三つ目は、遺言です。中から遺言書が出てきたら、どう扱うかは遺言の種類で決まります。公正証書遺言なら、そのまま使えます。自分で書いた遺言(自筆証書遺言)は、家庭裁判所で「検認」という手続きを受けます。封がしてある遺言は、家庭裁判所で相続人の立会いのもとで開ける決まりで、それ以外の場所で開けると5万円以下の過料(罰金のような行政上の制裁)の対象になります(民法1004条・1005条)。銀行の個室で開けたくなっても、封はそのままにして持ち帰ります。

この家の数字です。長女は、戸籍をそろえて法定相続情報一覧図を作り、弟と妹に手紙で事情を説明しました。妹からは、中身の一覧を写真付きで送ってくれるなら、と同意書と印鑑証明書が届きました。印鑑証明書は3人分で900円(3人とも1通300円の市区町村でした)。開けた日に立ち会ったのは、長女と弟、銀行の担当者です。中にあったのは、現金300万円、記念金貨10枚、父親の代からの土地の権利証、そして封のしてある母親の自筆の遺言でした。

遺言は開けずに、母親の最後の住所地の家庭裁判所に検認を申し立てました。費用は収入印紙800円と、連絡用の郵便切手です。検認の日に開けると、自宅の土地と建物は長女に、預金は3人で等分に、と書かれていました。貸金庫の現金300万円は預金と同じく3人で100万円ずつ分け、記念金貨は弟が引き取ることで話がまとまりました。貸金庫は全員の同意で解約し、次の年からの使用料1万9,800円の引き落としは止まりました。

この家の貸金庫の中身と、かかった費用
項目中身・内訳金額
現金3人で100万円ずつ(遺言の預金と同じ扱い)300万円
記念金貨10枚弟が引き取る―
土地の権利証・母親の自筆の遺言遺言は家庭裁判所で検認―
印鑑証明書300円×3人900円
検認の申立て収入印紙(ほかに連絡用の郵便切手)800円
費用の合計(切手を除く)900円+800円1,700円

金貨や現金は、相続税がかかる家なら、財産の一覧に入れて申告します。この家は相続税の基礎控除の範囲に収まっていましたが、それを確かめるときにも、開けた日の一覧がそのまま役に立ちました。相続税の当たりのつけ方は、相続税の基礎控除の記事に書いています。申告が要るかどうかの判断は税理士に確かめてください。

私は行政書士として、こうした一覧や相続人への手紙の文案づくりを手伝うことがあります。貸金庫は「開ける」ことより、「誰が、何を見たか」を残すことのほうが、あとの話し合いを楽にします。全員がそろわなくても、全員に同じ写真と一覧が届けば、疑いの入る余地はぐっと小さくなります。

通帳の引き落としに「カシキンコ」の文字を見つけたら、まず銀行に契約の有無と開け方を聞き、相続人全員に知らせる。開ける日を決めたら、一覧の用紙とカメラを持っていく。封のある遺言には手を付けない。この三つを守れば、貸金庫は家族の争いの種ではなく、親が残した大事な書類の置き場所のまま、役目を終えられます。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-27

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-27 確認)。

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