相続・手続き 2026-10-02

遺産の調べ方と財産目録 ― 通帳が3冊しかないとき、どこに何を問い合わせるか

亡くなった人の財産は、家の中の書類から当たりをつけ、銀行の残高証明書、市町村の名寄帳、証券保管振替機構の開示請求、生命保険協会の契約照会の順に確かめていきます。それぞれの費用と、結果が出るまでの日数、相続放棄の3か月に間に合わないときの期間の伸長、調べた結果を財産目録にまとめる書き方を、実際の相談の数字で書きます。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → [相続人と財産を確定する] → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → 相続した財産をどうするか → 状況別(当てはまる方だけ)

「父の財産は、通帳が3冊。それしか分からないんです」。6月にお父さんを亡くした50代の女性が、輪ゴムで留めた通帳を机に置きました。お父さんは一人暮らしで、お金の話を家族にしない人でした。株をやっていた気がする、昔の土地がどこかにあると聞いた気がする、借金はないと思う。全部が「気がする」でした。そして、相続放棄をするかどうかを決める期限は、亡くなったことを知った日から3か月です。

民法915条は、相続人は相続の開始を知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・放棄のどれかを選ぶこと、そしてその前に相続財産を調査できることを定めています。借金のほうが多いかもしれないなら、この3か月のうちに、プラスとマイナスの両方の当たりをつける必要があります。財産の調べ方には順番があり、順番を守ると、問い合わせ先が自然に絞れます。

最初は家の中です。通帳とキャッシュカードのほか、郵便物、確定申告書の控え、固定資産税の納税通知書、保険証券、証券会社や信託銀行からの報告書を探します。最近は郵便物が来ない電子交付の口座も多いので、スマートフォンやパソコンのメール、ネット銀行のアプリも手がかりになります。通帳は、残高より取引の中身を見ます。保険料や固定資産税の引き落とし、配当金や家賃の入金があれば、それぞれが別の財産の入口です。

財産の在りかは、家の中の書類から当たりをつけて、外の四か所に確かめる
財産の在りかは、家の中の書類から当たりをつけて、外の四か所に確かめる中央に相続人。家の中の通帳・郵便物・納税通知書から当たりをつけ、銀行には残高証明書と取引履歴、市町村には名寄帳、証券保管振替機構には口座の開設先の開示請求、生命保険協会には契約の有無の照会、信用情報機関には借金の開示請求をする。 家の中 通帳・郵便物・納税通知書 相続人 銀行 残高証明書・取引履歴残高証明書・取引履歴 市町村 名寄帳(市町村ごと)名寄帳(市町村ごと) ほふり 口座の開設先・約2か月口座の開設先・約2か月 生命保険協会 契約の有無契約の有無 借金は信用情報機関へ借金は信用情報機関へ

中央に相続人。家の中の通帳・郵便物・納税通知書から当たりをつけ、銀行には残高証明書と取引履歴、市町村には名寄帳、証券保管振替機構には口座の開設先の開示請求、生命保険協会には契約の有無の照会、信用情報機関には借金の開示請求をする。

3か月の期限(民法915条)までに調べきれないときは、期限の前に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てます。

預貯金は、銀行ごとに「残高証明書」を請求します。亡くなった日現在の残高を証明してもらうもので、多くの銀行で、相続人の一人から、亡くなったことと相続人であることが分かる戸籍をそろえて請求できます。手数料は銀行ごとに決まっています。同時に、亡くなる前の数年分の取引履歴を請求しておくと、引き落としの先や、ほかの口座への送金が分かります。口座がありそうな銀行には、支店が分からなくても問い合わせることができます。

不動産は、市町村の「名寄帳」で確かめます。名寄帳は、その市町村の中で一人が持っている土地と家屋を一覧にした台帳です(地方税法387条)。固定資産税の納税通知書の課税明細には、税額がかからない小さな土地が載っていないことがあるので、名寄帳のほうが漏れが少なくなります。ただし名寄帳は市町村ごとなので、不動産がありそうな市町村すべてに請求する必要があります。

株式や投資信託は、証券保管振替機構(ほふり)の「登録済加入者情報の開示請求」で、どの証券会社や信託銀行に口座があったかを調べられます。分かるのは口座の開設先までで、残高は、分かった証券会社に別に問い合わせます。費用は、相続人が請求する場合1件7,700円、法務局の法定相続情報一覧図の写しを出すと6,050円(いずれも税込)で、結果が届くまで2か月ほどかかると案内されています(2026年10月時点)。

生命保険は、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」で、加盟する生命保険会社に契約があるかを一度に照会できます。亡くなった人が契約者か被保険者の契約の有無が分かり、照会した人が死亡保険金の受取人になっている契約はその旨も回答されます。利用料は、調べる対象の人(亡くなった人)1名につきウェブ申請6,000円、書面申請7,000円です(2026年10月時点の協会の案内)。借金のほうは、信用情報機関への開示請求で調べます。詳しくは「借金も相続する」の記事に書きました。

問題は日数です。ほふりの開示に2か月、照会の書類集めに数週間かかると、3か月の期限に間に合わないことがあります。そのときは、期限が来る前に、家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てます(915条1項ただし書)。期限を過ぎてからでは使えないので、調査に時間がかかりそうだと分かった時点で、申立てを検討します。

調べている間に気をつけることが二つあります。一つは、財産に手を付けないことです。3か月のうちに亡くなった人の預金を引き出して自分のために使ったり、不動産を売ったりすると、相続を単純承認したものとみなされ、あとから放棄できなくなることがあります(民法921条)。借金のほうが多いと分かってからでは遅いので、調査が終わるまでは、葬儀費用の支払いなど必要な範囲を超えて動かさないのが安全です。もう一つは、貸金庫です。銀行の貸金庫を開けるには、相続人全員の同意や立会いを求める銀行が多く、中身を確かめるだけでも日数がかかります。通帳に貸金庫の利用料の引き落としがあれば、早めに銀行に手順を聞いておきます。

調べた結果は、財産目録にまとめます。形式の決まりはありません。私は、種類(預金・不動産・株式・保険・負債)、どこにあるか(銀行名と支店、所在地番、証券会社)、金額と基準日(亡くなった日)、根拠の書類(残高証明書、名寄帳など)の四つの列で作ります。基準日をそろえておくと、遺産分割協議でも、相続税がかかるかどうかの当たりをつけるときにも、そのまま使えます。

この家では、通帳3冊の取引履歴が最初の手がかりになりました。一冊に、毎年5月に、お父さんの住所とは別の町への固定資産税の引き落としがありました。その町の名寄帳を取ると、お父さんの出身地の山林が2筆、合わせて約3,800平米。誰も知らない土地でした。別の通帳には、半年ごとに数千円の配当金の入金があり、ほふりの開示請求をすると、証券会社1社に口座があることが分かりました。郵便物が来ない電子交付の口座でした。生命保険の照会では、受取人がお母さんの契約が1件見つかりました。信用情報の開示では、カードの分割払いの残りが十数万円だけでした。

費用は、残高証明書3通で2,750円(3行の手数料の合計)、名寄帳2市町で600円、ほふりの開示6,050円(一覧図の写しを提出)、生命保険の照会6,000円(ウェブ申請)、合計1万5,400円でした(戸籍の手数料、信用情報機関の開示の手数料、郵送料は含めていません)。法定相続情報一覧図は無料で取れるので、最初に作っておくと、銀行にも、ほふりにも同じ写しで足ります。ほふりの結果は請求から約2か月後に届き、3か月の期限の10日前でした。結果、プラスの財産が借金を大きく上回ることが分かり、女性は相続することを選びました。

この家で財産を調べた費用(2026年・税込。戸籍・信用情報の開示・郵送料は含めない)
問い合わせ先分かったこと費用
銀行3行(残高証明書)亡くなった日の残高、引き落としと入金の先2,750円
市町村2か所(名寄帳)出身地の山林2筆・約3,800㎡600円
証券保管振替機構(開示請求)証券会社1社に口座6,050円
生命保険協会(契約照会・WEB)受取人が母の契約1件6,000円
法務局(法定相続情報一覧図)各所に出す写し0円
合計1万5,400円

「気がする」は、調べると、ほとんどが本当でした。株も、昔の土地も、あった。財産の調査は、記憶ではなく、引き落としと入金の一行一行から始めてください。通帳は、残高の数字より、その上に並んだ取引の名前が、次に問い合わせる先を教えてくれます。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-02

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-02 確認)。

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