相続・手続き 2026-09-25

相続した山林の届出 ― 森林法の「所有者届出」は90日以内、相続登記とは別の手続き

山林を相続したら、3年以内の相続登記とは別に、所有者になった日から90日以内に市町村へ「森林の土地の所有者届出」を出します。面積の大小は関係なく、登記をしたかどうかにも関係ありません。対象になる森林の確かめ方、届出書に書くことと添付書類、2026年4月からの様式の変更、届け出たあとに持ち続けるか手放すか。見たこともない山を相続した相談の実際で整理します。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → [相続した財産をどうするか] → 状況別(当てはまる方だけ)

「見たこともない山なんです。相続登記は3年以内でいいんですよね」。父の四十九日を終えた50代の男性は、古い登記済証(権利証)を三通、机に並べました。父の金庫から出てきたもので、所在は同じ県内の、車で2時間ほどの町。地目はどれも山林です。父から山の話を聞いたことはなく、固定資産税の通知も来ていなかった。私は「登記はそうです。ただ、山にはもう一つ、90日の届出があります」と答えました。

その届出が、森林法の「森林の土地の所有者届出」です。2012年4月に始まった制度で、売買や相続などで森林の土地を新たに取得した人は、個人でも法人でも、面積にかかわらず、所有者となった日から90日以内に、その土地のある市町村の長に届け出ます。相続なら、所有者となった日は原則として亡くなった日です。相続登記の義務は「相続を知った日から3年以内」なので、山林には、それよりずっと短い期限の手続きがもう一つ重なっていることになります。

対象になるのは、都道府県が立てる「地域森林計画」の対象になっている森林です。林野庁の案内では、登記上の地目が山林でなくても、実際に森林の状態になっていれば対象になる可能性が高いとされています。逆に、地目が山林でも計画の対象外のこともある。自分の土地が当たるかどうかは、土地のある市町村か都道府県の林務の担当に、地番を伝えて聞くのが確実な近道です。

大事なのは、この届出が不動産登記とは別の制度だということです。林野庁の案内にも、登記をしたかどうかにかかわらず届出が必要だと書かれています。相続登記を済ませても届出は済んだことになりませんし、届出を出しても登記の義務は残ります。届出をしないと、森林法には10万円以下の過料の定めもあります。なお、一定の面積以上の土地の売買で国土利用計画法の届出を出した人は、この届出の対象外ですが、相続は国土利用計画法の届出の対象ではないので、相続で取得した山林は森林法の届出のほうになります。

山林を相続したときの二つの期限 ― 森林の届出は90日、相続登記は3年
山林を相続したときの二つの期限 ― 森林の届出は90日、相続登記は3年亡くなった日から数えて、90日以内に市町村長へ森林の土地の所有者届出、3か月以内に相続放棄の判断、3年以内に法務局へ相続登記。届出と登記は別の制度で、どちらも必要。山林3筆山林3筆約1.2ha約1.2ha 相続人 亡くなった日亡くなった日 (所有者になった日)(所有者になった日) 90日以内90日以内 森林の届出森林の届出 市町村長へ市町村長へ 3か月3か月 相続放棄の期限相続放棄の期限 3年以内3年以内 相続登記(法務局)相続登記(法務局)

亡くなった日から数えて、90日以内に市町村長へ森林の土地の所有者届出、3か月以内に相続放棄の判断、3年以内に法務局へ相続登記。届出と登記は別の制度で、どちらも必要。

目盛りは実際の長さではありません。相続登記の3年は「相続を知った日」から数えます。

届出書に書くのは、所有権移転の年月日、移転の原因(相続)、前の所有者の氏名と住所、届け出る人の氏名・住所・連絡先、土地の所在と面積、土地の用途などです。2026年4月から様式が改められ、届け出る人の国籍等を書く欄が加わりました。添付するのは、登記事項証明書(写しでもよい)など権利を取得したことが分かる書類の写しと、土地の位置を示す図面。相続登記の前に出すときに何を添付すればよいかは、市町村によって扱いが違うことがあるので、窓口で確かめてください。林野庁のサイトには、入力すると届出書ができる作成支援のファイルも置かれています。

なぜこんな届出があるのか。所有者の分からない森林が増え、間伐をしようにも、土砂災害のあとに木を片付けようにも、市町村が誰に連絡すればよいか分からない、ということが各地で起きています。届出の内容は、市町村が整備している林地台帳にも反映されます。「見たこともない山」の持ち主が誰かを、役所が知っておくための仕組みです。

男性の場合を順に書きます。まず、山のある町の役場で名寄帳(その人が町内に持つ土地・家屋の一覧)を取りました。父の名義で山林が3筆、合計約1.2ヘクタール、評価額は3筆合わせて約18万円。固定資産税は、同じ市町村の中で持っている土地の課税標準額の合計が30万円に満たないと課税されない「免税点」があり、父の山はそれを下回っていたので、税の通知が一度も来ていなかった。山の存在を家族が知らなかった理由は、これでした。

次に、町の林務の担当に地番を伝えると、3筆とも地域森林計画の対象だと分かりました。亡くなった日から数えて、90日まで残り41日。遺産分割協議は母と兄弟の三人ですでに済み、山は男性が相続すると協議書に書いてありました。届出書は3筆を一枚に並べて書き、添付は遺産分割協議書と戸籍の写し、位置図は町の窓口で森林計画図の写しをもらって印を付けたものです。窓口に持って行き、20分ほどで受け付けてもらえました。

お金の話もしておきます。届出は窓口に出すだけで、手数料はかかりませんでした。相続登記は、評価額100万円以下の土地の相続登記は登録免許税が免税になる措置(2027年3月31日まで)があり、3筆ともこれに当たったので、登録免許税はゼロ。男性は相続登記ナビで申請書の下書きを作り、本人申請で済ませました。かかったのは登記事項証明書や戸籍の手数料と郵送代で、数千円です。固定資産税は、男性がその町にほかの土地を持たず、免税点を下回っている限り、これからもかかりません。

この家で山林3筆(評価額 合計約18万円)の相続にかかったお金
手続き期限かかったお金
森林の土地の所有者届出(町へ)所有者となった日から90日以内0円(窓口に持参)
相続登記(法務局へ・本人申請)相続を知った日から3年以内登録免許税0円(100万円以下の土地の免税)
登記事項証明書・戸籍・郵送代―数千円
固定資産税(毎年)―0円(土地の免税点30万円未満)
合計数千円

遺産分割がまだ終わっていないときの相談も、別の家でありました。山を誰が継ぐか決まらないうちに、90日の期限が先に来てしまう。この場合は、期限を過ぎてから慌てるより、先に市町村の林務の窓口に事情を話すことを勧めています。相続人の一人が代表して届け出て、取得する人が決まったら改めて連絡する、といった扱いをしてくれることがありますが、扱いは市町村によって違うので、どこでも同じとは限りません。大切なのは、期限の内に窓口とつながっておくことです。

もう一つ、山林では境界がまず分かりません。届出書に書く面積は登記の面積で足りますが、それが現地のどこからどこまでかは、別の話です。市町村の森林計画図や林地台帳の図面は、位置の目安にはなっても、境界を証明するものではありません。その地域で地籍調査が済んでいるかどうかを市町村に聞き、済んでいれば地籍図で形が分かります。済んでいなければ、隣の山の持ち主や地元の森林組合に聞いて歩くところから始まります。公図の記事に、公図の読み方と限界を書いています。

届け出たあと、山をどうするかは別の問題です。持ち続けるなら、自分で手入れできない森林について、市町村が所有者の意向を聞き、希望すれば管理を市町村に委ねられる「森林経営管理制度」(2019年4月から)があります。手放したいなら、相続土地国庫帰属制度が候補になりますが、境界がはっきりしていること、管理に過大な費用がかからないことなどの要件があり、森林は負担金も面積で決まります。国庫帰属の記事に、山林の見積もりの例を書いています。男性は、まず境界を見に行くところから始めると言っていました。

「3年あると思っていたら、90日でした」。男性はそう言って、届出の控えをクリアファイルに挟みました。山林を相続したら、登記より先に、市町村の林務の窓口に電話を一本。それで期限の近いほうの手続きが見えてきます。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-25

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-25 確認)。

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