相続・手続き 2026-09-09

農地を相続したら ― 許可は要らないが届出は要る、売る・貸す・転用するときの農地法

農地は、相続で取得するときは農地法の許可が要りません。ただし農業委員会への届出は必要で、売る・貸す・宅地に変えるときには許可が要ります。3条・4条・5条の違い、農業をしない相続人の選択肢(貸す・売る・国庫帰属)、相続税の納税猶予、放置のリスクを整理します。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → [相続した財産をどうするか] → 状況別(当てはまる方だけ)

祖父名義の田んぼが三枚、合わせて約2,400平米。相続した男性は東京に住んでいて、田んぼを見たのは子どもの頃が最後です。「売れますか」。売れません、農家以外には。「貸せますか」。貸せます、農家になら。「駐車場にできますか」。できません、農用地区域なので。三つの質問に三つとも「原則ダメ」の答えが返る土地。それが、農家でない人が相続した農地です。この記事は、その三枚の田んぼが、一年後にどうなったかの話です。

農家ではない人が農地を相続する。実家が農家だった、祖父名義の田んぼが残っていた。相続の相談で年々増えている形です。農地は宅地と違い、農地法という別の法律で「誰が持てるか、何に使えるか」が縛られています。ここでは、相続した農地について最初に押さえる制度を整理します。

まず、相続で農地を取得すること自体には、農地法の許可は要りません。農地を売買や贈与で取得するには農業委員会の許可(農地法3条)が必要ですが、相続や遺産分割による取得は例外です。農業をしたことがない人でも、相続人であれば農地の所有者になれます。ただし、取得したことを農業委員会に届け出る義務があります(農地法3条の3)。期限は取得を知った日からおおむね10か月以内で、届出をしないと過料の対象になります。相続登記とは別の手続きなので、忘れないでください。

問題はそのあとです。相続した農地を「農地のまま」持ち続けるなら制約は少ないのですが、農業をしない人にとって農地は、耕さなければ荒れ、雑草と害虫で周囲に迷惑がかかり、固定資産税と管理の手間だけが残る土地です。選択肢は四つ。自分で耕す、農業をする人に貸す、農業をする人に売る、農地以外に転用する。それぞれに農地法の手続きがあります。

農地を農地のまま売る・貸すには、農業委員会の許可(3条)が要ります。買う人・借りる人が農業を営む人であることなどが条件で、農家でない人に売ることはできません。買い手・借り手を探すには、農業委員会や、各都道府県の農地中間管理機構(農地バンク)に相談するのが現実的です。農地バンクは、貸したい農地を預かって担い手に貸し出す仕組みで、農業をしない相続人の受け皿として使われています。

農地を宅地や駐車場など農地以外に変えるのが「転用」です。自分の農地を自分で転用するなら4条、転用する目的で売ったり貸したりするなら5条の許可が要り、こちらは都道府県知事(または指定市町村長)の許可です。転用できるかどうかは、その農地の区分で決まります。市街化区域内の農地は届出だけで転用できますが、市街化調整区域の農地、特に農業振興地域の「農用地区域」(青地と呼ばれます)に入っている農地は、原則として転用できません。市街化調整区域の記事で書いた「線引きの内か外か」が、農地ではさらに効きます。転用が難しい農地は、売るにも貸すにも農業目的に限られるため、値段が付きにくいのが実情です。

農地法の3条・4条・5条と、相続の関係(2026年9月時点)
場面条文必要な手続き誰の許可・届出先
相続・遺産分割で農地を取得3条の3届出(許可は不要)農業委員会
農地のまま売る・貸す3条許可農業委員会
自分の農地を農地以外に転用4条許可(市街化区域内は届出)都道府県知事など/市街化区域は農業委員会
転用目的で売る・貸す5条許可(市街化区域内は届出)同上

農業を続ける相続人には、相続税の「農地等の納税猶予」があります。相続した農地で農業を続ける限り、その農地にかかる相続税の納税が猶予され、一定の条件で免除される制度です。相続税の申告期限(10か月)までに手続きが必要で、途中で農業をやめたり転用したりすると猶予が打ち切られて利子税ごと納めることになるため、使うかどうかは税理士と相談して決めてください。

農地を相続したあとの期限

  1. 相続開始 農地の所有者になる(農地法の許可は不要)
  2. おおむね10か月以内 農業委員会へ届出(3条の3)/相続税の申告(納税猶予を使うなら申告期限までに手続き)
  3. 届出と合わせて 農地の区分を役所で確認(市街化区域か、農用地区域(青地)か)
  4. 区分が分かったら 農業委員会に相談(貸す・売る・転用のどれが現実的か)
  5. 3年以内 相続登記(2024年4月から義務。農地も同じ)

放置のリスクも書いておきます。耕作されていない農地は「遊休農地」として農業委員会の調査対象になり、指導や勧告を受けることがあります。勧告を受けた農地は固定資産税の軽減がなくなり、税額が上がります。空き家と同じで、「そのうち考える」が一番高くつく土地です。どうしても引き受け手がなく、農地としても転用しても使えない場合は、相続土地国庫帰属制度の対象になるか確認します(境界が明らかで、建物や工作物がないことなどが条件です)。

順に書きます。まず、届出。相続を知った日からおおむね10か月以内に、農業委員会に農地法3条の3の届出。相続登記とは別で、これを知らない人が多く、男性も知りませんでした。届出は用紙一枚、費用ゼロ。次に、区分の確認。市役所の農政課で、三枚とも市街化調整区域の農用地区域(青地)と分かりました。転用は原則不可。売るも貸すも、相手は農業をする人に限られます。

農業委員会に相談すると、隣の田んぼを耕作している農家が、この三枚を借りたいと言っている、と教えてくれました。農地バンク(農地中間管理機構)を通して10年の賃貸借を結び、賃料は10アールあたり年8,000円、三枚で約2,400平米(24アール)なので年1万9,200円。固定資産税は農地なので三枚で年約4,000円。手元に残るのは年1万5,000円ほどで、儲かる話ではありませんが、荒らさずに済み、遊休農地の勧告も来ません。田んぼは、耕作されている限り、農地としての価値を保ちます。

一方で、逆の例も書きます。別の相談で、市街化区域内の畑を相続した人がいました。こちらは転用が届出で済み、宅地として売れる。約600平米で、宅地としての査定は約4,800万円。同じ「農地」でも、市街化区域の内か外かで、年1万5,000円の土地と、4,800万円の土地になります。役所に聞かないと分からない、と本文の最後に書いた「区分」は、この差のことです。区分は自分では決められませんが、知らないまま「農地だから安い」と放置すると、4,800万円の畑を荒らします。

実務で相続人に最初に伝える順番は、届出(3条の3)を期限内に出す、農地の区分(市街化区域か、農用地区域か)を役所で確認する、そのうえで貸す・売る・転用のどれが現実的かを農業委員会に相談する、です。農地は、宅地以上に「役所に聞かないと分からない」土地です。

三枚の田んぼは、隣の農家に貸されて、今も耕されています。年1万5,000円が手元に残り、男性は年に一度、収穫のあとに新米を送ってもらっています。「売れますか」の答えは変わりませんが、「荒れますか」の答えは、届出と区分の確認と農業委員会への相談の三つで変わりました。この記事の二つ目の図は、その三つを、期限と一緒に順に並べたものです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

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