相続・手続き 2026-09-09

相続土地国庫帰属制度の詳細 ― 引き取ってもらえる土地、もらえない土地、負担金と手順

相続した土地を国に引き取ってもらう制度が2023年4月に始まりました。ただし、建物がある、境界が不明、崖がある、といった土地は対象外です。申請できない土地と承認されない土地の条件、審査手数料と負担金、申請から帰属までの流れ、共有地や隣接地をまとめて出す方法、向いている土地の見分け方を整理します。

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この記事の位置: 亡くなる前にできること → 亡くなってすぐ(3か月まで) → 相続人と財産を確定する → 分け方を決める → 名義を変える・税金(10か月〜3年) → [相続した財産をどうするか] → 状況別(当てはまる方だけ)

父から相続した山林、約6,000平米。相続した男性は、その土地を見たことがありません。県外に住み、固定資産税は年2,800円、管理はしていない。「国に引き取ってもらえると聞きました。手数料は1万4,000円ですよね」。手数料は、そうです。ただ、その山林は樹木が繁茂していて、境界は不明で、申請できる状態ではありませんでした。この記事は、「引き取ってもらえる土地」に、その山林を近づけようとして、やめた話です。

使う予定のない土地を相続して、売れず、貸せず、固定資産税と管理の責任だけが残る。その土地を国に引き取ってもらう制度が、2023年4月27日に始まった「相続土地国庫帰属制度」です。空き家の記事で概要に触れましたが、ここでは制度の中身を詳しく書きます。

申請できるのは、相続または遺贈(相続人に対するもの)で土地を取得した人です。売買で買った土地は対象外です。共有の土地は、共有者全員が共同で申請すれば対象になり、共有者の中に売買で持分を取得した人がいても、相続で取得した人が一人いれば申請できます。制度開始前に相続した土地も対象です。

申請先は、土地の所在地を管轄する法務局の本局です。申請書と、土地の位置と境界を示す図面、隣接地との境界点の写真、申請者が相続人であることを示す戸籍などを出し、審査手数料として一筆あたり14,000円を納めます。法務局が書類を審査し、必要に応じて現地を調査し、承認・不承認を決めます。承認されたら30日以内に負担金を納め、納付した時点で土地の所有権が国に移ります。申請から結果まで、法務省はおおむね8か月程度を目安としています。

申請から国庫帰属まで

  1. 申請前 相続登記を済ませ、法務局で事前相談(十条件に当たらないか確認)
  2. 申請 法務局本局へ申請書・図面・写真(審査手数料 一筆14,000円)
  3. 審査(目安8か月) 書類審査・現地調査(承認 or 不承認)
  4. 承認後30日以内 負担金を納付(原則20万円)(納付した時点で所有権が国へ)

引き取ってもらえない土地の条件は、二段階に分かれています。一段目は「申請そのものができない土地」で、建物がある、担保権や賃借権などが設定されている、通路や墓地など他人の利用が予定されている、土壌汚染がある、境界が明らかでない・所有権の争いがある、の五つです。この段階で、空き家が建ったままの土地は申請できません。先に建物を取り壊す必要があります。

二段目は「申請はできるが承認されない土地」です。崖(勾配30度以上かつ高さ5メートル以上)があって管理に過分な費用がかかる、工作物・車両・樹木など管理を妨げるものが地上にある、除去が必要な地下埋設物がある、隣接地の所有者との争いが必要になる、その他通常の管理・処分に過分な費用や労力がかかる、の五つです。「樹木」が入っているので、荒れた山林や竹林は、伐採して整理しないと承認されにくいです。

引き取ってもらえない土地の条件(2026年9月時点)
段階条件対処
申請できない建物がある先に取り壊す
申請できない担保権・賃借権などが付いている抹消・解除してから
申請できない通路・墓地など他人の利用が予定されている対象外
申請できない土壌汚染がある対象外
申請できない境界が不明・所有権に争いがある測量・境界確認を先に
承認されない崖(勾配30度以上・高さ5m以上)で管理に過分な費用対象外になることが多い
承認されない工作物・車両・樹木など管理を妨げるものがある撤去・伐採してから
承認されない除去が必要な地下埋設物がある撤去してから
承認されない隣接地の所有者との争いが必要解決してから
承認されないその他、通常の管理・処分に過分な費用・労力個別判断

負担金は、国が10年分の管理費用として受け取るもので、原則として一筆20万円です。ただし、市街化区域や用途地域内の宅地、農用地区域内の農地、そして森林は、面積に応じて負担金が増えます(法務省が算定表を公開しています)。逆に、隣接する複数の土地をまとめて申請する場合、一定の条件で負担金を一筆分にできる「合算」の申出があり、細かく分筆された土地をまとめて出すときに使えます。

向いている土地と、向いていない土地を、実務の感覚で書いておきます。向いているのは、建物のない更地や畑、境界が地積測量図ではっきりしている、崖も埋設物もない、隣人と揉めていない土地。向いていないのは、空き家が建っている(先に解体費が要る)、境界が不明(先に測量が要る)、山林で樹木が繁茂している(先に整理が要る)土地です。「先に」の費用が百万円単位になることが多く、そこまでして引き取ってもらう価値があるかは、固定資産税と管理費を何十年分払い続けるかとの比較で決めます。

確認した順に書きます。一段目の「申請できない土地」の五条件。建物なし、担保なし、他人の利用なし、土壌汚染なし。ただ、境界が明らかでない。地積測量図はなく、公図は明治の字図で、隣接地は四筆、うち二筆の所有者は不明。二段目の「承認されない土地」の五条件。崖はない。ただ、樹木が繁茂している。杉と雑木で、伐採しないと「管理を妨げるもの」に当たる可能性が高い。つまり、境界確定と伐採の二つを先にしないと、申請の入口に立てない土地でした。

費用を見積もりました。境界確定測量は、隣接地の所有者探しから要り、土地家屋調査士の見積で約85万円、期間は八か月から一年。伐採は、6,000平米の杉と雑木で約120万円。合わせて約205万円。そこに審査手数料1万4,000円と、承認後の負担金。森林の負担金は面積で計算され、6,000平米なら約27万円。全部で約233万円。一方、この山林を持ち続ける費用は、固定資産税の年2,800円だけで、管理は現状していないので、ゼロ。233万円を払って手放すか、年2,800円を払い続けるか。男性は、払い続けることを選びました。

逆に、引き取ってもらった例も一つ書きます。別の相談で、相続した畑約500平米、市街化調整区域の農用地区域外、地積測量図あり、隣接地との境界杭あり、耕作されておらず雑草だけ。この土地は、一段目も二段目も条件に当たらず、申請から七か月で承認、負担金20万円で国に帰属しました。手数料と合わせて21万4,000円。固定資産税は年約9,000円だったので、24年分の税金を先に払って手放した計算ですが、遊休農地の勧告が来る前に、管理責任ごと終わりました。向いている土地は、この畑のような土地です。

国に引き取ってもらうまでにかかる費用(この記事の二つの例)
山林6,000平米(境界不明・樹木あり)畑500平米(境界杭あり・更地)
境界確定測量約85万円不要(地積測量図あり)
樹木の伐採約120万円不要
審査手数料1万4,000円1万4,000円
負担金約27万円(森林は面積で計算)20万円
合計約233万円21万4,000円
持ち続けた場合の固定資産税年2,800円年約9,000円
結果申請せず、持ち続ける申請し、7か月で国に帰属

最後に、順番です。まず相続登記を済ませる(名義が亡くなった人のままでは申請できません)。次に、申請できない土地の五条件と、承認されない土地の五条件に当たらないかを、登記事項証明書・公図・地積測量図・現地で確認する。当たる項目があれば、それを解消する費用を見積もる。そのうえで、法務局の相談窓口(事前相談を受け付けています)で見通しを聞いてから申請する。この順で進めれば、手数料を払ってから却下される事態を避けやすくなります。

山林の男性は、233万円と年2,800円を並べて、年2,800円を選びました。制度は「手放せる」制度であって、「ただで手放せる」制度ではない、というのが、その山林で分かったことです。本文の最後に「先にの費用を見積もる」と書きました。見積もった結果、申請しない、という答えも、この制度の正しい使い方の一つです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-09-16 確認)。

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