作品の仕組み 2026-09-09
地代の未来の仕組み ― 「いま売る一点の数字」と「貸し続ける流れの数字」を、世代で並べる
土地を今売るか、家族で貸し続けるか。売れば一つの金額、貸せば毎月の金額で、同じ土俵で比べにくい。地代の未来は、月額地代・家族構成・寿命の見込み・売却想定額を入力すると、誰の代でいくら受け取るかを世代ごとに積み上げて、売却額と並べるシミュレーターです。なぜ世代で区切るのか、何を簡略化しているのか、ブラウザの中だけで計算する理由、相談の場での使い方を書きます。
この記事の位置: AIが作り、コードが検分する → [送らない(端末の中で完結する)] → 数字と実寸 → 教材の設計
78歳の地主が、底地の買取の提案書を持って来ました。借地人から「4,000万円で買い取りたい」。月額の地代は12万円、年間144万円。地主は「4,000万円は、地代の28年分だから、売ったほうが得ですよね」と言いました。計算は合っています。ただ、この地主が28年後に生きている確率と、その28年分を受け取るのが誰か、が計算に入っていない。私は、その場で地代の未来に数字を入れました。この記事は、その一枚の表の話です。
地代の未来は、土地を「いま売る」場合と「家族で貸し続ける」場合を、世代ごとの時間と累積額で比べるシミュレーターです。借地権の記事で書いた地主側の相談、つまり「貸している土地を、このまま貸し続けるか、底地として売るか」という場面で、まず全体像を見せるために作りました。
作った動機は、相談の場で毎回起きる「土俵の違い」です。売れば「〇千万円」という一点の数字が出る。貸せば「毎月〇万円」という流れの数字が出る。この二つは、そのままでは比べられません。一点の数字は大きく見え、流れの数字は小さく見える。だから多くの人は「売ったほうが得」と感じますが、月10万円の地代は、30年で3,600万円、60年で7,200万円になります。逆に、その間の物価と税金と、受け取る人が誰かを考えれば、単純な掛け算でも比べられない。この「比べにくさ」を、一枚の表にすることが目的です。
「世代」で区切る理由を書きます。土地を貸し続けた場合、地代を受け取るのは、まず本人、次に子、その次に孫です。本人が80歳で、子が50歳なら、本人が受け取る期間は10年程度で、残りは子と孫が受け取る。「貸し続けたほうが累積では多い」としても、その多くを受け取るのは自分ではない。逆に、売れば自分の代で全額を受け取り、それを相続で渡す(相続税がかかる)。金額の大小だけでなく、「誰が、いつ受け取るか」を見える形にする。それが世代で区切る意味で、この作品の中心の設計です。
入力と出力はこうです。入力は、月額地代、来年売る場合の想定額、本人の年齢と想定寿命、相続する家系の数(1〜4)とそれぞれの子の年齢・その子に子が生まれるまでの年数、次の世代が生まれる年齢、そして子・孫・ひ孫のどこまでを詳しく見るか。出力は、人ごとの持分・受取の開始年と終了年・受取年数・受取総額、その合計、売却額との差、売却額を超える年。想定寿命は全員に共通の一つの値で、初期値は90歳です。変えたい人は変えられます。売却想定額は、不動産会社の査定があればそれを、なければ土地価格スキャンで公示地価ベースの参考価格を出して入れる、という流れです。土地価格スキャンの仕組みの記事で書いた参考価格は、そのためにも使えます。
| 貸し続ける | 本人 1,200万円 / 子 3,600万円 / 孫 2,400万円 |
|---|---|
| いま売る | 本人 4,000(想定額の例) |
地代一定・税金なしの単純な積み上げ。実際の判断は税引き後の試算で。
簡略化していることを、はっきり書いておきます。地代の将来の改定(値上げ、値下げ)は、基本は一定の前提です。地代は契約更新や物価で動くので、月額地代を高めと低めの二通りで計算して、幅で見ることを勧めています。固定資産税や修繕、相続税、譲渡所得税は計算に入れていません。売却額を受け取ったあとの運用も考えていません。つまり、これは「収入の流れの形を見る道具」であって、税引き後の手取りを比べる道具ではありません。実際の判断には、税理士の試算と、不動産会社の査定を合わせてください。相談の場では、この表で「方向」を掴んでから、専門家の数字で「金額」を詰める、という順で使っています。
| 内容 | |
|---|---|
| 入力 | 月額地代、来年売る場合の想定額、本人の年齢と想定寿命(全員共通、初期値90歳)、家系の数と子の年齢、次の世代が生まれる年齢、詳しく見る世代 |
| 出力 | 人ごとの持分・受取期間と累積額、合計、売却額との差、売却額を超える年 |
| 計算に入れていないもの | 地代の将来の改定、固定資産税・修繕、相続税、譲渡所得税、売却額の運用 |
| データの扱い | ブラウザ内で計算。サーバーへ送信・保存しない |
計算は、ブラウザの中で行い、入力内容をサーバーに送りません。家族構成と寿命の見込みは、その家の事情そのものです。預からない設計にしたのは、相続登記ナビの仕組みの記事や暗記シートスクラッチの仕組みの記事と同じ判断で、KuraLabの道具に共通しています。共用の端末で使ったら、入力後にページを閉じてください。
入れた数字です。月額12万円、本人78歳(受取の見込み10年)、子52歳(受取の見込み35年)、孫24歳(見込み20年、合計65年で打ち切り)。地代の未来の画面では想定寿命が全員共通の一つの値なので、一人ずつ違う受取の見込みを置いたこの表は、画面の表を手元で置き直したものです。売却額4,000万円。出た表は、本人の受取が1,440万円、子が5,040万円、孫が2,880万円、合計9,360万円。売却額との差は5,360万円で、貸し続けたほうが累積では倍以上です。ただし、本人が受け取るのは1,440万円だけで、4,000万円を自分の代で受け取る売却とは、「誰が受け取るか」がまるで違う。地主はこの表を見て、しばらく黙ってから、「売ったお金を子に残しても、相続税がかかるんですよね」と言いました。その通りで、4,000万円は相続財産になり、底地のままなら、底地の相続税評価額(更地の評価額に借地権割合を引いた額で、この土地は約1,800万円)で済みます。
楽観と悲観も、手元で計算しました(画面は地代一定で計算します)。地代が20年後に1割上がる楽観で合計は約1億円、逆に2割下がる悲観で約8,100万円。幅を見せると、地主は「どっちにしても、子の代のほうが多いんだね」と言いました。そこで初めて、子を呼んで三人で話す、という段取りになりました。この道具の出力は、答えではなく、次に誰を呼ぶかを決める材料です。
| 受け取る人 | 受取期間 | 累積の受取額 |
|---|---|---|
| 本人(78歳) | 10年 | 1,440万円 |
| 子(52歳) | 35年 | 5,040万円 |
| 孫(24歳) | 20年 | 2,880万円 |
| 合計 | 65年 | 9,360万円 |
| いま売る場合 | ― | 4,000万円(本人が全額受取、相続時に相続財産) |
寿命の入力は、全員に共通の「想定寿命」一つにしていて、初期値は90歳です。一人ずつ違う見込みを置きたいときは、この記事の例のように、画面の表を手元で置き直してください。平均余命は、厚生労働省の簡易生命表で年齢ごとに確かめられます。入力内容はサーバーに送らないので、どの欄で止まる人が多いか、という記録はKuraLabの側にありません。
道具として目指したのは、「売る」を選ぶにしても「貸す」を選ぶにしても、その理由を家族に説明できるようにすることです。「なんとなく売った」「なんとなく貸し続けている」ではなく、「自分の代で受け取るのはこれだけ、子の代はこれだけ、だからこうする」と言える。一枚の表は、その説明のためにあります。土地の値段は四つの地価の記事で書いたとおり一つではなく、土地の使い方の答えも一つではありません。この道具は、答えを出すのではなく、家族が話し合うための表を出します。
提案書を持って来た地主は、結局、売りませんでした。理由は、表の一番下の「孫2,880万円」でした。「孫の代まで地代が続くなら、それが一番のプレゼントだ」と。答えは人によって違い、売る人もいます。ただ、どちらを選ぶにしても、「本人1,440万円、子5,040万円、孫2,880万円」という一行があれば、家族に理由を説明できる。本文の最後に書いた「説明できるようにする」は、この一行のことです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-03
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。