作品の仕組み 2026-09-09
土地価格スキャンの仕組み ― 地図で囲んだ形から面積を出し、地価公示の中央値を掛ける
地図上で土地の角をクリックして囲むと、面積と参考価格がその場で出る「土地価格スキャン」。なぜ住所ではなく「囲む」方式にしたか、多角形から面積を出す計算、周辺の標準地または令和8年地価公示の市区町村中央値という基準の選び方、表示する金額が査定額ではない理由、保存しない設計。作った本人が、設計の判断を書きます。
この記事の位置: AIが作り、コードが検分する → 送らない(端末の中で完結する) → [数字と実寸] → 教材の設計
相続の相談で、三人の兄弟が実家の土地の値段を聞いてきました。「大体でいいんです。桁だけ」。手元には固定資産税の通知書だけ。私は、その場で土地価格スキャンを開き、航空写真で実家の角を四点囲みました。面積は約182平米、参考価格は約2,900万円。兄弟は「そのくらいなんですね」と、それ以上は聞きませんでした。桁が分かれば、その日の話し合いは進む。この道具を作ったのは、この「それ以上は聞かない」場面が、相談の中で一番多いからです。
土地価格スキャンは、地図上で土地の角を三点以上クリックして形を囲むと、概算の面積と坪数、令和8年地価公示を基準にした参考価格を出す道具です。宅建士・行政書士として相談を受ける中で「自分の土地がいくらくらいか、桁だけ知りたい」という声が多かったことから作りました。設計の判断を順に書きます。
最初の判断は「住所ではなく、囲む」でした。住所を入れると査定額が出るサイトは多くありますが、住所だけでは土地の形が分かりません。旗竿地、三角地、間口の狭い土地は、同じ面積の整形地より安く評価されるのに、住所ベースの査定ではそれが扱えない。旗竿地の記事で書いたとおり、形は価格に直接効きます。そこで、利用者が地図上で多角形を描き、その形ごと面積を捉える方式にしました。
面積の計算は、囲んだ多角形の頂点の緯度・経度から求めます。地球は球面なので、平面の座標計算をそのまま使うと誤差が出ます。地図タイルの投影で歪んだ形を、緯度に応じて補正したうえで面積を計算し、平方メートルと坪(1坪=約3.306平方メートル)で表示します。頂点はドラッグで置き直せるので、航空写真を見ながら角を合わせていけば、登記簿の地積に近い数字になります。ただし、公図の記事で書いた「縄伸び」のように、登記簿の面積と実測が違う土地では、囲んだ面積のほうが実態に近いことがあります。
価格の基準には、国土交通省が公開している令和8年地価公示(国土数値情報)を使っています。地価公示は毎年1月1日時点の標準地の価格で、公的地価の中で最も基本的なものです。土地価格スキャンは、まず囲んだ形の中心に近い標準地を、国土交通省の不動産情報ライブラリAPIで最大5地点探します(こちらは2025年の地価公示・地価調査の価格です)。最寄りの地点と同じ用途区分(住宅地なら住宅地)で5km以内のものが2地点以上あれば、その平米単価の「中央値」を基準にします。周辺に足りなければ、画面で選んだ市区町村内の令和8年地価公示の標準地の中央値、それも無ければ都道府県の中央値です。平均ではなく中央値にしたのは、駅前の商業地一地点が平均を引き上げてしまうのを避けるためです。どの基準を使ったか(周辺/市区町村/都道府県)と採用した地点数は画面に出るので、基準がどこから来たかが分かります。
ここで正直に書いておくことがあります。表示される金額は、その土地の実勢価格でも、査定額でも、鑑定評価額でもありません。周辺の公示地価の中央値という「面」の基準に、囲んだ面積を掛け、そこに三つの簡易な係数を掛けた数字です。形状の係数は、囲んだ多角形が細長いほど自動で下がる(1.0〜0.82)、都市計画区分と接道の係数は画面で選んだ条件で決まる。どれも大まかな目安で、傾斜、建物の有無、権利関係、近隣の成約事例は反映していません。だから画面にも「公示地価ベースの参考価格」と明記し、式そのものを表示しています。四つの地価の記事で書いた関係で言えば、公示価格の桁を掴むための入口で、そこから実勢価格へ読み替える工程は別にあります。
| 内容 | |
|---|---|
| 入っている | 囲んだ図形の面積(緯度補正あり)、周辺標準地の中央値(2025年の価格。同じ用途区分で5km以内に2地点以上あるとき)か、無ければ選んだ市区町村の令和8年地価公示の中央値(無ければ都道府県中央値)、形状の補正(囲んだ形から自動)、利用者が選ぶ都市計画区分・接道の補正 |
| 入っていない | 用途地域・容積率、傾斜、建物の有無と状態、権利関係(借地・共有)、近隣の成約事例、時期による変動 |
| まだ入れていない | 実際の取引価格(不動産情報ライブラリの取引価格情報)。画面にはまだ出していない |
2026年8月に国土交通省の不動産情報ライブラリAPIの利用承認を受け、9月に、そのAPIで周辺の標準地(地価公示・地価調査の地点)を探して基準にする機能を足しました。実際の取引価格(取引価格情報)は、まだ画面に出していません。取引事例をそのまま「あなたの土地の価格」に変換することもしません。推計と実際の取引を混同しない表示を保ちながら、周辺を見るための入口を増やす、という位置づけです。承認されたことだけを理由に、検証していない数値を公開画面へ足さない方針です。
保存についても書きます。囲んだ図形、選んだ地点、計算結果は、データベースに保存しません。周辺の標準地を探すときだけ、囲んだ形の中心の位置をサーバーに送り、国のAPIに問い合わせます(問い合わせの結果は短い時間だけサーバーのメモリに置き、データベースには残しません)。地図を閉じれば消えます。自分の土地以外を囲っても構わない設計にしているのは、公開されている地図と公的地価の組み合わせだからで、その代わり、他人の土地の価格を断定的に語る材料にはしないでください、と書き添えています。
公開後の使われ方について、書けることと書けないことを分けておきます。囲んだ図形はサーバーに送らず、送るのは周辺標準地を探すための中心の位置だけで、それも記録していないので、どんな形が何件囲まれたか、という統計はKuraLabの側にありません。だから「三角形が何割」のような数字は、この記事には書きません。作った側の観察として言えるのは、自分で試した範囲で、頂点を二点置いたところで手が止まりやすかったこと。そこで、点を置くたびに「あと何点で計算できるか」を出すようにしました。
中央値を選んだ理由は、このツールが使っている令和8年地価公示のデータそのもので確かめられます。たとえば埼玉県越谷市は、市内の標準地が40地点で、平米単価の中央値は15万500円。いちばん高い地点は47万6,000円、いちばん安い地点は3万6,300円です。最高地点は中央値の三倍を超えていて、こういう一地点が平均を引き上げます。住宅地の相談で知りたいのは「ふつうの住宅地の桁」なので、真ん中の値を使う方が実感に合います。逆に、標準地が2〜3地点しかない町村では中央値も当てになりにくいので、採用した地点数を画面に出しています。「3地点の中央値」と書いてあれば、桁の目安としても弱い、と読めるようにするためです。
一件、想定外の使われ方がありました。囲んだのが、土地ではなく、駐車場の一区画。面積12.5平米、参考価格は約180万円。この人は「月極駐車場の一区画を買わないかと言われて、桁が知りたかった」そうで、道具としてはその桁を出しています。ただ、駐車場の一区画は単独では売買しにくく、面積に単価を掛けた数字と、実際の取引の値段は離れます。本文で「実勢価格でも査定額でもない」と書いた線は、こういう場面で一番効きます。
作った側の目安を最後に。この道具が役に立つのは、相続した土地の桁を家族で共有するとき、売るか貸すかを考え始めるとき、隣の土地の規模感を眺めるときです。役に立たないのは、売却価格を決めるとき。そこは不動産鑑定士か宅地建物取引業者の査定で、この道具は、その相談の前に「何を聞くか」を整理するためのものです。
三人の兄弟は、約2,900万円という桁を持って帰り、翌月、不動産会社の査定を取りました。査定は3,200万円。桁は合っていて、細部は違う。この道具の役目は、その翌月の査定の前に、家族が同じ桁で話せるようにすることです。「何を聞くかを整理するためのもの」と最後の段落に書いたのは、兄弟が査定に行くときに持っていった質問が、「なぜ中央値より高いのか」だったからです。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-03
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。