土地・不動産 2026-09-08
借地権の基本 ― 地代・更新・底地、土地を貸している側と借りている側で何が違うか
他人の土地に自分の家が建っている「借地」。借地借家法の普通借地権と定期借地権の違い、地代の目安、更新料と承諾料、相続税評価の借地権割合、そして底地(貸している側の土地)の価値がなぜ低いのか。土地を貸し続けるか売るかを考える前提を整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → [貸す・借りる・特殊な権利]
父が遺した土地は、三軒の家が建っている底地でした。三軒とも借地人の家で、地代は合わせて月4万2,000円。相続した男性は「更地なら6,000万円の土地だと路線価で分かった。三軒に出て行ってもらえば、売れますよね」と言いました。出て行ってもらえません。三軒とも旧借地法の契約で、地代を払い続ける限り、事実上ずっと住めます。「では、この土地は私にとって何なんですか」。この記事は、その問いの答えです。
「土地は地主のもの、家は自分のもの」。この状態が借地です。土地を借りて建物を建てる権利を借地権といい、貸している側から見た土地を底地(そこち)といいます。相続の相談では、借りている側と貸している側の両方が来ますが、同じ土地を見ているのに、価値の感じ方がまったく違います。ここではその仕組みを整理します。
借地のルールは借地借家法で決まっています。1992年8月1日に施行された法律で、それより前に結ばれた契約には旧借地法が引き続き適用されます。今も残っている借地の多くはこの旧法の契約で、地主が契約を終わらせるには「正当事由」(自分で使う必要がある、立退料を払うなど)が要り、実際にはほとんど認められません。借りている側は、地代を払い続ける限り、事実上ずっと使えます。
借地借家法の借地権には二種類あります。「普通借地権」は、当初の期間が30年以上、更新後は20年、その次からは10年以上と定められていて、更新を拒むには正当事由が必要です。「定期借地権」は更新がない借地で、一般定期借地権(50年以上)、事業用定期借地権(10年以上50年未満)、建物譲渡特約付借地権(30年以上)の三つ。期間が来れば土地は更地にして返すか、建物を地主に売って終わります。分譲住宅で「定期借地権付き」とあるのは、土地代が安い代わりに、50年後に返す前提の家です。
| 種類 | 期間 | 更新 | 期間満了時 |
|---|---|---|---|
| 旧法借地権(1992年7月以前の契約) | 契約による | 正当事由がなければ更新 | 事実上ずっと続く |
| 普通借地権 | 当初30年以上、更新後20年、以後10年 | 正当事由がなければ更新 | 更新が原則 |
| 一般定期借地権 | 50年以上 | なし | 更地にして返還 |
| 事業用定期借地権 | 10年以上50年未満 | なし | 更地にして返還(事業用のみ) |
| 建物譲渡特約付借地権 | 30年以上 | なし | 建物を地主に売って終了 |
地代には法律上の決まった額はなく、契約で決めます。目安として、土地の固定資産税と都市計画税の合計の3倍から5倍程度が住宅地の相場と言われることが多いですが、地域や契約時期でかなり違います。地代は事情の変化(税額の上昇、周辺地代との乖離)があれば増減の請求ができ、まとまらなければ調停や裁判になります。
更新料と承諾料も、法律で義務づけられたものではありません。更新料は、更新時に借地人が地主に払う一時金で、契約に定めがあるか、その地域に慣行がある場合に発生します。承諾料は、借地権を第三者に売る、建物を建て替える、といった場合に地主の承諾を得るために払う一時金です。承諾を得られない場合は、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める「借地非訟」という手続きがあります。
相続税の評価では、借地権と底地を分けて評価します。路線価図の記事で触れた借地権割合(AからG)を使い、更地の評価額に借地権割合を掛けたものが借地権の評価、残りが底地の評価です。借地権割合60パーセントの地域なら、更地6,000万円の土地の借地権は3,600万円、底地は2,400万円です。
ただし、この評価と実際に売れる値段は大きく違います。底地は、地代収入はあるものの自分で使えず、借地人が出ていく見込みもない土地です。第三者が買うとしたら、地代の利回りで判断するので、更地価格の1割から2割程度にしかならないことが多い。一方、借地権も単独では買い手が限られます。両方の価値が一番高くなるのは、地主と借地人が一緒に売るか、一方が他方の権利を買い取って更地に戻すときです。相続で底地を引き継いだ人には、まずこの構造を説明します。
| 相続税評価 | 借地権 3,600万円 / 底地 2,400万円 |
|---|---|
| 底地を第三者に売る場合(目安) | 600〜1,200万円 |
底地の実勢は地代の利回りで決まるため、評価額より大きく下がるのが普通。地主と借地人が一緒に売れば更地価格に近づく。
現場の数字を並べます。更地の相続税評価額は路線価で6,000万円、借地権割合は60%。相続税の評価では、底地は6,000万円×40%で2,400万円。ただし、これは税金のための数字で、底地を第三者に売ろうとすると、地代の利回りで値段が決まります。年間の地代は4万2,000円×12で50万4,000円、固定資産税と都市計画税が年約19万円、手元に残るのは年約31万円。利回り5%で買う投資家なら約620万円、底地の買取業者の査定は更地の1割から1.5割で600〜900万円。相続税の評価2,400万円の土地が、売れば600〜900万円。男性が最初に言った「6,000万円」の一割です。
一方で、価値が上がる道もあります。三軒の借地人のうち一軒が、その年に「家を建て替えたい」と言ってきました。建て替えの承諾料は、この地域の慣行で更地価格の3〜5%。この家の敷地は約80平米、更地価格の按分で約1,450万円、承諾料は約50万円。さらに、その借地人は「いっそ土地を買い取りたい」と言い、底地のその部分を借地人に売る話になりました。借地人が買う場合の値段は、第三者に売るときとまるで違い、更地価格の40〜50%が目安。約1,450万円の40%で580万円。三軒のうち一軒の底地だけで、第三者に売る場合の三軒分に近い値段です。
逆に、借地権を地主が買い取って更地に戻す道もあります。残り二軒のうち一軒は、借地人が高齢で、子は別に家を持っている。将来、その借地人が亡くなったとき、子が借地権を地主に売りたいと言う可能性があります。借地権の値段は更地の60%が目安で、約1,400万円の敷地なら840万円。買い取れば、その80平米は更地に戻り、1,400万円で売れる。840万円で買って1,400万円で売る、という計算です。底地は、「誰に売るか、誰から買うか」で値段が四倍変わる土地です。
「地代の未来」という当サイトのツールは、貸している側の立場で、今売るか、家族で貸し続けるかを、月額地代と家族構成を入れて世代ごとの累積額で比べるものです。底地の実勢価格が低い理由がここに書いたとおりなら、売却額と、数十年分の地代の合計を並べて見ることに意味があります。
「私にとって何なんですか」と聞いた男性に、私は三つの数字を渡しました。第三者に売れば600〜900万円、借地人に売れば一軒あたり580万円、借地権を買い取って更地にすれば一軒あたり1,400万円。男性は、一軒目を借地人に580万円で売り、残り二軒は地代を受け取り続けながら、様子を見ています。「両方の価値が一番高くなるのは、一方が他方の権利を買い取るとき」と本文に書きました。底地の相続は、待つ相続です。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。