土地・不動産 2026-09-09

既存不適格 ― 違法ではないが、同じ大きさには建て替えられない家

建てたときは適法だったが、その後の法改正や用途地域の変更で、今の基準には合わなくなった建物を「既存不適格」と呼びます。違反建築とは違い、そのまま使い続けて構いません。ただし、建て替えると今の基準が適用され、同じ大きさの建物が建たないことがあります。容積率・建ぺい率・高さ・耐震基準での典型例、増改築のときの扱い、売買・相続での見方を整理します。

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この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → [建てられるか・どれだけ建つか] → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利

「同じ大きさには建て替えられません」。相続した3階建ての家を建て替えようとした相談者が、設計事務所からそう言われて来ました。延床面積200平米。今の容積率では150平米までしか建たない。「違法建築だったんですか」。違います。建てたときは適法で、そのあと用途地域が変わった。既存不適格です。相談者は「じゃあ、このまま住むしかないんですか」と聞きました。選択肢は、建て替えるか住むかの二つではありませんでした。

相続した古い家を建て替えようとして、設計事務所から「今の建物と同じ大きさは建てられません」と言われる。あるいは、中古住宅の重要事項説明に「既存不適格建築物」と書いてある。これは違法建築ではありません。しかし、扱いを知らないと、建て替えや売却で予想外のことが起きます。

既存不適格建築物とは、建てたときは建築基準法や都市計画の基準に適合していたが、その後の法改正や用途地域の変更で、現在の基準に適合しなくなった建物です。法律は、改正前に適法に建った建物には新しい基準を遡って適用しない(そのまま存続を認める)という原則を取っているので、既存不適格の建物は、そのまま使い続けることが認められています。検査済証の記事で書いた「検査を受けていない」とも、違反建築とも、別の話です。

典型例を挙げます。一つ目は、容積率と建ぺい率です。用途地域の記事で書いた数値が、都市計画の見直しで厳しくなった地域では、昔の建物のほうが今の上限より大きいことがあります。容積率200%の時代に建った延床面積200㎡の家が、今は容積率150%の地域にある。この家を建て替えると、150㎡までしか建ちません。二つ目は、高さと斜線制限、日影規制です。3階建てが建った土地が、その後に高さ制限の厳しい用途地域に変わった場合。三つ目は、道路です。接道義務の記事とセットバックの記事で書いたとおり、幅4m未満の道に面した家は、建て替え時に後退が要り、敷地が減ります。四つ目は、耐震基準です。1981年の新耐震基準より前に建った家は、構造の面で既存不適格で、そのまま住めますが、建て替えや大規模な改修では現行基準が適用されます。

増改築のときの扱いが、実務で最も問題になります。既存不適格の建物に増築や大規模な修繕をすると、原則として建物全体に現行の基準が適用されます。容積率オーバーの家を増築することはできず、むしろ減築を求められる。ただし、緩和があります。増築の面積が既存の延床面積の2分の1以内なら、構造の基準について既存部分は現行基準の一部の適用が免除される、といった緩和が段階的に整備されてきました。どこまで手を入れると全体に現行基準がかかるかは、建物と地域で違うので、設計者と役所で確認します。

既存不適格の典型例と、建て替え・増築への影響
不適格の内容原因建て替え時増築時
容積率・建ぺい率オーバー用途地域の見直しで上限が下がった今の上限まで縮小原則不可
高さ・斜線・日影高さ制限の厳しい地域に変更今の制限内に制限内なら可
接道・幅員不足2項道路の指定セットバックで敷地が減るセットバックが要る場合あり
旧耐震(1981年以前)新耐震基準の施行現行基準で新築規模により現行基準を適用

売買での見方を書きます。既存不適格の建物は、そのまま住む分には問題がなく、価格にも大きな影響はありません。影響が出るのは「建て替えると小さくなる」「増築できない」という将来の制約です。買主が建て替え前提なら、建て替え後に建てられる大きさで土地を評価する。今の建物を長く使う前提なら、既存不適格でも構わない。重要事項説明の記事で書いた説明書に「既存不適格」の記載があれば、何がどう不適格なのか(容積率か、高さか、道路か)を宅建士に聞いてください。それが、この物件の「将来の使い方の制約」です。

相続の場面では、こう考えます。相続した家が既存不適格なら、建て替えより、今の建物を活かす改修のほうが、大きさを保てる。売るなら、建物付きのまま「そのまま住める既存不適格」として売るか、更地にして「今の基準で建つ大きさ」で売るかで、買い手の層が変わる。空き家の記事で書いた判断に、この要素が加わります。

現場の数字です。家は1988年築、鉄骨3階建て、延床200平米。建てた当時、この地域の容積率は200%で、敷地100平米に200平米が建った。その後の都市計画の見直しで、容積率は150%に。建て替えれば150平米、つまり今より50平米、一部屋か二部屋分小さくなります。土地の価値も、建て替え前提で見る買主にとっては「150平米しか建たない土地」です。

既存不適格と違反建築
既存不適格違反建築
建てたとき適法違反(または後の増築で違反)
現在基準に合わないが存続を認められる是正命令の対象になり得る
売買重要事項説明に記載。融資は可能なことが多いが、容積率超過だと住宅ローンが通りにくいことがある融資が難しい。価格が下がる
増築現行基準の適用(緩和あり)是正が前提

選択肢を三つ並べました。一つ、建て替えて150平米にする。費用は約3,000万円、部屋は減る。二つ、そのまま住む。既存不適格は存続が認められているので、使い続けること自体は止められない。ただし築38年で、耐震は新耐震基準(1981年)以降の建物だが、設備と外装は限界。三つ、建て替えず、大規模でない改修をして住み続ける。設備の更新、外壁と屋根の補修、断熱の改善。ここで確かめたのは、「どこまで手を入れると、建物全体に現行基準がかかるか」でした。設計事務所と役所で確認し、増築をせず、構造に手を触れず、設備と内外装の改修にとどめれば、既存不適格のまま延床200平米を保てる、と分かりました。費用は約1,200万円。相談者は三つ目を選びました。

売却の場面の例も書きます。別の相談で、既存不適格の家を売る人がいました。建物付きで売れば、買主は「そのまま住める200平米の家」を買える。更地にすれば、買主は「150平米しか建たない土地」を買う。査定は、建物付きのほうが高く出ました。築古の建物は通常「土地値」ですが、既存不適格で今の基準より大きい建物は、その大きさ自体に価値が残ることがあります。壊してから売る、という定石が、ここでは逆でした。

違反建築との違いを、最後にもう一度。既存不適格は、建てたときに適法で、法が後から変わった。違反建築は、建てたときから、または後の増築で、基準を破っている。前者は存続が認められ、後者は是正の対象です。ただし、既存不適格の建物に無許可で増築すると、その時点で違反建築になります。「昔からこの大きさだから」は、増築の言い訳にはなりません。

最初の日、相談者は「住むしかないのか」と聞きました。住むという選択肢は、この家では一番良い選択肢でした。既存不適格は、建て替えると小さくなる代わりに、そのままなら今の大きさを使い続けられる、という制度です。この記事に「建て替えより、今の建物を活かす改修のほうが大きさを保てる」と書いたのは、この200平米と150平米の差が、一部屋ではなく、家の使い方そのものの差だからです。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-02

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

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