土地・不動産 2026-10-08
境界の塀は誰が建て、誰が払うか ― 民法の「囲障」と、古いブロック塀の点検
隣との境の塀を作り直したい、半分出してほしい。そう言われたとき、まず確かめるのは塀が境界線の上にあるのか、どちらかの敷地の中にあるのかです。民法の囲障の決まり(費用は半分ずつ、高くしたい人は増えた分を負担、境界線上の塀は共有と推定)、古いブロック塀の安全の基準(高さ2.2m以下、控壁など)、倒れたときの所有者の責任、この家の見積もり73万円を誰がいくら払ったかを整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → [境界・隣地・道] → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利
「お宅との境のブロック塀が危ないので、作り直したい。費用は半分ずつでどうでしょう」。母から相続した実家について、隣の家からこう声をかけられた、という相談でした。塀は古く、高さは私が測ると約2.4m。ところどころにひびがあり、塀を支える「控壁(ひかえかべ)」はありません。相談者の気持ちは二つでした。危ないなら直したい。でも、そもそもこの塀は誰のもので、なぜ半分払うのか分からない。
最初に確かめるのは、塀が「どこに」建っているかです。境界線の上にまたがって建っているのか、こちらの敷地の中にあるのか、隣の敷地の中にあるのか。民法は、境界線の上に設けた塀や境界標を、両隣の「共有」と推定します(229条)。一方、どちらかの敷地の中だけに建っている塀は、原則としてその土地の持ち主のものです。持ち主が一人なら、作り直すかどうかも、費用も、その人の話になります。
どこに建っているかは、境界標の記事で書いた杭や鋲(びょう)の位置と、地積測量図で見ます。塀の芯が境界線の上にあるのか、塀の面が境界線に沿っているのかで、答えが変わります。杭が見つからない、測量図がない家は、ここで土地家屋調査士に境界を確かめてもらうことになります。塀を作り直す前のこの確認を飛ばすと、新しい塀の位置そのものが争いの種になります。
左は塀が境界線の上にまたがっている場合で、両隣の共有と推定され、費用は半分ずつが出発点。中央は塀がこちらの敷地の中にある場合で、こちらの物で費用もこちら。右は塀が隣の敷地の中にある場合で、隣の物で費用も隣。
朱の点線が境界線、斜線が塀。どこに建っているかは、境界標と地積測量図で確かめます。違う取り決めや慣習があれば、そちらが優先します。
次に、民法の「囲障(いしょう)」の決まりです。囲障は、境界に設ける塀や柵のことです。建物が2棟あって持ち主が別々、その間に空き地があるときは、どちらの持ち主も、相手と共同の費用で境界に囲障を設けることができます(225条)。どんな塀にするか話がまとまらないときは、板塀や竹垣などで高さ2mのもの、と法律が決めています。費用は両隣で等しい割合、つまり半分ずつ(226条)。ただし、もっと良い材料にしたい、もっと高くしたい人は、そのぶん増えた費用を自分で負担すれば、そうできます(227条)。土地に違う慣習があれば、慣習が優先します(228条)。
ここで言う「半分ずつ」は、新しく境界に塀を設けるときの決まりです。今ある塀が境界線の上にあって共有と推定されるなら、作り直しは共有の物の話になり、費用は持分に応じて負担します。持分も、特に決まりがなければ半分ずつと推定されます。つまり、境界線の上の古い塀を作り直すなら、半分ずつが出発点になります。
話し合いがまとまらないときの選び方もあります。相手が費用を出さない、デザインで折り合わない、という場合、自分の敷地の中に、自分の費用で塀やフェンスを建てる方法です。自分の土地の中の塀は自分の物なので、相手の同意は要りません。その代わり、境界線から数センチ内側に下がるぶん、使える土地は少し狭くなり、古い共有の塀をどうするかは別に決める必要があります。法律が決めている「協議が調わなければ板塀・竹垣などで高さ2m」という形は、話し合いが行き詰まったときの最低限の目安で、実際には、自分の側に建てるか、半分ずつで作り直すかの二択で考えることが多いです。どちらを選んでも、工事の前に境界の位置を双方で確かめ、写真に残しておきます。
安全の話もします。2018年6月の大阪府北部地震で、ブロック塀が倒れて人が亡くなりました。そのあと国土交通省は、所有者が自分で見られる点検のポイントを公表しています。建築基準法施行令62条の8の基準では、補強コンクリートブロックの塀は、高さ2.2m以下、厚さ15cm以上(高さ2m以下なら10cm以上)、高さ1.2mを超える塀は長さ3.4m以下ごとに控壁が必要、基礎の根入れは30cm以上、などです。基準ができる前の古い塀は、今の基準に合っていないことがよくあります。
倒れたときの責任は重いです。塀は法律上「土地の工作物」で、作りや手入れに欠陥があって他人に損害を与えたら、まず使っている人(占有者)が、その人が十分に注意していたときは所有者が、賠償の責任を負います(717条)。所有者の責任は、注意していたと言っても免れない重い責任です。共有の塀なら、両隣とも所有者です。「隣が言い出したから」ではなく、自分の責任の話でもあります。
費用の助けもあります。多くの市区町村が、道路に面した危険なブロック塀の撤去や作り直しに補助金を出しています。対象が「道路に面した塀」に限られることが多く、隣地との境の塀は対象外のこともあります。工事の契約の前に申請するのが条件のことが多いので、見積もりを取った段階で、市区町村の建築の窓口に聞きます。補助の額や条件は市区町村ごとに違い、年度の途中で予算が終わることもあります。急ぐ事情がなければ、年度の初めに窓口へ相談すると、使える制度を逃しにくくなります。
この家では、まず地積測量図と境界の鋲で、塀の芯が境界線の上にあることを確かめました。共有と推定される塀です。隣と相談して、古い塀を壊し、低いブロック2段の上にメッシュのフェンスを立てることにしました。隣は、庭が見えないよう、目隠しのフェンスにしたいと言いました。見積もりは、撤去22万円、ブロック2段とメッシュフェンス33万円、目隠しにする差額18万円で、合計73万円(税込、長さ約10m)でした。
誰がいくら払うか。撤去とメッシュフェンスの55万円は、半分ずつで27万5,000円ずつ。目隠しにする差額18万円は、高くしたい・良くしたい側の負担という227条の考え方に合わせて、隣が払いました。隣は27万5,000円+18万円=45万5,000円、相談者は27万5,000円。足すと73万円です。補助金は、隣地境の塀なので対象外でした。
| 工事 | 金額(税込) | 相談者 | 隣 |
|---|---|---|---|
| 古い塀の撤去 | 22万円 | 11万円 | 11万円 |
| ブロック2段+メッシュフェンス | 33万円 | 16万5,000円 | 16万5,000円 |
| 目隠しフェンスにする差額 | 18万円 | 0円 | 18万円 |
| 合計 | 73万円 | 27万5,000円 | 45万5,000円 |
決めたことは、簡単な覚書にしました。新しい塀が境界線の上にあって両家の共有であること、費用の分け方、どちらかが土地を売っても買主に引き継ぐこと、です。越境の記事で書いた覚書と同じ考え方で、何十年か後に塀をまた作り直すとき、誰も今日の話を覚えていないからです。
半分出してほしいと言われたとき、すぐに払う・断るを決める前に、塀がどこに建っているかを確かめる。境界線の上なら半分が出発点、どちらかの敷地の中ならその家の物。この順番で考えると、隣との話は「誰が悪いか」ではなく「どこに線があるか」の話になります。相談者は「ひびの入った塀の前を、毎朝小学生が歩いていたんです」と言い、工事の日を早めました。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-08
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。
参考(公式)
この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-08 確認)。
- e-Gov法令検索「民法」 ― 囲障(境界の塀)は225〜228条。協議が調わなければ板塀・竹垣などで高さ2m、費用は等しい割合(226条)、高くしたい人は増額分を負担(227条)。境界線上の塀は共有と推定(229条)。工作物の所有者の責任は717条。
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 ― 補強コンクリートブロック造の塀は62条の8。高さ2.2m以下、厚さ15cm以上(高さ2m以下なら10cm以上)、長さ3.4m以下ごとの控壁など。
- 国土交通省「建築物の既設の塀(ブロック塀や組積造の塀)の安全点検について」 ― 2018年6月の大阪府北部地震を受けた点検の呼びかけと、所有者向けのチェックポイント。