土地・不動産 2026-10-21

隣の空き家が崩れそうなとき ― 登記で所有者を調べる、記録の残る手紙、市の空き家窓口、地方裁判所の「管理不全建物管理命令」

隣の空き家の瓦が落ちてくる、雨どいが外れてぶら下がっている。持ち主が遠くに住んでいて動いてくれないとき、隣に住む人ができることには順番があります。登記で所有者を調べ、写真と見積を添えて手紙を出し、市の空き家窓口に相談する。それでも動かなければ、2023年4月にできた「管理不全建物管理命令」を地方裁判所に申し立てる道があります。裁判所が選んだ管理人にできること・できないこと(取り壊しは所有者の同意が要る)、申立ての費用と予納金を、台風で車を傷つけられた男性の数字で書きます。

目次を見る →

この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → [境界・隣地・道] → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → 貸す・借りる・特殊な権利

「台風のたびに、隣の空き家の瓦が落ちてくるんです」。60代の男性の隣の家は、築50年ほどの木造2階建てで、住んでいた高齢の女性が5年前に亡くなってから空き家です。屋根の瓦がずれ、雨どいが外れて垂れ下がっています。先月の台風で瓦が2枚、男性の家の駐車場に落ちて、車のボンネットがへこみました。持ち主が誰なのかも分からない、という相談でした。

最初にするのは、持ち主を調べることです。法務局で、隣の建物と土地の登記事項証明書を取ります。登記事項証明書は、誰でも手数料を払えば取れます。名義が亡くなった女性のままなら、相続人を探すところから始まりますが、2024年4月から相続登記が義務になり、名義が変わっていることも増えています。この家では、建物も土地も、女性の長男の名前に相続登記がされていて、住所は県外でした。

次に、手紙を出します。落ちた瓦と車の傷の写真、日付、車の修理の見積、危ない場所を書いて、修理と修理代の支払いを求めます。郵便は、届いたことの記録が残る方法にします。建物の屋根や外壁のような「工作物」の管理が悪くて他人に損害を与えたときは、それを使っている人、使っている人がいない空き家ならふつうは所有者が、損害を賠償する責任を負います(民法717条)。

返事が無いときは、市区町村の空き家の窓口に相談します。空家法では、放っておくと危なくなるおそれのある空き家を「管理不全空家」、倒れるおそれがあるなど、そのままでは著しく危ない空き家を「特定空家」として、市が所有者に指導や勧告ができます。勧告を受けると固定資産税の住宅用地の特例が外れるので、所有者にとっては動く理由になります。さらに市長は、こうした空き家について、地方裁判所に管理不全建物管理命令を求めることもできます(空家法14条3項)。

隣の空き家が危ないとき、隣の人がとれる手段の順番
隣の空き家が危ないとき、隣の人がとれる手段の順番左に瓦が落ちる隣の空き家、右に車を傷つけられた男性。手段は順に、登記で所有者を調べる、写真と見積を添えた手紙、市の空き家窓口(指導・勧告)、地方裁判所の管理不全建物管理命令。管理人は修理などの保存行為はできるが、取り壊しには所有者の同意が要る。 隣の空き家 所有者は県外 瓦が落ちる瓦が落ちる 隣の男性 ① 登記で所有者を調べる① 登記で所有者を調べる ② 写真と見積を添えて、記録の残る手紙② 写真と見積を添えて、記録の残る手紙 ③ 市の空き家窓口(指導・勧告)③ 市の空き家窓口(指導・勧告) ④ 地方裁判所に管理不全建物管理命令④ 地方裁判所に管理不全建物管理命令 管理人は修理まで。取り壊しには所有者の同意が要る管理人は修理まで。取り壊しには所有者の同意が要る

左に瓦が落ちる隣の空き家、右に車を傷つけられた男性。手段は順に、登記で所有者を調べる、写真と見積を添えた手紙、市の空き家窓口(指導・勧告)、地方裁判所の管理不全建物管理命令。管理人は修理などの保存行為はできるが、取り壊しには所有者の同意が要る。

民法264条の14・264条の10、空家法14条3項(2026年10月時点)。マンションなどの区分所有建物には、管理不全建物管理命令は使えません。

管理不全建物管理命令は、2023年4月の民法の改正でできた制度です。所有者の管理が適切でなく、他人の権利や利益が害されている、または害されるおそれがあるとき、隣の人のような「利害関係人」の申立てで、裁判所が管理人を選び、その建物の管理を任せます(民法264条の14)。土地にも同じ仕組みがあり、崩れそうな擁壁や捨てられたゴミが例として挙げられています(264条の9)。所有者が分かっていても使える点が、所有者が分からないときの「所有者不明建物管理命令」との違いです。申立先は、その建物がある場所の地方裁判所です。申立書の写しは所有者に送られ、裁判所は所有者の言い分も聞いて判断します。

管理人にできることには、はっきりした線があります。瓦の固定や雨どいの撤去のような、建物を守るための修理(保存行為)や、建物の性質を変えない範囲の手入れは、管理人ができます。それを超えることには裁判所の許可が要り、建物を取り壊すような処分には、所有者の同意も要ります(264条の10、264条の14第4項)。つまり、この制度で「隣の空き家を取り壊してもらう」ことは、所有者が同意しない限りできません。また、マンションのような区分所有建物には使えません。

では、自分で直してしまえばいいかというと、それはできません。民法には、自分の家の工事のために隣の土地を使える決まり(209条)や、越境してきた枝を切る決まり(233条)はありますが、他人の建物の屋根に上って直す権利はありません。直すためにかかったお金を後から請求できるとも限りません。自分の敷地に落ちてきた瓦を片付ける程度にとどめ、写真に残しておきます。所有者が複数いる場合(兄弟で相続して共有している場合など)は、全員に手紙を出し、登記の住所に届かなければ、住民票の写しや戸籍の附票で今の住所を追います。所有者が誰か分からない、亡くなって相続人もいない、という場合は、所有者不明建物管理命令(264条の8)や相続財産清算人の手続きに進むことになり、相続人が全員、相続放棄した空き家はどうなるかの記事に書いた話につながります。

お金の話です。東京地方裁判所の案内では、申立ての手数料は収入印紙1,000円(対象1筆につき)、郵便切手6,000円です(切手の額と内訳は裁判所ごとに違います)。そのほかに、管理の費用と管理人の報酬に充てる「予納金」を、申し立てた人が先に納めます。額は、予定される管理の中身と期間を見て裁判官が決め、納めたあとに命令を出すかどうかが判断されます。余れば返され、足りなければ追加を求められます。管理の費用と報酬は、最後は所有者の負担です(264条の13)が、空き家に現金があるとは限らず、所有者から取り戻すには別の手間がかかります。先にまとまったお金を出せるかどうかが、この制度を使うかどうかの分かれ目になります。

申し立てるときの書類も、案内に並んでいます。申立書、所有者の登記事項証明書、法務局の地図(公図)の写し、現地までの道順の図、危ない状態が分かる写真(撮影日時と撮影者を書いて台紙に貼る)、修理の見積など。写真と見積は、手紙を出す段階から用意しておけば、そのまま使えます。修理などの目的が果たされると、命令は原則として取り消されます。

写真は、自分の敷地や道路から撮り、隣の敷地には入りません。同じ場所から、台風のあとや季節ごとに撮っておくと、傷みが進んでいることが、手紙を受け取った所有者にも、市の職員や裁判所にも伝わります。落ちてきた瓦は、捨てずに袋に入れて日付を書いて取っておきます。

この家の話に戻ります。男性は長男に手紙を出しましたが、1か月たっても返事がありませんでした。そこで写真と手紙の控えを持って、市の空き家窓口に相談しました。市の職員が現地を見て、管理不全空家として長男に指導の文書を送りました。2か月後、長男から電話があり、屋根の応急修理と雨どいの撤去を業者に頼む(42万9,000円・税込)、車の修理代18万7,000円(税込)も払う、という話になりました。長男が負担したのは合わせて61万6,000円。男性が使ったのは、登記事項証明書と郵便の費用の数千円でした。裁判所への申立ては、使わずに済みました。

この家で、誰がいくら払ったか(この記事の例、税込)
項目金額払った人
屋根の応急修理と雨どいの撤去42万9,000円空き家の所有者(長男)
車の修理代18万7,000円空き家の所有者(長男)
所有者の負担の合計61万6,000円―
登記事項証明書と郵便数千円隣の男性
(使わなかった)管理命令の申立て印紙1,000円・切手6,000円+予納金(裁判官が決める)申し立てる人が先に納める

順番をまとめます。登記で所有者を調べる。写真と見積を添えて、記録の残る手紙を出す。返事が無ければ市の空き家窓口へ。それでも動かず、危険が続くなら、地方裁判所に管理不全建物管理命令を申し立てる。管理命令は最後の手段で、取り壊しまでは届きません。それでも、所有者が分かっているのに動かないとき、隣に住む人が自分から使える手段ができたことには意味があります。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-21

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-21 確認)。

あわせてどうぞ

解説記事一覧