土地・不動産 2026-10-17

隣の木の枝が越境してきたら ― 2023年4月から、催告して待っても切られなければ自分で切れる。根は前から切れる

隣の木の枝が境界線を越えてきても、以前は「切ってください」と頼むことしかできませんでした。2023年4月の民法改正で、催告しても相当の期間内に切られないとき、持ち主やその居場所が分からないとき、急ぐ事情があるときは、越境された側が自分で切れるようになりました。木の持ち主の調べ方、催告の手紙に書くこと、切ってよい範囲、費用の分け方を、空き家の柿の木に困った家の実際の数字で書きます。

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「隣の柿の枝が、うちの駐車場に2メートルも出てきているんです」。70代の男性は、スマートフォンの写真を何枚も見せてくれました。隣は5年前から空き家で、持ち主の女性は亡くなり、相続した息子さんは県外に住んでいる。秋になると熟した実が車の屋根に落ちて、塗装に跡が残る。「勝手に切ったら、訴えられますか」。2023年3月までなら、答えは「切ってはいけません」でした。

民法233条は、2023年4月1日に変わりました。もともと、隣の木の枝が境界線を越えてきても、土地の持ち主ができるのは、木の持ち主に「切ってください」と求めることだけでした。応じてもらえなければ、裁判を起こして判決をもらい、強制執行をするしかない。枝一本のために裁判をする人はまずいないので、多くの人は我慢するか、こっそり切っていました。この改正は、持ち主の分からない土地が増えたことへの対策として、相続登記の義務化と同じ一連の民法改正で入ったものです。改正で、次の三つの場合は、越境された側が自分で枝を切れるようになりました(233条3項)。

一つ目、木の持ち主に枝を切るよう催告(文書などではっきり求めること)したのに、相当の期間内に切らないとき。二つ目、木の持ち主が分からない、またはどこにいるか分からないとき。三つ目、急迫の事情があるとき。たとえば台風の予報が出ていて、折れかけた枝が屋根や電線にかかっている場合です。落ち葉が多いといった、ふだんの迷惑は当たりません。急迫の事情で切ったときは、あとで説明できるよう、切る前の写真と日時を残しておきます。根は改正の前から扱いが違い、境界線を越えてきた根は、催告をしなくても切り取れます(233条4項)。

枝と根で、切れる条件が違う(民法233条、2023年4月から)
枝と根で、切れる条件が違う(民法233条、2023年4月から)境界線の右側に隣の柿の木があり、枝と根が境界線を越えて左側の自分の土地に入っている。枝は、催告して相当の期間内に切られないとき、持ち主や居場所が分からないとき、急迫の事情があるときに自分で切れる。根は、条件なしに切れる。 境界線境界線 自分の土地自分の土地 隣の土地(空き家)隣の土地(空き家) 柿の木柿の木 越境した枝越境した枝 越境した根越境した根 枝:自分で切れるのは枝:自分で切れるのは ① 催告しても相当の期間内に切らない① 催告しても相当の期間内に切らない ② 持ち主や居場所が分からない② 持ち主や居場所が分からない ③ 急迫の事情がある③ 急迫の事情がある 根:そのまま切れる根:そのまま切れる

境界線の右側に隣の柿の木があり、枝と根が境界線を越えて左側の自分の土地に入っている。枝は、催告して相当の期間内に切られないとき、持ち主や居場所が分からないとき、急迫の事情があるときに自分で切れる。根は、条件なしに切れる。

切ってよいのは境界線を越えた部分だけです。境界の位置が分からないときは、先に境界標を確かめます(2026年10月時点)。

「相当の期間」に、条文の日数はありません。持ち主が枝を切るのに必要な時間を与える、という意味なので、業者を手配する時間を考えて決めます。私は手紙に2週間後の日付を書くことが多く、大きな木や、持ち主が遠くに住んでいるときは、もう少し長く取ります。木が相続で何人かの共有になっているときは、共有者の一人に頼めば、その人が切れます(233条2項)。全員の同意を集める必要はありません。

手順を書きます。まず、木の持ち主を確かめます。木はふつう、生えている土地の持ち主のものなので、法務局で隣の土地の登記事項証明書を取ります。名義が亡くなった人のままなら、その相続人が持ち主です。男性の場合、登記は亡くなった女性の名義のままで、相続登記はされていませんでした。近所の人から息子さんの名前は聞けましたが、住所が分からない。ここで二つ目の「居場所が分からない」に当たるとして切ってしまうのは、早すぎます。居場所を探す手を尽くしたかが問われるからです。登記の住所に手紙を出す、近所の人や町内会に聞く、といった手を先に打ちます。

男性は、町内会長を通じて息子さんの連絡先を聞きました。連絡先が分かったので、催告の手紙を内容証明郵便で送りました。書いたのは、越境している枝の場所と長さ(写真を同封)、切ってほしいこと、期限(2週間後の日付)、期限までに切られなければ233条3項1号に基づいてこちらで越境した部分を切ること、そしてそのときの費用の扱いです。内容証明にしたのは、いつ、何を求めたかを、あとで証明できるようにするためです。普通の手紙でも催告にはなりますが、相手に「受け取っていない」と言われたときに困ります。費用を誰が持つかは条文に書かれていないので、ここを先に手紙で示しておくと、あとのもめごとが減ります。

期限が来ても、返事はありませんでした。男性は植木屋さんに催告の手紙の写しを見せ、越境している部分だけを切ってもらいました。切るときの注意は三つです。一つ、切ってよいのは境界線を越えた部分だけで、幹や越境していない枝まで切ると、損害賠償を求められるおそれがあります。二つ、境界線がどこか分からないときは、境界標の記事を見て、杭やプレートを先に確かめます。三つ、切るために隣の土地に入る必要があるなら、民法209条で必要な範囲で隣の土地を使えますが、あらかじめ目的・日時・場所・方法を隣に知らせます(209条3項。住んでいる家の中には、住む人の承諾なしに入れません)。

お金です。男性の場合、植木屋さんの作業が税込2万2,000円、切った枝と実の処分が税込5,500円、内容証明郵便の郵便代が1,420円(定形郵便110円、一般書留480円、内容証明1枚480円、配達証明350円。2026年10月時点)で、合計2万8,920円でした。手紙に「作業と処分の費用は半分ずつお願いしたい」と書いていたところ、後日、息子さんから電話があり、半分の1万3,750円を振り込んでもらえました。男性の負担は1万5,170円です。

柿の枝を切るのにかかったお金(この家の例、税込)
項目金額
植木屋さんの作業22,000円
枝と実の処分5,500円
内容証明郵便(書留・配達証明つき)1,420円
合計28,920円
息子さんが払った半分(作業と処分)マイナス13,750円
男性の負担15,170円

持ち主が亡くなり、相続登記がされていない土地の木は、持ち主を探すところで止まりがちです。2024年4月から相続登記が義務になり、名義が新しくなる土地が増えれば、催告の相手も見つけやすくなります。それでも見つからないときに、二つ目の「持ち主や居場所が分からない」が使えます。木ではなく、建物や塀が境界を越えている場合の話は、越境の記事に書きました。

根を切るときにも注意があります。根は催告なしに切れますが、太い根を切ると木が傾いたり枯れたりして、かえって隣の家や塀に被害が出ることがあります。切る前に植木屋さんに木への影響を見てもらい、隣に一言伝えておくのが無難です。切った枝の処分の仕方も条文には書かれていないので、催告の手紙に「切った枝はこちらで処分します」と書いておくと、あとで「返してほしかった」と言われずに済みます。

逆の立場も書いておきます。自分の木が隣に越境しているとき、催告を受けて相当の期間内に切らなければ、隣が切ることになり、その費用を求められることもあります。空き家を相続した人は、年に一度、境界ぎわの木を見て回るだけでも、こうしたもめごとの多くを先に防げます。遠くに住んでいるなら、隣の人に連絡先を伝えておくと、催告の手紙が届く先ができます。

翌年の秋、柿の実は車に落ちなくなりました。男性は「法律が変わったのを知らなければ、今年も我慢していました」と言いました。切れるようになったのは、越境した部分だけで、切る前に手紙を一通出すという順番は変わりません。その一通が、隣とのつきあいを壊さずに枝を切る、いちばん安い道具です。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-17

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

参考(公式)

この記事の制度と数字は、次の一次情報で確かめられます(2026-10-17 確認)。

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