土地・不動産 2026-09-09

市街地再開発と区分所有 ― 古いマンションと駅前の建物が、建て替わる仕組み

築50年のマンション、駅前の古い商店街。これらが建て替わるには、所有者の多数決と、権利を新しい建物に移す仕組みが要ります。マンションなら区分所有法の建替え決議(2026年施行の改正で要件が緩和)、駅前なら都市再開発法の市街地再開発事業(権利変換で従前の資産を新しい床に置き換える)。それぞれの流れ、反対した人の扱い、相続した古いマンションを持つ人が知っておくことを整理します。

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この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → [貸す・借りる・特殊な権利]

築52年のマンションの一室を相続した女性に、管理組合から封筒が届きました。「建替え決議のお知らせ」。総会は三か月後、賛成すれば新しい建物の一室に権利が変わり、反対すれば時価で買い取られる。女性は「相続したばかりで、住んでもいないのに、決めないといけないんですか」。決めないといけません。そして、決める前に、相続登記が済んでいるかを聞きました。済んでいませんでした。この記事は、その三か月の話です。

マンションの記事で、相続した古いマンションの管理と売却の話を書きました。この記事は、その先、「建て替わる」場面の仕組みです。一戸建ては所有者一人の判断で建て替えられますが、マンションと駅前の建物は、所有者が何十人、何百人といて、全員の同意は取れません。多数決で建て替え、反対した人の権利をどう扱うか。その仕組みが、区分所有法の建替え決議と、都市再開発法の市街地再開発事業です。

マンションの建替えから書きます。区分所有法では、マンションの建替えは、区分所有者と議決権の各5分の4以上の賛成で決議できる、とされてきました。ただ、所在不明の所有者や、高齢で判断できない所有者、相続登記がされないまま放置された住戸が増えて、5分の4に届かないマンションが多くなりました。そこで2025年に区分所有法が改正され、2026年4月から、建替え決議の要件が「出席者の4分の3以上」(所在不明の所有者は分母から除く仕組みと合わせて)に緩和されました。耐震性不足や外壁の剥落など客観的な事由がある場合は、さらに緩い要件で決議できます。改正の細部は施行後の運用を見る必要がありますが、方向は「決議しやすく」です。

決議のあとの流れです。建替え決議が成立すると、賛成した所有者は建替えに参加し、反対した所有者に対しては「売渡し請求」ができます。反対者は、時価で自分の住戸を買い取られ、マンションから出ることになります。参加する所有者は、建替組合を作り、事業者(デベロッパー)と組んで、新しい建物を建てます。多くの建替えでは、容積率に余裕があれば新しい建物の戸数を増やし、増えた分を分譲して建築費に充てる(保留床)ことで、所有者の負担を減らします。容積率に余裕がなく、増やせないマンションは、所有者の負担が大きく、建替えが進みにくい。用途地域の記事で書いた容積率が、ここで効いてきます。

駅前の商店街や古い建物が一体で建て替わるのが、市街地再開発事業です。都市再開発法に基づき、市街地再開発組合や自治体、再開発会社が施行者になって、複数の土地と建物をまとめて、新しい建物(再開発ビル)と公共施設(道路、広場)を整備します。中心の仕組みが「権利変換」です。従前の土地と建物の所有者は、その資産の評価額に応じて、新しい建物の床(権利床)と敷地の共有持分を受け取ります。土地を売るのではなく、権利を新しい建物の中に置き換える。だから「変換」です。新しい建物の床のうち、権利床以外の部分(保留床)を分譲やテナントで処分して、事業費に充てます。

反対した人の扱いは、区分所有法と似ています。第一種市街地再開発事業では、組合の設立に土地所有者と借地権者の各3分の2以上の同意が要り、設立されれば、反対した人も事業の対象になります。権利変換を望まない人は、金銭で補償を受けて転出することを申し出ることができます。権利変換の内容(どの床をいくら分もらえるか)に不服があれば、審査の手続きと訴えの道があります。事業は、都市計画の決定から完成まで10年以上かかることが普通で、その間、所有者は仮住まいや仮店舗で過ごすことになります。

マンション建替えと市街地再開発の比較(2026年9月時点)
マンション建替え(区分所有法)市街地再開発事業(都市再開発法)
対象一棟のマンション駅前などの複数の土地・建物を一体で
決議・同意建替え決議(2026年4月施行の改正で出席者の3/4以上など)組合設立に所有者・借地権者の各2/3以上
権利の移し方建替組合に参加、新しい住戸を取得権利変換(従前資産→新しい建物の床と敷地持分)
反対した人売渡し請求(時価で買取り)金銭補償で転出を申し出られる
事業費保留床の分譲で賄う(容積率に余裕があれば)保留床の処分+公的補助
期間決議から完成まで数年都市計画決定から10年以上が普通

相続した古いマンションや、駅前の古い建物を持つ人にとっての実務を書きます。一つ、管理組合の総会の議事録と、建替えや大規模修繕の検討状況を確認する。建替えの検討が始まっているマンションは、その進み具合で価値が大きく変わります。二つ、再開発の都市計画が決定されている、または準備組合ができている地区かを、市町村の都市計画課で確認する。重要事項説明の記事で書いた説明書に、都市計画の決定があれば記載されます。三つ、所在不明や相続登記未了の住戸が多いマンションは、決議に届かず建替えが止まりやすいので、自分の住戸の相続登記を済ませておく。相続登記の義務化の記事で書いた義務は、マンションの建替えを止めないためでもあります。

順に書きます。まず、相続登記。決議に参加するのは区分所有者で、登記名義が亡くなった父のままでは、女性は議決権を行使できません。法定相続情報一覧図と協議書を整え、専有部分の相続登記を本人申請で、三週間。登録免許税は建物と敷地権の評価額合計410万円の0.4%で1万6,400円。次に、建替えの内容。管理組合の説明会で配られた資料では、容積率に余裕があり、現在の48戸を72戸に増やして、24戸を保留床として分譲する計画。所有者の負担は、一室あたり平均約900万円。女性の一室(3DK、55平米)は、新しい建物の同等の広さの部屋と、負担金約850万円で権利が変わる。

女性は、反対して売渡し請求を受ける道も検討しました。時価は、築52年で建替え前の状態として、不動産会社の査定で約1,100万円。参加すれば、850万円を払って、完成後に新築のマンションの一室(周辺の新築の相場で約3,800万円)を持つ。反対すれば、1,100万円を受け取って終わり。女性は住む予定がなく、850万円を借りる余裕もない。ただ、参加して完成後に売れば、3,800万円から850万円を引いて約2,950万円、反対して1,100万円を受け取るより1,850万円多い。完成までは四年。女性は、参加して完成後に売ることを選び、負担金は父の預金から出しました。

決議の結果も書きます。48戸のうち、所在不明の所有者が3戸、相続登記未了で議決権を行使できない住戸が2戸。2026年4月施行の改正で、所在不明の3戸は分母から除かれ、45戸のうち出席39戸、賛成34戸で、出席者の4分の3(29.25戸)を超えて可決。改正前の「全体の5分の4(38.4戸)」なら、賛成34戸では否決でした。相続登記未了の2戸は、賛成にも反対にも数えられていない。女性が三週間で登記を済ませたのは、この一票のためでもありました。

建替えも再開発も、一人では動かせず、動き出せば一人では止められない仕組みです。相続した住戸や店舗が、その仕組みの中のどこにあるかを知っておく。それが、古い建物を相続した人の、最初にすべき確認です。

「相続したばかりで、決めないといけないのか」の答えは、決めないといけない、でした。女性は登記を済ませ、参加に賛成し、四年後に売る予定でいます。「所在不明や相続登記未了の住戸が多いマンションは、決議に届かず止まりやすい」と本文に書きました。このマンションは、改正後の要件で、5戸の空白を抱えたまま、可決しました。女性の一票は、その5戸に入らずに済んだ一票です。

執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-09-16

この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。

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