土地・不動産 2026-09-09
マンションを相続したら ― 敷地権の登記、滞納管理費の承継、2024年から変わった評価
マンション(区分所有建物)の相続は、一戸建てと違う点が三つあります。建物と土地の持分が一体の「敷地権」として登記されること、前の所有者の管理費・修繕積立金の滞納を引き継ぐこと、そして2024年1月から相続税評価の計算方法が変わったこと。管理組合への届出、空室のコスト、売る・貸す・住むの判断も含めて整理します。
この記事の位置: まず読む:値段と書類の読み方 → 買う前に確認すること → 建てられるか・どれだけ建つか → 境界・隣地・道 → 災害と地盤 → 持っている間:税金と登記 → 売るとき → [貸す・借りる・特殊な権利]
母のマンションを相続した女性が、管理会社からの手紙を持って来ました。「管理費・修繕積立金の未納 38万円」。母は施設に入って二年、口座の残高が減って引き落としが止まっていたのを、誰も気づいていませんでした。「母の借金ですよね。放棄すれば払わなくていいですか」。放棄すれば払わなくてよい。ただ、マンションも手放すことになる。マンションの査定は2,300万円でした。38万円のために2,300万円を手放す人はいません。この記事は、その手紙から始まる、一戸建てとは違う三つの話です。
親のマンションを相続した。一戸建てと同じように相続登記をすればいい、と思われがちですが、マンションには区分所有建物ならではの点が三つあります。登記の形、管理費の承継、評価の方法です。順に書きます。
| 一戸建て | マンション(区分所有) | |
|---|---|---|
| 相続登記 | 土地と建物を別々に申請 | 専有部分の申請で敷地権も一緒に移る(敷地権化されている場合) |
| 引き継ぐ債務 | 固定資産税など | 固定資産税+滞納していた管理費・修繕積立金 |
| 毎月のコスト | 固定資産税・維持費 | 管理費・修繕積立金(空室でもかかる) |
| 相続税評価 | 建物は評価額、土地は路線価 | 同じ。ただし2024年から市場価格の6割まで引き上げる調整あり |
| 空き家の3,000万円特別控除 | 1981年5月以前の建物なら対象 | 対象外 |
一つ目、登記の形です。マンションの一室は「専有部分」として建物の登記があり、土地は所有者全員の共有で、その持分が「敷地権」として建物の登記と一体になっています(1983年の区分所有法改正以降のマンションはほぼこの形です)。相続登記は建物の専有部分について申請すれば、敷地権も一緒に移ります。土地と建物を別々に申請する一戸建てより、この点は簡単です。ただし古いマンションでは敷地権化されておらず、土地の共有持分を別に登記する必要がある場合があるので、登記事項証明書で「敷地権の表示」があるかを確認してください。
二つ目、管理費と修繕積立金です。亡くなった人が滞納していた管理費・修繕積立金は、相続人が引き継ぎます。相続人は、亡くなった人の借金や未払い金をそのまま引き継ぐ立場だからです。そのうえ区分所有法(8条)で、管理費の滞納は部屋を買った人(「特定承継人」と呼びます)にも請求できると定められているので、売っても滞納は消えません。相続の相談で、通帳の引き落としが止まっていて数十万円の滞納が見つかる例は珍しくありません。相続後は、管理組合に所有者変更の届出を出し、引き落とし口座を変更します。空室のままでも管理費と修繕積立金は毎月かかり続けるので、住まないなら早めに売る・貸すの判断が要ります。
相続したあとに管理組合との間でやること
- 相続直後 管理会社・管理組合へ連絡(滞納の有無を確認。引き落とし口座の変更)
- 相続登記後 所有者変更の届出(登記事項証明書の写しを添えることが多い)
- 売る・貸す前 管理規約・長期修繕計画を取り寄せる(ペット・民泊・リフォームの制限、積立金の不足)
三つ目、評価です。相続税では、建物部分は固定資産税評価額、敷地部分は路線価×敷地全体の面積×持分で評価します。ここに、2024年1月1日以降の相続から新しい計算が加わりました。マンションは市場価格と相続税評価額の差が大きく(特にタワーマンションの高層階)、その乖離を利用した節税が問題になったため、築年数・階数・総階数・敷地持分などから「評価乖離率」を計算し、評価額が市場価格の6割を下回る場合には6割まで引き上げる、というルールです。「マンションは評価が低いから相続税が安い」は、2024年からは以前ほど成り立ちません。具体的な計算は税理士の領域です。
管理組合との関係で、もう一つ。相続後に売却する場合、買主への引き渡し時に管理費を日割りで精算します。また、管理規約でペットや民泊、リフォームに制限があることが多く、貸す場合はその制限が借主にも及びます。売る・貸す前に、管理規約と長期修繕計画を管理会社から取り寄せて読んでください。修繕積立金が計画に対して不足しているマンションは、将来の一時金や値上げが見込まれ、売却価格にも影響します。
住む・貸す・売るの判断は、一戸建てと同じく「相続から3年目の年末」を意識します。亡くなった親が一人で住んでいたマンションを売る場合、空き家の3,000万円特別控除は、1981年5月31日以前に建築されたマンションには使えません(区分所有建物は対象外です)。この点は一戸建てと違います。代わりに、相続税を払っていれば取得費加算の特例(3年10か月以内)が使えます。
順に片づけました。一つ目、滞納の38万円。相続人は女性一人なので、女性が承継します。管理組合に相続の連絡をし、所有者変更の届出と一緒に、38万円を一括で納めました。その月から引き落とし口座を女性のものに変更。管理費と修繕積立金は合わせて月2万9,000円で、空室でも毎月かかります。売るまでの半年で17万4,000円。この金額を見て、女性は「早く売る」と決めました。
二つ目、登記。登記事項証明書を取ると「敷地権の表示」があり、1998年築の敷地権付きマンションでした。相続登記は専有部分の申請一回で、敷地権も一緒に移ります。登録免許税は、建物の固定資産税評価額380万円と、土地の評価額(敷地全体の評価額×持分)210万円の合計590万円の0.4%で2万3,600円。本人申請で、補正なしで完了。一戸建てなら土地と建物の二件分の記載が要るところ、マンションはこの点だけ簡単です。
三つ目、税金。相続税の評価は、建物380万円と敷地210万円の合計590万円が出発点ですが、2024年からの評価乖離率の計算で、市場価格2,300万円の6割、1,380万円まで引き上げられました(実際の計算は査定額ではなく、築年数や階数から出す乖離率を使うので、ちょうど6割になるとは限りません。ここでは目安として6割で書きます)。財産は他に預金600万円で、合計約1,980万円。相続人一人で基礎控除3,600万円の中なので、相続税はかからず、申告も不要。ただ、2023年以前の評価なら590万円だったところが、2024年からは1,380万円になる。この家では基礎控除の中でしたが、預金が2,500万円あれば、旧評価では合計3,090万円で非課税、新評価では合計3,880万円で課税、という違いが出ていました。売却は、母が一人で住んでいた家でも、区分所有建物なので空き家の3,000万円控除は使えません。1998年築なので、そもそも1981年以前の要件も外れます。売却益は、取得費(母の購入時の契約書が残っていて3,100万円。正確には、建物の分は年数に応じた値下がり分=減価償却費を引いて比べます)を下回る2,300万円での売却で、この家では減価償却費を引いたあとの取得費も売値を上回ったので、譲渡所得はゼロ、税金もゼロでした。
最後に、相続登記の義務化はマンションにも適用されます。専有部分の相続登記を3年以内に。敷地権付きなら一回の申請で済み、登録免許税は建物の評価額と敷地の評価額(土地の評価額×持分)の合計に0.4パーセントです。固定資産税の課税明細書に、建物と土地(持分)の両方の評価額が載っているので、そこから概算できます。
38万円の手紙を持って来た女性は、半年後にマンションを2,300万円で売り、仲介手数料(税込で約82万円)と、管理費の半年分17万4,000円、滞納分38万円を差し引いても、手元に約2,160万円が残りました。放棄していれば、ゼロです。「マンションの一室には三つの点がある」と冒頭に書きました。滞納の承継、敷地権の登記、評価の新ルール。この家では、三つとも出てきて、どれも一戸建ての相続とは違う答えでした。
執筆:長澤 湊(宅地建物取引士・行政書士・測量士補) 内容確認日:2026-10-05
この記事は制度と手続きの一般的な説明で、個別の事案についての法律・税務の相談や判断ではありません。制度や数字は内容確認日の時点のものです。ご自身の事案は、弁護士・司法書士・税理士・行政書士など、該当する専門家に確かめてください。